「領主の指示だと……? 貴様どこの者だ?」
治療員以外に動ける者はいないと思っていたというのに、急に現れたガイオに戸惑うテスタ。
このような時のためにというのは、恐らく怪我人が大量に出た時に代わりに戦うために待機していたということだろう。
怪我人が大量に出た場合ということは、逃げる時の殿(しんがり)を務めろということ。
自領の人間だからと言って、とんでもない指示を出す領主がいるものだと、テスタはその領主のことが気になった。
「ヴェントレ島だ、よっ!」
この状況にガイオも驚いている。
砦内のほとんどの者が動けなくなるとは思ってもいなかったからだ。
しかし、レオの指示に従ってスケルトンドラゴンの破壊が済むまで待機していたのは正解だった。
動けなくなった王国兵たちを狙って、忍び込んで来た者に対処できたからだ。
戦闘中だというのに、会話をする余裕を見せてきたテスタへ、ガイオも同じく余裕を見せるように答えを返す。
そしてその言い終わりと共に、ガイオは手に持つ大剣を振り下ろした。
「クッ!!」
ガイオの大剣を、テスタは短剣で受け止める。
ただでさえ重量のある大剣を、短剣だけで防ぐのはすごいことだ。
それだけ技術があるということなのだろうが、そのまま鍔迫り合いのような状況になるとガイオの方がパワーは上のため、テスタは押されるのを必死に耐えるしかない。
「ヴェントレ島と言うと、カロージェロの息子の所か……」
ヴェントレ島のことは、部下からの資料を通じて知っている。
ジェロニモが執心しているエレナを匿っていた島だ。
そこの領主はレオポルドといい、前の依頼主に当たるムツィオが利用していたカロージェロの息子だ。
無能の父の血は受け継がず、祖父のアルバーノの血が隔世遺伝として現れたということで評判の人間だという話だ。
今この状況を予想したのかは分からないが、先を読んでの対処をしっかりと考えている所を考えると、父のカロージェロとは違い優秀な人間なのかもしれない。
「……ようやく思いだした。さっきの人形使いもレオポルドとかいう奴の能力だろう? 死んでしまっても指示に従うとは律儀な奴だ……」
望遠の魔道具で見た人形使いの顔に、ようやくテスタは資料で見た顔と一致した。
離れた位置からなのではっきりとしなかったが、今になってようやくレオだったということに気が付いたのだ。
しかし、そのレオもスケルトンドラゴンと共に自爆するように死滅してしまった。
ガイオのことを煽る目的で、テスタは同情したように呟き、後方へ飛ぶようにして鍔迫り合いの状態から脱出した。
『面倒な奴だ。ならば!!』
「あっ!?」
数度の衝突でガイオの実力を理解したテスタ。
恐らく勝てるとは思うが、パワーで負けている分微妙なところだ。
しかし、自分の仕事はこの男の相手などではなく王国兵の虐殺。
ガイオは後回しにして、側にいるメルクリオを先に始末することにしたテスタは、ガイオに背を向けるようにして走り出した。
「何っ!? いない!!」
ガイオから逃げながら王国の者たちを殺そうと、テスタは先程までメルクリオがいた所まで走ったのだが、いつの間にかメルクリオも他の兵たちもその姿がなくなっていた。
支援兵も魔力切れで他人を担いで動けない者たちばかりだったため、メルクリオたち自身が動いたということになる。
しかし、魔力切れで動けなくなっていたはずのメルクリオが、自力で逃れるほど時間は経っていなかったはず。
姿がないことに驚き、テスタは周囲を見渡した。
「ニャッ!!」
「っ!! 闇猫!?」
テスタが生物の気配を感じ視線を向けると、そこには気を失って横になっているメルクリオたちと共に漆黒といってもいいような毛色をした猫が立っていた。
闇猫という魔物の一種だ。
