「連れションとは仲がよろしいね。」
ナシームは、別々に小便をしに行ったマルクスとバーニーが仲良くなって戻ってきたのを見てチクリとトゲをさしてみた。
2人は何も言わずにまた腰掛けると杯を煽った。
ナシームの鼻は怪しい香りを捉えていた。
お互いに正体を知っていたガブリエルとの間で、夜中にバーニーという小僧の身包みを剥いでしまうという算段をつけたときに、マルクスがこっそりと盗み聞きをしていたのではないかという疑惑だ。
ひょっとすると、マルクスと名乗るこいつはギルドから派遣されてきた保安官なのではないか。バーニーのやつが先程までの不安そうな様子が嘘のようにリラックスしてるのも怪しい。
とはいえである。マルクスの身のこなしと、見ず知らずの人間が差し出す酒をグビグビと飲むような注意力のなさからして実力は三下に毛が生えた程度のものであろう。警戒する必要もないのかもしれない。
それよりもである。密約相手であるガブリエルの方が危ない。犯罪者として、ナシームよりも明らかに経験が豊富だ。ナシームは、出来れば殺したり争ったりの切った張ったはしたくない。スマートに金目の物を盗っていきたいだけだ。ガブリエルはそうでなく、相手が苦境に落ちるのを楽しんでいるタイプである。
とにかく、あと少しの辛抱である。小僧たちには悪いが、油断したところをいかせてもらう。そうすれば、ガブリエルの関心も自分には向くまい。
いざとなれば、逃げ足には自信がある。ナシームはそういう風に己を納得させた。