「ジェロニモ様!!」
「……うっ、…………」
レオの攻撃によって腹を斬り裂かれ大量出血したジェロニモは、薄く目を開いたままコルラードの問いかけに僅かにしか反応しない。
辛うじて息をしているが、それも風前灯といった状況だろう。
「すぐに回復薬を……」
出血が止まらない様子を見て、コルラードは応急処置を施そうと回復薬のビンを取り出す。
コルラードは両手に指輪をしておらず、イメルダたちとの戦闘で自分も怪我をしているというのに使っていない所を見ると、回復薬はその1つだけだろう。
「そんな傷を治せる回復薬なんてある訳ない」
「黙れ!!」
どんな回復薬も、一瞬で何でも治してしまえるものではない。
エリクサーと呼ばれる万能薬なら何とかなるだろうが、それも想像上の産物と言われている。
もう何をしようと、ジェロニモを救う手段は存在しない。
そのことをレオが告げたにもかかわらず、コルラードは必死になって回復薬をジェロニモに飲ませようとした。
ジェロニモが死ぬのを認めたくないからだろう。
「……、ぐっ……」
涙を流し、回復薬を飲ませようとするコルラード。
それを見ながら、レオはネックレスとして首にかけている魔法の指輪の中から、回復薬のビンを取り出した。
レオ自身、体中傷だらけだ。
足だけでなく、体の数か所の骨が折れているかもしれない。
傷口は焼かれて出血を気にすることがないのは、ひとまず安心材料といったところかもしれない。
回復薬を飲んだところで骨折は治らないため、とりあえず痛みが和らげる程度といったところだ。
「……エ…レナ…………」
「ジェロニモ様!! ジェロニモ様!!」
レオの言うように、回復薬の効能も意味を成さない。
結局最期までエレナのことを思いながら、ジェロニモは瞳を閉じた。
それを看取るようにして、コルラードは大粒の涙と共にジェロニモの名前を叫び続けた。
「おのれ!! レオポルド・ディ・ヴェントレ!!」
動かなくなったジェロニモを横たえ、コルラードはレオへの怒りと共に立ち上がる。
そして、すぐさま腰に差していた剣を抜き去りレオを睨みつけた。
「動くな!!」
「っ!!」
怒りと共にレオへと斬りかかろうとしたコルラードに、制止の声がかかる。
その声がした方へ目を向けると、イメルダたちがいるのが見えた。
その姿を見て、レオは安心した。
怪我をしているようだが、致命傷は負っていないようだ。
相手をしていたはずのコルラードがこの場に来たことで生まれていた不安が払拭された。
しかも、王都内にいた兵たちと共に来てくれたらしく、たまたま降り立ったこの訓練場の周囲を取り囲むように兵たちが配備されているのが見える。
「貴様だけは殺す!!」
「っ!! レオ!!」
これなら、コルラードが逃げることもできない。
しかし、コルラードはそもそも逃げるつもりはなく、ジェロニモを殺したレオにしか目が行っていない。
周囲を囲まれてもお構いなしに、レオへと向かって斬りかかって行った。
イメルダと周囲を取り囲んだ兵たちがコルラードを捕まえるよりも、コルラードがレオへと迫る速度の方が速い。
左腕を失くし、体の至る所に怪我を負っているレオ。
回復薬で少しだけ楽にはなったといっても、レオは立っているのも限界だ。
イメルダたちから見ても、レオが抵抗できるように見えない。
「ガハッ!!」
「…………」
斬りつけたコルラードも、イメルダを含む周囲を囲んでいた兵たちも、コルラードの剣が振り下ろされてレオが袈裟斬りに斬り裂かれると思っていた。
ところがレオは無事で、コルラードの方が逆に斬り裂かれていた。
斬られて血を吐き、そのまま倒れるコルラード。
レオはそれを確認するように見つめた。
「……な、何…だ!? 今の…は……」
痛みもあり体力の限界のはずのレオが、普通に自分の攻撃を躱した。
剣術の才を認められ、ムツィオとジェロニモについてきた。
イメルダたちによって怪我を負い、平常時よりも鈍っているのは認める。
