「そろそろお開きにしましょうか。」
皆もう十分に飲んだであろうことを確認して、ガブリエルは言った。
マルクスとバーニーの2人に盛った睡眠薬が効いてくる前に、テントに入っていてもらわなくてはいけない。
「テントはそっちとそっちから張ってください。」
テントの位置関係はマルクスを川のそばにして、バーニーをその対角線上にしてガブリエルとナシームのテントで挟むようにした。
こうしておくと、バーニーのテントで何かが起きている時も川の音でマルクスは気づかないという寸法である。
マルクス自身大した冒険者ではなさそうなので、いざとなったら始末すればいいがそれは美しくない。
正直、ナシームとかいう男に同業と見られるのは辟易する。
ガブリエルには美学があった。自分が去った後に初めて、あの男がこれをやったんだという風に気づかれるのが良いのである。それをあの男は、天下の潰し屋である自身の事を知っていながら気安く取引を持ちかけてくるなんて。
ナシームの身につけている装飾具は金にはなるだろうが好みではない。心がこもっていない。
その点、バーニーの持ち物は素晴らしい。大した金銭的価値はないが、彼が妹のために冒険に出る時に買ったか貰ったものなのだろう。思い出が沢山詰まっている。
それを奪った時のバーニーの絶望といったら。ガブリエルは想像するだけで堪らない気持ちになった。
協力してテントの設営を終えると、ガブリエルは焚き火の火を消した。
「お疲れ様でした、おやすみなさい。」