過去に向かう僕と未来に向かう君
 
 僕には未来が見える。というよりは僕は生まれた時、現在から過去に向かって生きている。
 佐伯啓介がそのことに気づいたのは物心ついた時からだった。いわゆる予知夢のようなものをみたり、以前経験したことを再び経験するという不思議な現象を何度も経験していた。
 そして、啓介は今日一人の女性に出会う。
 自分の未来を共に過去に向かって生きていく人と出会うのだ。
 この春、地元の高校を卒業し、啓介の街より少し都会にある地方大学に進んだ啓介は入学式の後のオリエンテーションで谷みずきに出会った。
 
 「啓介~入学式お疲れ様ー」
 「何だかやっぱり式典ってだるいな」
 井上拓海はいかにもうざそうに啓介を見た。
 
 「それでお前この後の新入生懇親会行く?」
 「あ、あぁ。行くよ」
 「あれ、お前にしては珍しく素直だな」
 「お前が俺の提案に素直に乗っかるなんて」
 「ちげーよ。お前の提案に乗るんじゃなくて俺には出会わなければいけない人がいるんだ」
 「これか?」
 拓海が面白がって小指を立てた。
 「女だな?」
 
 「俺とお前じゃ根本的に思考回路が違うんだよ」
 「俺は今日その女に出会わなければこの先の人生を生きていけないの!」
 「そっか、、それなら頑張れよ。俺はこの後、サークルの新歓コンパに顔出すから」
 啓介の気迫に圧倒されたのか拓海は啓介の肩をぽんと叩きやがて学生達の人混みの中に消えて行った。
 
 「まったく。あいつは相変わらずだな」
 啓介と拓海は同級生で同じ高校からこの大学に進学してきた啓介の親友だった。
 
 すると、拓海が息を切らして走ってきた。
 「あ、そうだ。新歓コンパの前にオリエンテーション一緒に行こうぜ」
 「いいよ。ただし俺の邪魔するなよ」
 「わかった。わかった。了解!」
 拓海は屈託のない笑顔を見せると啓介とともに新入生懇親会へと向かった。
 
 オリエンテーション会場に着くと学部別に新入生たちが集まっていた。
 看板を持った学生達が新入生を歓迎していた。
 「文学部の方~新入生歓迎オリエンテーションはこちらでーす」
 他学部に比べて学生数の少ない文学部の会場は数十人がいただけだった。
 
 男女合わせて数十人の中に谷みずきはいた。
 ロングの黒髪にほんのりと薄化粧を施した品のある美人だった。
 
 「啓介見てみろよ。あの子可愛いな」
 「そうだな、、」
 「ちょっと、話しかけてみようぜ」
 拓海につれられて啓介はみずき達の前にやって来た。
 
 みずきの回りには女子が数人いて楽しげに話していた。
 「君たちも文学部?」
 
 拓海がいつもの軽いノリでみずき達に話しかけた。
 「そうだよ。あなたたちも文学部?」
 「そうそう。今日から4年間よろしく!」
 「こちらこそ!」
 
 「俺は井上拓海、よろしく!」
 「私は浦川かすみ、よろしくね!」
 みずきの横にいた女子が早くも拓海と意気投合していた。
 
 「ねぇ、ねぇ。みずき。こちら同じ学部の拓海くんだよ!」
 「井上拓海です。よろしく!」
 「よろしく」
 みずきは優しい笑顔を覗かせた。
 
 「こちらは?」
 「あ、こいつは俺の親友の啓介。高校からずっと一緒だったんだ。いいやつだからよろしくな」
 
 「これからよろしく」
 啓介はみずきに向かって手を出した。
 「こちらこそ」
 みずきもその手を握り返した。
 
 「谷みずきさんだよね?」
 「え、何で私の名前知ってるの?」
 「知ってるよ。ずっとずっと前から、、」
 啓介は愛しい人を見るような笑顔を見せた。
 みずきは不思議そうな顔をしていたがやがて笑顔で「よろしくね。啓介くん」とにこりと笑った。
 
