隣のクラスだった茉莉ちゃんが死んだのは、二年前の雨の日だった。公園からの帰り道、車に轢かれてしまったのだと、当時の校長先生は言っていた。

 彼女は一人で遊んでいたらしく、目撃者は居なかった。土砂降りの中、遊んでいた子供達が慌てて帰った人気のない場所で轢き逃げされ、犯人は未だに見付かっていない。

「あら、夢花。今日も公園に行ってきたの?」
「うん……」
「もう中学生なんだから、もっとお洒落して友達と買い物とか行けばいいのに」
「どうせ雨だから、濡れていい服でいいんだよ」
「……? 曇りだけど、雨なんて降ってないじゃない」

 母の疑問の声に返事をしないまま、私は自室へと向かう。部屋の窓からは、先程まで居た公園が見下ろせた。

 茉莉ちゃんは死んでからも、ずっと一人、公園で遊んでいる。

 一人で居るのが寂しかったのか、犯人が見付からない無念からなのか、彼女は最期の時間を『雨の降り出しそうな曇りの日曜日』の度に繰り返しているのだ。

「また明日、か」

 約束したって、彼女に明日は来ない。
 そうと分かっていても、何度も一人で遊んで過ごし雨の中で死ぬ姿を見ては、明日を願わずにはいられなかった。

 自室の窓から度々見えるその光景に、放っておけず先程のように何度か勇気を振り絞って声をかけたことがある。けれどその度に、あの日を繰り返す彼女は私を忘れてしまっていたのだ。

「あと何回、遊べるかなぁ……」

 隣のクラスで、何度か休み時間や合同授業の度見かけていた茉莉ちゃん。
 人見知り特有の、周りを不快にさせないために空気を読み、控え目に行動するタイプ。図書室で興味を持った本の貸し出しカードに名前を見かけることも多くて、気になっていた。

 似た者同士だと勝手に親近感を覚えていたけれど、私は初対面で緊張する質で、生きている間は話し掛けることが出来なかった。

 私はもう、中学生。端から見ると小学生以下ばかりの公園で一人で虚空に向かって話し掛ける不審者で、茉莉ちゃんから見ても年上の知らない子だ。怪しまれずに遊べるのは、あと数回が限度だろう。

 私と遊ぶことで、少しでも未練がなくなるといい。寂しい時間を繰り返すだけじゃないと感じて欲しい。
 約束をすることで、意識が明日に向いてくれるといい。彼女の中で死なずに迎える明日でも、いっそ死んだことを自覚して今日を終わらせるでもいい。

 烏滸がましいけれど、終わらないひとりぼっちを見続けたら、そう考えてしまうのは仕方ないだろう。
 だから私は、いつも去り際に約束をする。

「茉莉ちゃん、いつか、また明日」

 いつの日か彼女が成仏して、私も同じ場所に行けた時には、今度こそ青空の下で「あの日の約束を果たしに来たよ」って、幾度も繰り返した今日の続きを、一緒に遊べたらと思う。