首輪をしているとこを見ると、何者かの従魔なのだろう。
メルクリオを動かしたのがその闇猫だということに気が付いたテスタは、今度はそちらへ向かって走り出そうとした。
「行かせねえよ!!」
「クッ!!」
闇猫の所へと行こうとしたテスタに、追いかけてきたガイオが斬りかかる。
その剣をまたも短剣で受け止めたテスタは、その場に足をとどめるしかなかった。
「ナイスだクオーレ!!」
「ニャッ!!」
メルクリオを救出した闇猫は、レオの従魔のクオーレだ。
闇猫のクオーレには、少しの間なら影の中に何でも入れておける能力がある。
それを使って、自力で動けない王国の者たちの避難を任されていた。
ガイオに褒められたクオーレは、当然と言うかのように一声鳴くと、メルクリオを影の中へ入れてその場から去っていった。
「チッ! 闇猫の固有能力か?」
クオーレの能力を見たテスタは、どうやってメルクリオを運んでいるのか理解して思わず舌打ちした。
明らかに貴族の出で立ちをしていたメルクリオを、闇猫なんかに邪魔されて殺せなかったことが苛立たしく思えた。
「あれもお前の仲間か?」
「あぁ! さっきの闇猫だけじゃねえぜ!」
「何っ!?」
人殺しが楽しめると思っていたが、全く思った通りに事が運ばない。
避難役の闇猫という用意周到さに、テスタは嫌気がさしてきた。
それでも仲間が動いているのだから、目の前のガイオに集中していればいいと思っていたテスタは、一旦ガイオから距離を取り、時間稼ぎもかねて話しかける。
しかし、返ってきた答えに眉をひそめた。
「お前のお仲間は、今頃俺たちの仲間にやられているかもな?」
「何だとっ!?」
組織の他の者の方にも、ガイオの仲間たちが向かっているということを知り、テスタは焦るような声をあげた。
ガイオのような強さを持つ者は他にいるとは思えないが、仕事の邪魔をされることは間違いない。
部下たちの力を信用しない訳ではないが、自分もガイオの相手をして時間をかけている場合ではないと考えたからだ。
「フッ!」
「……?」
すぐにガイオを始末しなければと思ったテスタだったが、すぐにその考えを消し去り、鼻で笑った。
急に冷静になったテスタに、ガイオは何事かと首を傾げた。
「見てみろ! たとえ我々を止めてもスケルトンがすぐに来る。領主同様、お前たちも死ぬのだ!!」
「……それはどうかな?」
「……何?」
テスタが指さした先には、スケルトンたちの進軍する姿があった。
ここまでの戦いでかなりの数を減らしたというのに、まだまだ多くのスケルトンたちが隊列を組んで向かって来ている。
スケルトンドラゴンの破壊によって、後方に控えていた残りの王国軍が援軍としてこちらへ向かって来るとしても間に合う距離ではない。
この砦にいる者は、スケルトンたちによって蹂躙されることになる。
しかし、自分たちはスケルトンの狙いの対象外。
自分たちが誰も殺せなくても、スケルトンに任せればいい。
絶望に打ちひしがれるガイオを期待しての発言だったのだが期待通りにいかず、ガイオは笑みを浮かべて返答してきた。
「何がおかしい……?」
「うちらの領主はそう簡単には死なねえよ!」
何故この状況で笑みを浮かべているのか理解しがたいテスタは、僅かな怒気と共にガイオへと問いかけた。
その問いに対し、ガイオは上に指をさして答えを返した。
「……何だ? っ!! あれは……」
「なっ? そう簡単に死なないだろ?」
何のことかと思いつつ、テスタは上空へ目を向ける。
すると、ガイオが指さした上空から、何やら大きな傘のようなものによって何者かがゆっくりと降りてきた。
その人間の顔を見て、テスタは驚き、ガイオは微笑みながら話しかける。
「ありがとう! エトーレ!」
落下してきたのは、スケルトンドラゴンと共に死んだと思っていたレオだった。