 「ごめん。ごめん。こいついいやつなんだけど時々変なこと言い出すんだ。多めに見てやって!」
 
 これから、僕はみずきと共に過去に向かって生き、みずきは未来に向かって生きる。そんなことを啓介は考えていた。

 それから数週間が経ち大学の授業が始まった。
 「啓介くん! 今から授業?」
 「うん。そうだよ。現代文学論Ⅰだよ」
 「あ、私もその授業。一緒に行こ!」
 啓介とみずきは春の暖かいキャンパスの中を二人で歩いていた。並んで歩くみずきの髪が風に揺れて綺麗だった。
 
 「あのさ。みずきは過去に戻れたらって思うことない?」
 「それはもちろんあるよ。あぁ、あの時に戻れたらなぁなんて結構あるよ」
 「だよな」
 「俺もみずきに出会った頃に戻れたらなぁなんて思うんだ」
 「何言ってるの? 私たち出会ったばかりじゃない。これからいろんな思い出や未來を作って行くんだよ」
 「そう、だったな、、」
啓介は少し遠くを見るとゆらゆらと散ってゆく桜を見ていた。
 
 「啓介。サークル何に入るか決まってる?」
 「うん。みずきと同じ映像研究会に入ろうと思ってる」
 「そっか。そっか! 啓介も映像研究会に入ってくれるんだね!」
 「うん。拓海にも声かけとくから」
 「了解。それなら私もかすみ誘っとくね」
 
 「啓介~!!」
 拓海とかすみが仲良さそうに啓介達に向かって走ってきた。
 
 「啓介。現論Ⅰだろ? 俺らも一緒に行くよ」
 「あ、そうだ。お前入るサークル決まった?」
 「みずきと同じ映像研究会に入るよ」
 「お前も来いよ」
 「映像研究会? 何のサークル?」
 「う~ん。簡単に言うと映像に関すること全部だよ。映画やアニメ、それにイラストなんかも、、要はなんでもありのゆる~いサークル」
 「いいね! 俺もそれに入ろっと」
 「かすみも入りなよ!」
 拓海はかすみに笑顔を向けた。
 「そうだね。みんな入るなら私も入ろーっと」 
 「何だかワクワクするな」
 「今から俺たちの4年間が始まるなーって思うと」
 「お前は4年とは限らないけどな」
 「留年しないように頑張れ!」
 啓介は拓海を見て笑い、それを見たみずきもかすみも笑った。
 
 その日、啓介は大学の学生会館の前のベンチで文庫本を読んでいた。
 「啓介~!!」
 そこにみずきが笑顔でやって来た。
 「ここにいたの?」
 「うん」
 「何読んでるの?」
 「ん? 小説だよ」
 「ふ~ん。啓介ってそういうの好きなんだね」
 「あれ? 前に言わなかった?」
 「聞いてないよ。 初耳だよ」
 「俺、昔から本読むの好きなんだ」
 「そうなんだね。 この後どうする? サークル行く?」
 「うん。そうだね。行こっか」
 「概論Ⅰのレポート進んでる?」
 「まぁ、ぼちぼちかな、、」
 「啓介ってさ。将来何になりたいとかあるの?」
 「う~ん。いろいろあるけど何になりたいってほどのことはないかな。しいて言えば人のためになる仕事をしたいな」
 「例えば?」
 「苦しむ人を助けたり人に夢を与えたりするようなお仕事」
 「ふ~ん。啓介はいろいろ将来のこと考えてるんだね」
 「みずきは?」
 「う~ん。私はそんなの考えたこともなかったな。でも、後で振り返ったとき素敵な思い出になるように今を精一杯生きたいな」
 「それで十分だと思うよ」
 啓介は優しい微笑みを浮かべてみずきの方を見た。
 
