「来ると思うか?」

「来てもおかしくないんじゃないですかね……」

 潜入者を捕まえたからか、盗賊はなかなか攻めてこない。
 このカスタルデの町だけでなく、他の村でも同様のようだ。
 いつでも出撃できるように、町の防壁付近にある兵たちの駐屯エリアに待機しながら、レオはドナートとヴィートと共に盗賊たちの行動を予測していた。
 そこでドナートに対するレオの答えはこれだった。
 潜入者からの連絡も途絶え、どんな罠かも分からない所に攻め入るということは普通に考えれば中止、もしくは罠が何かを分かるまで放置するのが得策だ。
 他の2つの村の潜入者も捜索に当たっているという話だし、盗賊が攻め入る機会はどんどんなくなっていっているはず。
 このまま攻め入らなければ、南北を分断する巨大河川の開通を許してしまう。
 そうなれば、これまでの襲撃も意味を成さなくなってしまう。
 最後にもう一度攻め込んで、町を兵ごと壊滅しようと考える可能性があるとレオは踏んでいた。

「僕が思うに、どこか1ヵ所に絞ってくるかもしれないですね」

「そう思う理由は?」

「盗賊側からすると、どこも同じ位攻めづらくなりました。ならどこか1つに戦力を絞るのも策としてあり得ます」

 レオの考えに、ヴィートが問いかける。
 総勢2600人程の盗賊団なら、最初からどこか1つに狙いを付けて攻め入れば兵も抑えきれずに潰されていただろう。
 唯一ここカスタルデは王都から近い分、王都の兵が出張ってくる可能性があった。
 ならば他の2つの村のどちらかを先に手に入れるという策も取れる。
 そうしなかったのは、やはり領地目的よりもメルクリオへの痛手を負わせるのが狙いなのかもしれない。
 分散させて3ヵ所を攻め入り、被害を負わせ、兵を動員させて経済的打撃を与える。
 面倒くさい上に利益なんて何も無いような戦いをしているように思えるが、確かにメルクリオへは打撃を与えたといってもいいかもしれない。

「どこかって、どこだ?」

「王都に近い重要な土地。潰されてメルクリオ様が一番痛手なここです」

 最後にもう1撃加えるとするなら、1番痛手を与えられるところ。
 そう考えると、このカスタルデの町を攻めるという選択が可能性として高いというのがレオの予想だ。

「「なるほど……」」

「あくまで予想ですけどね……」

 レオの発言に対し、納得する2人。
 しかし、これはあくまでも予想。
 敵の狙いも完全に把握している訳でもないので、外れる可能性だってある。
 一番いいのは、このままどこにも攻めてこないまま分断作業が終わることだ。

「ここにいた2000の兵は他の2つに分散させたんだよな?」

「はい」

 セラフィーノに兵を退いていいといったが、そのまま帰ってもらっては困る。
 盗賊がカスタルデの町へ攻め入るためのお膳立てとして、半分ずつ他の2つの村へ向かってもらうことにした。
 2つの村には1500ずつの兵がいることから、そこに1000人加わって2500人。
 そこに若い村人も協力してくれているということを考えると、盗賊とはほぼ同数。
 訓練された兵の方が対人戦闘に置いて有利に戦える事を考えると、数は同じでも村の守備の方が強固といっていい。
 もしもここ以外に一点集中されても、守り切ることができるはずだ。

「罠はあるが一番手薄。確かに俺でも狙うのはここかもな……」

 2000の兵がいなくなり、数ではこのカスタルデが一番少ない1000人だ。
 罠があるにしても、2000人分の代わりになるような罠なんてまずありえない。
 水責めなどの地形を利用した策も考えにくいことを考えると、盗賊が攻めるのはここしかないだろうとドナートも思うようになっていた。

「本当に大丈夫か? あれ(・・)を試すのは今回が初なんだろ?」

「動作確認は成功してあるので大丈夫です」

 今回レオが使用する人形はこの年月で強化された特別製で、島でのお披露目もされていない。
 どんな人形なのかは、ドナートとヴィートも説明を受けているので分かっているが、実戦戦闘でどれほど成果を発揮するかが気がかりだ。
 ヴィートの言うように心配になるのも分からなくもない。
 レオも僅かな不安もなくはないが、動作確認はしてあるのでまず間違いなく使えるはずだ。





