勢いよく目を開けたバーニーは、すっかり夜が明けてしまっていることに驚いた。警戒すべき相手が二人もそばにいたのに、迂闊にも深く寝入ってしまっていたのだ。
さっさとこのキャンプから出なくてはいけない。金の工面をしなくてはいけないが、先行きは暗い。
バーニーの実力で組めるパーティーではとても挑めないダンジョンでなければ、妹のセスを治す薬の原料パナケイアは手に入らない。かなり値が張ることから、金を用意して手に入れるのも道のりが長い。
立場への同情からパーティーに入れてもらっていて、その上盗みまで働いたのだから追い出されて当然ではある。今のバーニーには天啓も羅針盤もない。セスの病気が悪化するのが早いかバーニーが薬を用意できるのが早いかである。
バーニーがテントを出ると、彼の沈んだ面持ちとは裏腹に清々しい晴天であった。燃え尽きた焚き火越しには、またも川に向かって放尿するマルクスがいた。
「おはよう、バーニーくん。」
「おはようございます、マルクスさん。」
マルクスの方は荷物をまとめ終わっていて、もう旅立つ準備を終えている。
ガブリエルとナシームの二人が起きてこないうちに、バーニーも旅立ちの支度をしなくてはいけない。バーニーはマルクスの行く方向を追ってみようかと思案する。しかし、直ちにその考えは退けた。それはあまりに虫が良い気がしたからだ。
「君のおかげでいい収穫だったよ。」
そう言って、マルクスは麻のずだ袋をバーニーの方へと投げるようによこした。地面にずた袋が落ちて、金属同士が響き合う重い音が鳴った。
「・・・?」
マルクスの言葉の意味がわからず、バーニーは何も言い返せなかった。バーニーがマルクスの顔をまじまじと見つめると、彼は子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「そんなに多くないけど、これで貸しはチャラってことでいいかな。」
ずだ袋を覗くと、金色に光るドクロのついた指輪、高級そうなマントに金貨と色とりどりの宝石が入っている。その中にはバーニーが見覚えのあるものもあった。昨日視界の端をチカチカと動いていた邪魔な指輪がなぜここに入っているのだろうか。
指輪を取り出してみる、バーニーの目に、指輪にこびりついているどす黒い塊が映った。爪で擦ると簡単に剥がれてしまい、塗装ではないのが確認できた。
「君のいう通り孤立してる奴の方が楽だ。追ってくる奴もいないわけだし。」
マルクスの言葉がバーニーの耳を通り抜ける。バーニーの体はカタカタと震えていた。ただ、立ちすくむことしかできなかった。
「いい宴だった。また会う時があったらその時はよろしく。」
バーニーは、マルクスが見えなくなるまで彼の背中を呆然と見送った。