 「ねぇねぇ、啓介。私達一年生で何か形になるもの作ろうよ」
 「拓海やはるかも一緒にざ、青春って感じのもの作らない?」
 「いいよ。それじゃさ。俺とみずきの物語作ろうよ」
 「私たちの物語?」
 「そう。僕やみずき、拓海やはるかの4人の物語、、」
 「いいね! それ!」
 みずきは目を輝やかせた。
 「それが一生映像として残るんだね」
 「そう。僕たちの足跡だよ」
 「啓介。何か物語考えてよ」
 「実はもう考えてあるんだ」
 「そうなの? どんなお話?」
 「それはみずきが大人になった時に分かるよ」
 「もーもったいぶる~」
 「それじゃ、私から拓海とかすみの二人にも伝えとくね。きっと二人とも喜ぶだろうな~何だか拓海とかすみがはしゃいでる姿が目に浮かぶよ」
 
 時間は永遠じゃない。そう、僕たちの時間も永遠じゃないんだーーー
 
 君は未来に向かって生きているけど僕は過去に向かって生きている。
 
 今はその時間軸が交わるたった一つのかけがえのない瞬間なんだよ。
 
 いずれ僕たちが大人になっていくためにーー
 
 
 啓介がキャンパスを歩いていると拓海がやって来た。いつもの屈託のない人懐こい笑顔を浮かべて啓介に話しかけた。
 
 「啓介! みずきちゃんから聞いたぞ。 俺たちの物語作るんだってな」
 
 「お前にしてはいいこと考えるじゃないか」
 「主役はもちろん俺とかすみにしてくれよな」
 「はい。はい。了解! お前のことだからきっとそう言うだろうと思って主役にしといたから」
 「かすみちゃんと仲良くやってくれよな」
 「かすみちゃんのこと好きなのか?」
 「好きだよ。 俺はかすみが好き」
 「そう言うお前はどうなんだよ」
 「みずきちゃんのこと好きなんだろ」
 「俺とみずきはそんな簡単な関係じゃないんだ」
 「俺とみずきは時間が逆に流れてゆくんだ」
 「逆に流れる?」
 「そう。俺とみずきはこの大学で出会った時から離ればなれになる運命なの」
 
 「なんだそれ。 お前ってほんとたまに変なこと言い出すよな」
 「まぁ。いいや。未来の映像作家さん。いい脚本書いてくれよな」
 「了解! まぁ楽しみにしててくれ」
 「それと、かすみちゃんのこと大切にしろよな」
 啓介は見かけによらず優しくて思いやりのある拓海に言った。
 
 季節は流れ春から夏が来ようとしていた。
 大学の至るところにある緑は青々と草花が生い茂り学生達はキャンパスのあちらこちらでみな思い思いの時間を過ごしていた。
 
 啓介が映像研究会の部室に向かうと一人みずきがいた。何かを思い悩むような表情をしていた。
 啓介はみずきの隣に座り持っていた本を読み始めた。
 
 「あ、啓介いたの? うん、いたよ」
 「暗い顔してるけどどうかしたの?」
 「あのね、、私。今年の学祭終わったら大学辞めようと思って、、」
 「どうして? 私のお母さん病気してて今、入院してるの。 大学辞めて働きながら看護学校に行きたいんだ」
 「看護師になってお母さんを助けたいんだ」
 「そっか、、みずきのしたいようにすればいいよ」
 「啓介は卒業まで頑張るの?」
 「俺も学祭終わったら大学辞めて東京の映像クリエイターを養成する学校に行こうと思ってる。将来、映像作家になりたいんだ」
 「それに、、いざ大学に入ってみたら僕がしたいこととはかけ離れてて一刻も時間を無駄にしたくないなぁって、、」
 「そっか。啓介も自分の夢に向かって歩いていくんだね、、」
 「うん。でも、大学に入ってみずきや拓海、かすみちゃんに出会えて良かったって思ってる」
 「お互い、別々の道を歩いてもまたいつか出会える日が来るよ」
 「啓介、、私のこと、、いや、何でもないよ」
 「あ、それと例の学祭で発表する映像作品の原稿書いたよ」
 「4人の思い出になるような作品になるといいね」
 「みずき、、大丈夫。僕たちは離ればなれになってもずっと友達だよ、、」
 
 啓介が部室を出ようとすると拓海とかすみが仲良くやってきた。
 「ったく。古文の授業わけわからないな」
 「なぁ、かすみ!」
 「そうだねー古文ちょっと苦手かも、、」
 
