「ここから少し行ったところに集まっています!」

「よしっ! ここからは歩きで行こう」

 攻め込んで来た盗賊たちを返り討ちにし、レオたちは逃げる盗賊を放置した。
 それも作戦の内で、逃げた盗賊たちにはレオの小型蜘蛛型の人形が付けられていた。
 それを目安にして、盗賊たちのアジトの付近まできたことを察知したレオは、ファウストに言って馬を止めさせる。
 ここからは音をなるべく立てずに近付き、気付かれずに盗賊たちのアジトを包囲するためだ。
 兵たちには、ファウストが追跡用の魔道具を使っているということになっている。
 しかし、そんな魔道具はないので、兵たちの間ではそんなのが開発されたのかと驚きの声が上がっていた。

「こっちは馬小屋だと思います。こっちに集まっているのは、怪我人かもしれないですね」

 盗賊のアジトの方へ体を向け、レオは少しの間目を閉じて集中する。
 その行為が何をしているのかはファウストには分からない。
 ドナートとヴィートも同様だ。
 そして目を開けたレオが紙に描いたのが、大雑把な小型蜘蛛の配置だった。
 小型蜘蛛は3ヵ所に分かれて固まっているように思える。
 その3ヵ所の内、離れた所に集まっているのは馬小屋で、全く動かないのが集まっている所が負傷者を収容する場所なのだと判断した。

「……判別もできるのか?」

「離れていると分かりませんが、ある程度の距離まで近付けば予想はできますね」

 敵の居場所を分かるだけでもなく、盗賊の配置まで分かってしまうことに、ファウストは驚きを通り越して呆れるように問いかける。
 それに対し、レオは距離次第と答えを返す。
 人形の素材によって探知できる感覚が僅かに違う。
 レオは僅かに素材の違う3種類の小型蜘蛛を使い、馬、怪我人、無傷の3つに分けられるようにしておいた。
 それによって、今回は見事に3ヵ所に分かれたので判断できただけだ。

「じゃあ、ここに集まっているのが抵抗の恐れのある盗賊たちだな?」

「はいっ! ただ、あくまでも予想の範囲なので、注意をしてください!」

「分かった!」

 ある一定の範囲内を動きまわっていることを考えると、そこが無事にアジトまで逃れてきた者たちなのだと考えられる。
 つまり、包囲されたと分かれば抵抗してくる可能性のある者たちだ。

「……付けた小型蜘蛛は探知されないのか?」

「大丈夫だと思います。小型にしたのは少ない魔力で行動させるためですから」

 ここまでの事が分かれば、後はアジトを包囲するタイミング次第。
 そこでファウストがふと考えたのは、小型蜘蛛たちが発見されないかということだ。
 もしも気付かれれば作戦失敗も考えられるため、確認のためにもレオに尋ねた。
 レオはその心配はしていない。
 付けた人形は小型のため、動くことにたいした魔力を消費しない。
 探知の鋭い人間でも、ただの蜘蛛と差が無いため気付くことはないはずだ。

「よしっ! じゃあ兵たちに説明しにいこう!」

「はい!」

 レオとの会話によって情報を得たファウストは、兵たちに説明しに向かった。
 そしてその情報の説明の後、アジトへ攻め込むための作戦も話し合うことになった。





◆◆◆◆◆

「くそっ!! 何なんだよ!? あの機械人形は!!」

「あんなの準備してたから兵を減らしていたのか……」

「全くの想定外だ」

 レオたちがアジトの側まで来ているとは知らず、盗賊たちは荒れていた。
 多くの仲間が死に、一歩間違えれば自分が死んでしまったかもしれないという恐怖から逃れるため、酒を飲んで眠ってしまっている者も少なからずいる。
 さすがに喧嘩をする者はいないが、ピリピリした空気が流れているのはたしかだ。
 そんな中、それぞれのエリアを担当しているトップたちは、今後のことを話し合うために集まっていたが、彼らも今回の失敗でイラついているようだ。

「デジデリオ!! てめえの策に乗ったから部下が減っちまったんだろうが!!」

「どうしてくれるんだ!?」

「どんなのかは分からないが罠があるのは最初に言っただろう。大体俺の止める言葉を無視したのはお前らだろ?」

 ビパドゥレとオアラレの担当のトップは、我先にと突っ込んで行ったため、多くの部下たちが人形の攻撃によって減ってしまった。
 その怒りを、今回の策を持ち掛けたデジデリオへぶつける。
 しかし、彼らの言い分は話にならない。
 罠があるということは告げていてたし、人形の動きに違和感を感じた時、デジデリオが止めたにもかかわらず突っ込んで行ったのは彼ら自身の判断ミスだ。

「……くそがっ!! これからどうすんだよ!?」

「スポンサー様に報告できねえじゃねえか!」

 指示通りの成果を出していれば、とりあえず飯と寝床の心配はいらない。
 しかも何かを盗めればそれを自由にしていいという破格の待遇。
 元々この盗賊団は、あの仮面をつけたスポンサーによって色々な町のスラムから連れて来られた人間だ。
 強制奴隷として絶対服従の状態にされたといっても、飯と寝床に困っていた昔に比べれば天国のように思える。
 しかし、今回の失敗で役に立たないと判断されれば、スポンサーの気分次第で始末される可能性もある。
 何とかしてすぐにでも名誉挽回をしないとならなくなった。