しかし、満身創痍のレオに攻撃を躱され、切り上げによる斬撃を受けることになった理由が分からない。
斬られた痛みよりも、コルラードはその答えを求めるように呟いた。
「セルフマリオネット……」
それに対し、レオは最期の手向けとして返答する。
昔、闇の組織の長の男に狙われた時も使った能力だ。
「意識するだけで、自動で自分を動かせるスキルだ」
「……な、何……?」
スキル【操り人形】は、糸と魔力で物体を操る能力と、人形を自動で操作する能力だ。
しかし、自動で動かせるのは人形だけとは限らない。
正確に言えば、レオ自身(・・)が(・)作り上げた(・・・・・・)物(・・)を動かすことができる。
「この服(・)にスキルを使った。だから攻撃を躱せた」
「……服?」
レオが常に着ているつなぎの様な服は、レオがエトーレの糸で作ったものだ。
その服にスキルを発動することにより、危険が迫った時はレオが反応するより速く動くことができるようになる。
レオにとっての最終手段となる能力だ。
「……化け…物……め…………」
結局、最後までレオの能力によって自分たちは邪魔をされた。
そのスキルを恨めしく思いつつ、コルラードは息を引き取った。
「ハァ~……、終わっ…た……」
コルラードが動かなくなったのを確認し、もう立っているのも限界だったレオは、ようやく息を吐いてその場に座り込んだ。
ジェロニモとコルラード、どちらとも一歩間違えれば死んでいたため、勝利出来て心底安堵した。
「レオ!!」
「イメルダさん……」
座り込んだレオの下へイメルダが駆け寄る。
片腕を失うような大怪我を負っているのを、痛々しそうに見つめてきた。
「エレナは……?」
「大丈夫だ!! 兵たちが安全な所へ避難させた!!」
イメルダがここにいるということは、城の内部に置いてきたジェロニモのスケルトンたちを倒してきたと言うことだろう。
彼女たちのことも心配だったが、1番の標的となるエレナの安否が気になる。
イメルダたちが知っているかは分からないが、どうしても気になったレオは、思わずそのこと問いかけた。
すると、ここに来るまでに兵たちから聞いていたらしく、イメルダはすんなりと答えてくれた。
「そうですか。良かった……」
少ない可能性だが、ジェロニモが他に何か隠している可能性もある。
そのため、戦いが終わるまで心配していたのだが、どうやら取り越し苦労で済んだようだ。
心配事がなくなり、ようやく全ての肩の荷が下りた気分だ。
「お前……」
「ハハ……やられちゃいました」
座り込んだレオは、片腕がなくなっている。
しかも体中汚れていて、片足は腫れ上がっている。
ここに来るまでの間に相当な戦いをしていたことが窺え、それでもエレナのことを気にかけていたレオに、イメルダは息をのんだ。
イメルダの視線が腕にいっていることに気付き、レオは眉尻を下げつつ笑みを浮かべる。
ジェロニモに斬り飛ばされた二の腕から先は、レオから少し離れた所に落ちて、バルログの炎によって燃えて炭化していた。
斬り離されただけなら回復魔法でくっ付けることもできただろうが、これではそれも不可能だ。
「……すいません。後は…任せ…ます……」
「レ、レオ!!」
エレナの安否を確認できたからか、それとも体中の痛みに我慢の限界が来たのか、段々とレオの視界が暗くなってきた。
ジェロニモとコルラードの遺体の対処など色々とあるが、これ以上意識を保っていられないと判断したレオは、一言イメルダに告げるとそのまま意識を失い、その場に横になってしまった。
「……ゆっくり休め、英雄様!」
軍が何もできないでいた所を、たった1人で抑え込んだレオ。
王都の兵たちもレオの勝利に歓声を上げている。
ただでさえ、これまでの戦争で王都内でも名が広まっていたのに、ここまでのことを成したら英雄として名が広まるだろう。
そうなる未来を描きつつ、イメルダは眠りについたレオに呟いたのだった。