治療員以外に動ける者はいないと思っていたというのに、急に現れたガイオに戸惑うテスタ。
このような時のためにというのは、恐らく怪我人が大量に出た時に代わりに戦うために待機していたということだろう。
怪我人が大量に出た場合ということは、逃げる時の殿(しんがり)を務めろということ。
自領の人間だからと言って、とんでもない指示を出す領主がいるものだと、テスタはその領主のことが気になった。
「ヴェントレ島だ、よっ!」
この状況にガイオも驚いている。
砦内のほとんどの者が動けなくなるとは思ってもいなかったからだ。
しかし、レオの指示に従ってスケルトンドラゴンの破壊が済むまで待機していたのは正解だった。
動けなくなった王国兵たちを狙って、忍び込んで来た者に対処できたからだ。
戦闘中だというのに、会話をする余裕を見せてきたテスタへ、ガイオも同じく余裕を見せるように答えを返す。
そしてその言い終わりと共に、ガイオは手に持つ大剣を振り下ろした。
「クッ!!」
ガイオの大剣を、テスタは短剣で受け止める。
ただでさえ重量のある大剣を、短剣だけで防ぐのはすごいことだ。
それだけ技術があるということなのだろうが、そのまま鍔迫り合いのような状況になるとガイオの方がパワーは上のため、テスタは押されるのを必死に耐えるしかない。
「ヴェントレ島と言うと、カロージェロの息子の所か……」
ヴェントレ島のことは、部下からの資料を通じて知っている。
ジェロニモが執心しているエレナを匿っていた島だ。
そこの領主はレオポルドといい、前の依頼主に当たるムツィオが利用していたカロージェロの息子だ。
無能の父の血は受け継がず、祖父のアルバーノの血が隔世遺伝として現れたということで評判の人間だという話だ。
今この状況を予想したのかは分からないが、先を読んでの対処をしっかりと考えている所を考えると、父のカロージェロとは違い優秀な人間なのかもしれない。
「……ようやく思いだした。さっきの人形使いもレオポルドとかいう奴の能力だろう? 死んでしまっても指示に従うとは律儀な奴だ……」
望遠の魔道具で見た人形使いの顔に、ようやくテスタは資料で見た顔と一致した。
離れた位置からなのではっきりとしなかったが、今になってようやくレオだったということに気が付いたのだ。
しかし、そのレオもスケルトンドラゴンと共に自爆するように死滅してしまった。
ガイオのことを煽る目的で、テスタは同情したように呟き、後方へ飛ぶようにして鍔迫り合いの状態から脱出した。
『面倒な奴だ。ならば!!』
「あっ!?」
数度の衝突でガイオの実力を理解したテスタ。
恐らく勝てるとは思うが、パワーで負けている分微妙なところだ。
しかし、自分の仕事はこの男の相手などではなく王国兵の虐殺。
ガイオは後回しにして、側にいるメルクリオを先に始末することにしたテスタは、ガイオに背を向けるようにして走り出した。
「何っ!? いない!!」
ガイオから逃げながら王国の者たちを殺そうと、テスタは先程までメルクリオがいた所まで走ったのだが、いつの間にかメルクリオも他の兵たちもその姿がなくなっていた。
支援兵も魔力切れで他人を担いで動けない者たちばかりだったため、メルクリオたち自身が動いたということになる。
しかし、魔力切れで動けなくなっていたはずのメルクリオが、自力で逃れるほど時間は経っていなかったはず。
姿がないことに驚き、テスタは周囲を見渡した。
「ニャッ!!」
「っ!! 闇猫!?」
テスタが生物の気配を感じ視線を向けると、そこには気を失って横になっているメルクリオたちと共に漆黒といってもいいような毛色をした猫が立っていた。
闇猫という魔物の一種だ。
首輪をしているとこを見ると、何者かの従魔なのだろう。