「……あの人形は危険だ。こっちは怪我してもあっちは人形が故障した程度にしかならない。カスタルデは一旦見送り、まだ可能性のある村のどっちかを奪取するしかない」

 罠があるとは分かってはいたが、あれほどのものだとは思いもよらなかった。
 どんな細工がされているのかは分からないが、あんなの相手に勝つには、人数で勝るしかない。
 その人数が減った今では、もう一度相手になんて出来る訳がない。
 痛みを感じない不気味な人形相手に戦うよりも、数が不利でも人間を相手に戦った方が可能性はある気がする。
 そのため、デジデリオはビパドゥレ、もしくはオアラレの村を攻めることを提案した。

「村を取れば俺たちは解放されんだよな?」

「……そういった約束だっただろ?」

 彼らが強制奴隷を受け入れて奴隷に身を落としたのには、スポンサーとの契約があったからだ。
 それぞれが任されたエリアを壊滅出来たら、そこに自分たちの村を作っていいという了承をスポンサーから得ている。
 更に援助もしてくれるとのことだ。
 村壊滅の褒賞として、奴隷からの解放も約束してくれている。
 どちらかの村だけでも壊滅にできれば、カスタルデの町の失敗ももしかしたらチャラになるかもしれないと、ここにいる3人は淡い期待を抱いていた。

「火事だ!!」

「何っ!?」

 数分後に彼らの期待は崩れ去る。
 この火事が起きた時点でもう遅かったのだ。





◆◆◆◆◆


「みんなご苦労様! 中で休んでいてね!」

 煙が上がり、ようやく盗賊たちが気付いた時には、アジトの建物には火災が広がっていた。
 それをおこなった小型蜘蛛たちに労いの言葉をかけ、レオは魔法の指輪に収納した。

「まさか脱出時に火をつけてくるおまけ付きとはな……」

 建物に火をつけた小型蜘蛛を収納したレオを見て、ファウストはまたも呆れるように呟いていた。
 夜になり、暗闇を利用して音を立てずに盗賊のアジトを包囲したレオと兵たち。
 盗賊たちの殲滅のためにレオたちが取った策は、突然の火災により建物から慌てて逃げ出してきた者を捕縛、もしくは始末するというものだった。
 その火災原因は、レオの所に戻る時に小型蜘蛛人形たちが魔法で小さな火をつけたことによるものだ。
 馬や怪我人は兵が担当し、逃げ出してきた者を相手にするのはまたも装備人形たちだ。
 追っ手は撒いたと思っていた盗賊からしたら、仲間を殺しまくった人形との再会で地獄のように思えることだろう。

「くそがっ!!」

「やりやがったな!!」

「お前らどうやって!?」

 酒も飲まずに話し合っていたのが功を奏したのか、それぞれのエリアを任されているデジデリオたちトップの3人はたいした被害を受けることなく建物から飛び出してきた。
 しかも、上に立つのは伊達ではないらしく、武器もしっかりと持っている。
 敵による襲撃だと咄嗟に判断したようだ。

「答えるわけねえだろ?」

「ふざける…ガッ!!」

 どうやってこのアジトを見つけたのかデジデリオが問いかけるが、ファウストは相手にしない。
 その態度に切れたビパドゥレ担当の男は、剣を片手にファウストへと斬りかかろうとした。
 しかし、数歩近付いただけで横から飛んできた矢によって脳天を撃ち抜かれて息絶える。

「あ、あの人形……」

「昼間の……」

 矢が飛んできた方角にいたのは、弓を構えた人形。
 昼間に多くの馬と人を殺した弓兵人形だ。
 それを見たデジデリオたちは、予想通り顔を青くした。

「俺たちは人に殺される価値もないって言いたいのか?」

「盗賊なんてやってんだから当然だろ?」

「くそー!!」

 オアラレ担当の男は、僅かながら武をかじった経験がある。
 せめて死ぬときは、実力者相手に斬り合ったすえ、惜しくも負けたというのを理想としていた。
 しかし、目の前にいるのは機械仕掛けの人形。
 何の感情も持たない者に殺されるのかと思うと、悔しさが込み上げてきた。
 そんなことは知らず、死に場所を選ぶ資格は無いとばかりにファウストは突き放つ。
 その態度に我慢できなくなったオアラレ担当の男は、人形たちへ剣で斬りかかった。

「っ!! ぐあっ!!」

 2体の盾兵に挟まれるように動きを止められ、次の瞬間には槍兵の槍が男の体の数か所に風穴を開けていた。
 昼間と同じく意思疎通は完璧。
 とても1人で立ち向かう相手ではない。

「お前はどうする? 大人しく捕まるか? それとも……」

「…………あぁ、死ぬよりましだ」

 続きの言葉を分かるだろうと、ファウストは転がった2人の死体を指差す。
 少しでも動けば弓兵の矢。
 それを躱しても、連携完璧な大勢の歩兵たち。
 ファウストの投降勧告に、デジデリオは抵抗のしようが無いと判断して武器を捨て、両手を上げて降参のポーズをとった。

「どうやら他も終了したみたいだね」

 盗賊のアジトは火災で崩れ去り、慌てて出てきた者たちは人形たちによって捕縛、もしくは始末された。
 捕縛した怪我や火傷を負った盗賊たちを、持ってきていた牢付き馬車に詰め込み、全員カスタルデの町へと運ぶことにした。
 前回のことを考慮に入れ、奴隷紋の解除をおこなってからもう一度強制奴隷にして尋問することになるだろう。
 これで盗賊壊滅が完了したことに安堵し、レオは頑張った人形たちを魔法の指輪に収納していったのだった。