 「お二人さん。映像作品の原稿書いたよ」
 啓介はレポート用紙にびっしりと書かれた原稿を拓海に渡した。
 
 「お。出来たの? ちょっと読ませて」
 拓海は啓介から原稿を受け取ると真剣な表情で読んでいた。ページを一枚一枚丁寧にめくり優しい笑顔を覗かせていた。
 
 「いいじゃん。これ!」
 「そっか。気に入ってくれて良かったよ」
 
 「短い映像作品だけど楽しみながら作ってくれよな、、」
 
 「あのさ。さっき聞こえたんだけどお前とみずき、学祭終わったら大学辞めるの?」
 「聞こえてたのか、、うん。俺は大学を辞めて東京に行く。将来やりたいことがあるんだ」
 「みずきも辞めるの?」
 拓海とかすみは悲しげな表情を見せてみずきに聞いた。
 
 「うん。私も家の事情と将来の夢のために大学辞めようと思ってる」
 「みずきと啓介が大学やめるなんていやだよ」
 かすみは今にも泣き出しそうな顔で言った。
 
 「ごめんね、かすみ。ずっと一緒に居てやれなくて、、でも大学辞めてもずっと友達だよ、、」
 しばらくの重い沈黙があった。
 
 「かすみ。元気出せよ。 永遠に会えない訳じゃないんだから、、」
 「俺もすげえ寂しいけど二人の将来が幸せなものになるように願ってる」
 
 「よし。頑張ってこの作品完成させようかな」
 「せめてもの啓介とみずきへの恩返しだ」
 
 それから、4人は映像作品作りに没頭した。
 大学のキャンパスの景色を写した映像や拓海とかすみの演技を動画としてカメラに納めてそれをパソコンを使って来る日も来る日も編集した。
 授業が終わっても夜遅くまで毎日毎日作業に没頭していた。
 
そして夏が終わろうとするころ一つの映像作品が完成した。
 
 「長かったな」
 拓海がぼそりと言った。
 「大変だったけど楽しかったな」
 啓介が懐かしむように言った。
 みずきとかすみは感慨深げに完成した作品を見ていた。
 「いい作品だね、、」
 4人は一つのことをやり遂げた満足感に浸っていた。
 
 「でも、最初で最後の作品だなんてちょっと寂しいな」
 
 「いつかさ。俺たちが20代、30代ってなった時にこの作品を懐かしく思うのかな」
 沈黙を破るように拓海が言った。
 
 「きっと懐かしく思うと思うよ、、」
 「これからずっと、、」
 かすみは寂しげな表情をしていたがやがて笑顔で言った。
 
 「みずき。看護学校行っても頑張れよ」
 啓介はみずきに優しい微笑みを見せた。
 
 「お前も大変だろうけど東京で頑張れよな」
 拓海は啓介の肩をぽんと叩くと「俺たちはずっと親友だぜ」と啓介にエールを送った。
 
 「拓海。いろいろありがとうな。俺たちはどこにいたって友達だよ」
 「かすみちゃん。拓海のことよろしくな」
 啓介がそう言うとかすみは目に涙をためていた。
 「でも、やっぱり寂しいな、、」
 みずきはかすみの肩を擦りながら「私達もずっと友達だよ、、」そう言って優しい笑顔を浮かべていた。
 
 キャンパスの至るところに秋の気配が感じられていた。夏に緑だった樹木たちは徐々にその色を変えていき、黄金色に色づいていた。
 紅葉を迎えて秋特有のどこか寂しげな雰囲気も漂っていた。
 
 やがて学園祭が始まりキャンパスは活気にみなぎっていた。出店がでたり、芸能人のライヴがあったり皆思い思いの学園祭を満喫していた。
 啓介達、4人の映像作品も上映されて好評をはくしていた。
 学生会館で上映された啓介たちの作品を多くの学生達や一般の方々も視聴した。
 啓介たちの映像作品は最優秀文化部作品賞を受賞した。
 そうやって4人の青春の1コマは足早に過ぎていった。
その日の夜、4人は大学近くの居酒屋でささやかな打ち上げをした。
 