メルクリオを動かしたのがその闇猫だということに気が付いたテスタは、今度はそちらへ向かって走り出そうとした。
「行かせねえよ!!」
「クッ!!」
闇猫の所へと行こうとしたテスタに、追いかけてきたガイオが斬りかかる。
その剣をまたも短剣で受け止めたテスタは、その場に足をとどめるしかなかった。
「ナイスだクオーレ!!」
「ニャッ!!」
メルクリオを救出した闇猫は、レオの従魔のクオーレだ。
闇猫のクオーレには、少しの間なら影の中に何でも入れておける能力がある。
それを使って、自力で動けない王国の者たちの避難を任されていた。
ガイオに褒められたクオーレは、当然と言うかのように一声鳴くと、メルクリオを影の中へ入れてその場から去っていった。
「チッ! 闇猫の固有能力か?」
クオーレの能力を見たテスタは、どうやってメルクリオを運んでいるのか理解して思わず舌打ちした。
明らかに貴族の出で立ちをしていたメルクリオを、闇猫なんかに邪魔されて殺せなかったことが苛立たしく思えた。
「あれもお前の仲間か?」
「あぁ! さっきの闇猫だけじゃねえぜ!」
「何っ!?」
人殺しが楽しめると思っていたが、全く思った通りに事が運ばない。
避難役の闇猫という用意周到さに、テスタは嫌気がさしてきた。
それでも仲間が動いているのだから、目の前のガイオに集中していればいいと思っていたテスタは、一旦ガイオから距離を取り、時間稼ぎもかねて話しかける。
しかし、返ってきた答えに眉をひそめた。
「お前のお仲間は、今頃俺たちの仲間にやられているかもな?」
「何だとっ!?」
組織の他の者の方にも、ガイオの仲間たちが向かっているということを知り、テスタは焦るような声をあげた。
ガイオのような強さを持つ者は他にいるとは思えないが、仕事の邪魔をされることは間違いない。
部下たちの力を信用しない訳ではないが、自分もガイオの相手をして時間をかけている場合ではないと考えたからだ。
「フッ!」
「……?」
すぐにガイオを始末しなければと思ったテスタだったが、すぐにその考えを消し去り、鼻で笑った。
急に冷静になったテスタに、ガイオは何事かと首を傾げた。
「見てみろ! たとえ我々を止めてもスケルトンがすぐに来る。領主同様、お前たちも死ぬのだ!!」
「……それはどうかな?」
「……何?」
テスタが指さした先には、スケルトンたちの進軍する姿があった。
ここまでの戦いでかなりの数を減らしたというのに、まだまだ多くのスケルトンたちが隊列を組んで向かって来ている。
スケルトンドラゴンの破壊によって、後方に控えていた残りの王国軍が援軍としてこちらへ向かって来るとしても間に合う距離ではない。
この砦にいる者は、スケルトンたちによって蹂躙されることになる。
しかし、自分たちはスケルトンの狙いの対象外。
自分たちが誰も殺せなくても、スケルトンに任せればいい。
絶望に打ちひしがれるガイオを期待しての発言だったのだが期待通りにいかず、ガイオは笑みを浮かべて返答してきた。
「何がおかしい……?」
「うちらの領主はそう簡単には死なねえよ!」
何故この状況で笑みを浮かべているのか理解しがたいテスタは、僅かな怒気と共にガイオへと問いかけた。
その問いに対し、ガイオは上に指をさして答えを返した。
「……何だ? っ!! あれは……」
「なっ? そう簡単に死なないだろ?」
何のことかと思いつつ、テスタは上空へ目を向ける。
すると、ガイオが指さした上空から、何やら大きな傘のようなものによって何者かがゆっくりと降りてきた。
その人間の顔を見て、テスタは驚き、ガイオは微笑みながら話しかける。
「ありがとう! エトーレ!」
落下してきたのは、スケルトンドラゴンと共に死んだと思っていたレオだった。