「……うっ、…………」
レオの攻撃によって腹を斬り裂かれ大量出血したジェロニモは、薄く目を開いたままコルラードの問いかけに僅かにしか反応しない。
辛うじて息をしているが、それも風前灯といった状況だろう。
「すぐに回復薬を……」
出血が止まらない様子を見て、コルラードは応急処置を施そうと回復薬のビンを取り出す。
コルラードは両手に指輪をしておらず、イメルダたちとの戦闘で自分も怪我をしているというのに使っていない所を見ると、回復薬はその1つだけだろう。
「そんな傷を治せる回復薬なんてある訳ない」
「黙れ!!」
どんな回復薬も、一瞬で何でも治してしまえるものではない。
エリクサーと呼ばれる万能薬なら何とかなるだろうが、それも想像上の産物と言われている。
もう何をしようと、ジェロニモを救う手段は存在しない。
そのことをレオが告げたにもかかわらず、コルラードは必死になって回復薬をジェロニモに飲ませようとした。
ジェロニモが死ぬのを認めたくないからだろう。
「……、ぐっ……」
涙を流し、回復薬を飲ませようとするコルラード。
それを見ながら、レオはネックレスとして首にかけている魔法の指輪の中から、回復薬のビンを取り出した。
レオ自身、体中傷だらけだ。
足だけでなく、体の数か所の骨が折れているかもしれない。
傷口は焼かれて出血を気にすることがないのは、ひとまず安心材料といったところかもしれない。
回復薬を飲んだところで骨折は治らないため、とりあえず痛みが和らげる程度といったところだ。
「……エ…レナ…………」
「ジェロニモ様!! ジェロニモ様!!」
レオの言うように、回復薬の効能も意味を成さない。
結局最期までエレナのことを思いながら、ジェロニモは瞳を閉じた。
それを看取るようにして、コルラードは大粒の涙と共にジェロニモの名前を叫び続けた。
「おのれ!! レオポルド・ディ・ヴェントレ!!」
動かなくなったジェロニモを横たえ、コルラードはレオへの怒りと共に立ち上がる。
そして、すぐさま腰に差していた剣を抜き去りレオを睨みつけた。
「動くな!!」
「っ!!」
怒りと共にレオへと斬りかかろうとしたコルラードに、制止の声がかかる。
その声がした方へ目を向けると、イメルダたちがいるのが見えた。
その姿を見て、レオは安心した。
怪我をしているようだが、致命傷は負っていないようだ。
相手をしていたはずのコルラードがこの場に来たことで生まれていた不安が払拭された。
しかも、王都内にいた兵たちと共に来てくれたらしく、たまたま降り立ったこの訓練場の周囲を取り囲むように兵たちが配備されているのが見える。
「貴様だけは殺す!!」
「っ!! レオ!!」
これなら、コルラードが逃げることもできない。
しかし、コルラードはそもそも逃げるつもりはなく、ジェロニモを殺したレオにしか目が行っていない。
周囲を囲まれてもお構いなしに、レオへと向かって斬りかかって行った。
イメルダと周囲を取り囲んだ兵たちがコルラードを捕まえるよりも、コルラードがレオへと迫る速度の方が速い。
左腕を失くし、体の至る所に怪我を負っているレオ。
回復薬で少しだけ楽にはなったといっても、レオは立っているのも限界だ。
イメルダたちから見ても、レオが抵抗できるように見えない。
「ガハッ!!」
「…………」
斬りつけたコルラードも、イメルダを含む周囲を囲んでいた兵たちも、コルラードの剣が振り下ろされてレオが袈裟斬りに斬り裂かれると思っていた。
ところがレオは無事で、コルラードの方が逆に斬り裂かれていた。
斬られて血を吐き、そのまま倒れるコルラード。
レオはそれを確認するように見つめた。
「……な、何…だ!? 今の…は……」
痛みもあり体力の限界のはずのレオが、普通に自分の攻撃を躱した。
剣術の才を認められ、ムツィオとジェロニモについてきた。
イメルダたちによって怪我を負い、平常時よりも鈍っているのは認める。
