わたし、三浦あんずには、双子の妹がいる。いくら一卵性とはいえ、見た目も声も仕草も趣味も全て似ているから、中学生になった今ですら家族にもしょっちゅう間違えられる程だ。
けれどわたしよりも身体の弱い妹のすももは、中学に上がってからほとんど学校に行けず、ベッドで過ごしている日が多かった。完全に寝たきりな訳ではなく、元気な時もあるけれど、何故かその際は決まってわたしが体調を崩してしまうので、学校に行けるのはいつもどちらか一人だけだった。
そして、普段あまり登校しない妹が学校に行くとクラスメイトから何かと気を遣われて申し訳ないという理由で、妹はわたしのふりをして学校に行く。
家族から見ても間違えるほどそっくりで、尚且つ毎日学校から帰ってその日の出来事を共有するわたし達だからこそ、出来ることだった。
今のところ、クラスの誰にもバレていない。
因みにすももが代わりに行く日には、登校前に担任へと事前に連絡してある為、記録上はきちんと彼女の出席日数としてカウントしてくれているらしい。有り難いことだ。融通を利かせてくれる担任には頭が上がらない。
そんな学校生活を送る中、わたしは今朝から頗る体調が悪かった。
寒気がする程の高熱があって、頭が割れそうで、眩暈までする。そうなると、きっと今日は妹のすももがわたしの代わりに出席する日だ。
今日は放課後、クラスの友達と最近駅前に出来たアイスクリーム屋さんに行く約束があったのに。残念。
けれど昨日の内にすももにもその話しはしてあるし、上手くやってくれるだろう。お土産も、きっとわたしの好物を選んでくれる。だって、わたし達は好みも同じなのだから。
全く動かない体を持て余し、ぼんやりと早くアイスが食べたいなと天井を見上げていると、案の定わたしと同じ姿の彼女が制服姿で顔を覗かせた。
「おはよう、あんず。そろそろ行ってくるね」
「ん……いってらっしゃい、すもも。気を付けてね。あと、お土産よろしく……」
「……、うん。任せて。あんずの好きそうなのを選んでおくよ」
やや少しの間の後、お土産という言葉に思い当たったのであろう彼女は、にっこりと笑みを浮かべて部屋を出て行った。
……しかし、はて。あの子は、あんな顔をして笑う子だっただろうか。
何と無く感じた違和感に戸惑うけれど、頭痛に耐え切れずすぐに思考を中断し、わたしはしばしの眠りについた。
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安静にしていたお陰か、夕方になり熱も下がって楽になった頃。ようやく身体を起こして、喉の乾きを覚えキッチンに向かう。
しかしそこには、わたしと同じ姿の、色違いのパジャマ姿をした先客が居たのだ。
「あれ? すもも、帰ってたの?」
おかしい。アイスクリーム屋さんに寄り道したのなら、まだ帰って来るには早い時間だ。それに、何故すももは、既にパジャマを着ているのか。
しかし、わたしの疑問の声に彼女もまた、わたしと全く同じ不思議そうな顔をして首を傾げる。何だか嫌な予感がして、わたしは言葉を続けた。
「ねぇ、すもも。お土産のアイスクリームは? 頼んだよね?」
「……? アイス、あんずが放課後行くって言ってたでしょ? 今日、学校休んだの?」
「「……え?」」
冷蔵庫の前、お互いに固まる。
動揺しながら話を聞くと、どうやら今朝出て行ったのは、すももではないらしい。すももの元にも、今朝わたしが挨拶に来たと言う。
双子のくせに、わたし達が同時に体調を崩すことなんて珍しかった。幼い頃はよくあったらしいが、恐らく、物心ついてからは初めてだ。
ならば、わたし達二人が体調を崩した今日、代わりに登校した同じ姿をした『彼女』は、一体何者だったのだろうか……。
双子だから、熱に魘され同じ夢でも見たのかと無理矢理結論付ける。
けれど、溶けた氷枕を戻そうとして開けた冷凍庫の中、例のアイスクリーム屋のロゴマークが描かれた二人分のアイスが入っているのを見て、わたし達は、熱がぶり返したような寒気を感じたのだった。