「盗賊らしき集団を確認しました!!」

「「「っ!!」」」

 レオたちが話終わり、少しすると防壁の上にいる見張り役から大きな声が聞こえてきた。
 それによって多くの兵が武器を手に集まりだした。
 それに遅れまいと、レオたちも駐屯エリアから盗賊の向かって来る方角へ足を進めた。

「敵の規模は?」

「これまで以上の数です! 恐らく全員こちらへ送り込んで来たものかと思われます!」

 攻めてきたのは分かったが、問題は敵の規模。
 レオがセラフィーノにそのことを問いかけると、帰ってきたのはレオの予想通り全軍率いての一点攻撃を狙ってきたようだ。

「予想的中だな……」

「当たって欲しくなかったですけどね」

 話していた内容通りの事態に、ドナートはレオへと呟く。
 しかし、言葉通り当たって欲しくない事態だ。
 絶対などと慢心する人間は上に立つ器ではない。
 どんなに綿密に立てた策も、どこから綻びるか分からないため、レオとしてはこのまま盗賊が来ないまま南北を分断できるのが一番良かった。

「レオ…ポルド様! 行きましょう!」

「はいっ!」

 言いなれないせいか、ファウストはまたもいつも通りに呼びそうになっていた。
 そんなことを気にしている暇もなく、レオはファウストと共に先頭で出陣する。
 レオのスキルだと気付かれないように、人形はファウストの物で、それを魔法の指輪を持つレオが運び役というように兵たちには知らされている。
 今回レオは戦闘の初陣を飾るのも目的と伝えられているため、兵たちも参戦を不思議に思っていないようだ。

「ここら辺でいいだろう。レオ! 頼むぞ!」

「はい!」

 ここでぶつかり合えば町に被害が及ぶことはないだろう。
 町から少し離れた位置で止まったファウストは、兵たちに聞こえないようにレオへと合図を送る。
 その合図を受けたレオは、魔法の指輪から大量の人形たちを出現させた。
 魔法の指輪に収納できるならファウストの魔法の指輪でも良いと思う所だが、実験の結果、収納できるのはレオに使用権限がある魔法の指輪でしか出来なかった。
 考えられるのは、魔力の親和性。
 レオの魔力にしか反応しない魔法の指輪だから、レオの魔力で動く人形も収納できるのかもしれない。
 ただ、これは起動状態の人形の収納だけであり、起動していない人形なら他人の魔法の指輪でも収納可能だ。
 咄嗟の時のことを考えると、起動状態の収納じゃないと意味がないため、レオも前線へと出ないとならないのだ。

「何だ?」「人形?」

 少し離れた後方で待機する兵たちは、レオの出した人形を見て驚きの声を漏らしている。
 それもそのはず、今回の戦いで特別な兵器を投入するという話を聞いていたところで、出てきたのが人形だったからだ。

「弓兵! 向かって来る盗賊の馬に矢を構え!」

 ファウストの指示に従い、弓を持つ人形たちが矢をつがえ、向かって来る盗賊たちに狙いをつける。
 レオから今回の戦いではファウストの指示に従うように言ってあるので、人形たちは問題なく行動している。
 これならレオのスキルだと気付かれることはないだろう。

「放て!!」

 ファウストの指示に従う人形を見て、セラフィーノの部下たちは声に出さずに驚いているが、そんなの気にしている場合ではない。
 盗賊の討伐の開始として、人形たちの矢が盗賊たちへと降り注いでいった。

「盾兵、剣兵、槍兵は連携して落ちた敵を討ち倒せ!!」

 多くの馬がやられ、盗賊たちは地面へと落とされて行く。
 矢が当たらなかった馬も、驚いて乗っている人間を振り落としている。
 それでも落ちなかった者もいるが、怯えた馬は指示に従わず、降りて戦うしかなくなった。
 それを見たファウストは次なる指示を人形兵に与える。
 指示に従い、人形たちは盗賊たちへと襲い掛かっていった。