しかし、満身創痍のレオに攻撃を躱され、切り上げによる斬撃を受けることになった理由が分からない。
斬られた痛みよりも、コルラードはその答えを求めるように呟いた。
「セルフマリオネット……」
それに対し、レオは最期の手向けとして返答する。
昔、闇の組織の長の男に狙われた時も使った能力だ。
「意識するだけで、自動で自分を動かせるスキルだ」
「……な、何……?」
スキル【操り人形】は、糸と魔力で物体を操る能力と、人形を自動で操作する能力だ。
しかし、自動で動かせるのは人形だけとは限らない。
正確に言えば、レオ自身(・・)が(・)作り上げた(・・・・・・)物(・・)を動かすことができる。
「この服(・)にスキルを使った。だから攻撃を躱せた」
「……服?」
レオが常に着ているつなぎの様な服は、レオがエトーレの糸で作ったものだ。
その服にスキルを発動することにより、危険が迫った時はレオが反応するより速く動くことができるようになる。
レオにとっての最終手段となる能力だ。
「……化け…物……め…………」
結局、最後までレオの能力によって自分たちは邪魔をされた。
そのスキルを恨めしく思いつつ、コルラードは息を引き取った。
「ハァ~……、終わっ…た……」
コルラードが動かなくなったのを確認し、もう立っているのも限界だったレオは、ようやく息を吐いてその場に座り込んだ。
ジェロニモとコルラード、どちらとも一歩間違えれば死んでいたため、勝利出来て心底安堵した。
「レオ!!」
「イメルダさん……」
座り込んだレオの下へイメルダが駆け寄る。
片腕を失うような大怪我を負っているのを、痛々しそうに見つめてきた。
「エレナは……?」
「大丈夫だ!! 兵たちが安全な所へ避難させた!!」
イメルダがここにいるということは、城の内部に置いてきたジェロニモのスケルトンたちを倒してきたと言うことだろう。
彼女たちのことも心配だったが、1番の標的となるエレナの安否が気になる。
イメルダたちが知っているかは分からないが、どうしても気になったレオは、思わずそのこと問いかけた。
すると、ここに来るまでに兵たちから聞いていたらしく、イメルダはすんなりと答えてくれた。
「そうですか。良かった……」
少ない可能性だが、ジェロニモが他に何か隠している可能性もある。
そのため、戦いが終わるまで心配していたのだが、どうやら取り越し苦労で済んだようだ。
心配事がなくなり、ようやく全ての肩の荷が下りた気分だ。
「お前……」
「ハハ……やられちゃいました」
座り込んだレオは、片腕がなくなっている。
しかも体中汚れていて、片足は腫れ上がっている。
ここに来るまでの間に相当な戦いをしていたことが窺え、それでもエレナのことを気にかけていたレオに、イメルダは息をのんだ。
イメルダの視線が腕にいっていることに気付き、レオは眉尻を下げつつ笑みを浮かべる。
ジェロニモに斬り飛ばされた二の腕から先は、レオから少し離れた所に落ちて、バルログの炎によって燃えて炭化していた。
斬り離されただけなら回復魔法でくっ付けることもできただろうが、これではそれも不可能だ。
「……すいません。後は…任せ…ます……」
「レ、レオ!!」
エレナの安否を確認できたからか、それとも体中の痛みに我慢の限界が来たのか、段々とレオの視界が暗くなってきた。
ジェロニモとコルラードの遺体の対処など色々とあるが、これ以上意識を保っていられないと判断したレオは、一言イメルダに告げるとそのまま意識を失い、その場に横になってしまった。
「……ゆっくり休め、英雄様!」
軍が何もできないでいた所を、たった1人で抑え込んだレオ。
王都の兵たちもレオの勝利に歓声を上げている。
ただでさえ、これまでの戦争で王都内でも名が広まっていたのに、ここまでのことを成したら英雄として名が広まるだろう。
そうなる未来を描きつつ、イメルダは眠りについたレオに呟いたのだった。