 啓介もみずきも拓海もかすみも今までのことを振り返って楽しげに過ごしていた。
 「ちょっと拓海! 飲み過ぎだよ」
 「いいの。いいの。 俺たちが4人揃うのは今日が最後なんだから、、」
 かすみは拓海を介抱しながら愛しげな眼差しで拓海を見つめていた。
 打ち上げは夜遅くまで続いた。
 
 「みずき。看護学校行っても頑張れよな、、それとお母さんを大切にな、、」
 「啓介も頑張ってよね! 私も遠くから応援してる」
 みずきは上気した顔で啓介に寄りかかった。
 「啓介。一緒に帰ろう」
 「うん」
 やがて会計を済ませて4人は別れた。
 
 啓介とみずきは真っ暗な深夜の道を二人で歩いた。
 「啓介。私ね。私も何となくいつかこういう日が来るような気がしてたんだ」
 「私と啓介はいずれ離ればなれになる。って思ってた」
 「啓介は最初から分かってたの?」
 「分かってたよ」
 「今日ここでみずきと別れることも大学で出会うことも、、」
 「私ね。思うの。 また明日が大学に入学した時みたいに啓介に出会えたらって、、」
 「啓介は過去に向かって生きているんだよね」
 「私と出会った時から、、」
 「うん。僕は過去に向かって生きている。そしてみずきは未来に向かって生きている」
 「だから、またいつか出会えるよ」
 啓介は優しい微笑みを見せた。
 
 「啓介、、キスして、、」
 やがて二人は目を閉じると啓介はみずきを抱き寄せて優しくキスをした。
 「啓介、大好きだよ、、」
 二人は抱き合ってお互いの体温を感じていた。外灯の光が二人をいつまでもいつまでも照らし続けていた。
 
 やがて秋が深まり冬がやって来る頃に啓介は東京へと旅立った。
 東京に旅立つ啓介をみずきと拓海とかすみが見送りに来ていた。
 「みずき。拓海。かすみ。元気で、、」
 
 半年間学んだキャンパスの正門で3人は啓介を見送った。
 「啓介くん。これ、、」
 拓海とかすみから贈られた花束を抱えて啓介は3人に手を振って別れを告げた。
 「みずき。拓海。かすみ。ありがとう」
 啓介は優しい微笑みを浮かべながら3人に手を振った。半年間の短い学生生活に啓介は沢山の思い出と愛する人そして親友たちに出会えた。
 その事を奇跡のように思わずにはいられなかった。
 
 啓介が東京に旅立って2ヶ月程が経った。
 クリスマスイブにみずきから啓介に手紙が届いていた。
 
 「啓介へ
 
 啓介久しぶり。元気にしてるかな?
 あの日から2ヶ月が経ったね。
 私はあの後、大学を辞めて今は看護学校に行く勉強をしています。
 啓介のことだからきっと映像作家になるために東京で頑張ってるんだろうね。
 私も母さんを大切にして立派な看護師になれるように頑張るよ。
 だから、啓介も頑張って!
 
 それとメリークリスマス!
 愛してるよ 谷みずき
 
 」
 
 翌年の春。みずきは看護学校に合格した。
 久しぶりに懐かしくなり、母校の大学に向かった。半年振りの母校はみずきを変わらない優しさで迎えてくれた。
 
 桜の花びらがひらひらと舞い落ちるなかみずきは学生会館の前のベンチで啓介が好きだった小説を読んでいた。
 
 記憶が巻き戻されるように啓介や拓海、かすみとの日々が懐かしく思い出された。
 
 ふと、本から顔をあげると懐かしい匂いがした。半年振りに見る懐かしい顔だった。
 
 「みずき。はじめまして」
 そこには優しい微笑みを浮かべた啓介が佇んでいた。
 
 「啓介、、」
 「はじめまして、、」
 「久しぶりだね、、」
 「また、よろしくね、、」
 
 みずきが微笑むと二人を祝福するように舞い落ちる桜の花びらが二人を包んでいた。
啓介とみずきはキャンパスの一角で時が止まったようにいつまでもいつまでも見つめあっていた。
 
fin