千里は僕には勿体無いくらいの美人で、頭の良い人だった。社交性もあり、大学内でも男女問わず人気があるように見えた。
 知り合ったきっかけは、たまたま学食で本を片手に食事をしていたら、たまたま近くの席に座った彼女がそれを見て、同じ本が好きだったから声をかけた、なんていう偶然の産物だ。

 そんな偶然の接点は、そう長くは続かないと初めから理解していた。僕は、友達も出来ず食堂で一人寂しく食事しているような僕を、そしてそれを気取られまいと読書に興じているふりをしている僕の本質を、誰よりよくわかっていたのだ。

 だから僕は、その場限りの夢だと割りきった。偶然はその一点にのみ有効で、その後はないと、期待しないことで予防線を張った。
 なのに、それからも彼女は僕の姿を見つける度に、声をかけてくれるようになったのだ。そんなの、いくら頑張っても、期待しない方が難しかった。

 僕はそれから、彼女と釣り合うために努力を通り越して相当な無理をした。ありったけの勇気で、あの日知り合ったきっかけの本が原作の映画を観に行こうと誘い、奨学金に手をつけてデートやプレゼント費用を工面して、徹夜で勉強して話題を作った。

 見かけにも気を遣うために、服だって持ち物だって桁の違う良いものを選び、彼女の前では二度同じものを着ないようにした。床に積み上がった衣類はその産物だ。

 努力の甲斐もあり千里と交際に至れたのは、僕の人生における唯一の成功体験と言える。
 けれどまあ、そんな即席のハリボテが壊れるのなんて、砂の城を崩すのと同じくらいあっという間だった。

 ある時ふとボロが出て、どうにか取り繕おうと無い頭を絞った結果、あろうことか僕は逆ギレしてしまい、一年にも満たない交際関係は呆気なく破局した。

 そんなつまらない終わり方をした恋を、僕はしばらく引きずった。何しろ初めての恋だったのだ。
 燃え尽きたように何も考えられなくなり、そのまま大学には行かなくなった。気付けばバイトも休み引き籠る日々だったが、今時食糧も生活必需品も娯楽も、スマホ一台あれば事足りた。

 親からの仕送りと、一度手をつけたからと抵抗感の薄れていた奨学金の残りを使い、無為に朝と夜を繰り返す時間を埋めるためだけに、然して欲しくもない通販サイトの商品画面を延々スクロールしては、クリックひとつで購入するだけの日々。

 届いてからは開けることすらない物も、買ったその瞬間だけは、幾分か心を満たしてくれた気がした。買い物依存の自覚はあったが、やめられるような精神力も持ち合わせていなかった。

 そうして六畳程の僕の城は、この一年であっという間に物で埋め尽くされていった。


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