あなたは串を食べ終わると、そこからはビールしか飲まなくなって、薄明かりの照明の下でも頬が紅潮しているのが分かった。邪魔になったのか、髪ゴムを無造作に取って手首に付けた。解かれた髪は肩まで届き、より一層艶やかに感じた。
あなたは二杯目を飲み終えてから、私の隣に移動した。左手はこちらを向いていて、今なら手を重ねても許してくれそうだった。私は、あなたを試すために、気づかれないように右手をあなたの左手に近づけた。ゆっくりと時間をかけて、薬指をあなたの人差し指に当てた。あなたは、何も言わないものだから、調子に乗って、もっと踏み込んだの(だって、嫌なら手を引っ込めるものでしょ)。そのまま、私の薬指をあなたの人差し指の爪に乗せた。それでも何も言わないの。こっちすら向かない。気付いているはずなのに。それとも、酔い過ぎて感覚が無いのかしら。酔ったことがないから分からないのだけど、そうだといいなって。私ってすぐ調子に乗るものだから、それから中指、薬指、小指をあなたの指に乗せた。その状態のまま、左手でオレンジジュースを飲んだのに、味が無いの。心臓の音があなたに聞かれていないのかも気になって。隣の人の声も聞こえない。なんだか、私とあなたしかいないような気さえするの。三分ほど(数秒だったかも)あなたの指に私の指を乗せてから、手を重ねた。まだあなたはこっちを向かない。いくところまでいってしまいそうだった。
手を握ろうか迷っているとあなたは「そろそろ、行こうか。」って急にこっちを向くのだから、驚いて思わず手を引っ込めた。別にやましいことなどないのに後ろめたく感じた。
「私が誘ったから、ここは払うよ。」って、あなたは言うのだけれど、何も言えなかった。思い返すと恥ずかしくなって、頬が紅くなっているかもと思った。
「先にお店出てるね。」とだけ言って、自分の靴を探して店を飛び出した。
外はまだ冬の名残をみせるような風が吹いていた。深呼吸をして、彼女が出てくるのを待った。「楽しかった。また一緒に食事に行こうね。」と心の中で練習して、彼女が店から出てこないかと待ち構えた。
暫くすると、彼女が出てきた。よし、言うぞ、って意気込み、口を開きかけたとき
「今日、車で来たの。」って聞いてくるから、調子が狂うけれど、期待してしまった。
「ううん、歩いてきた。」
「なら、一緒にタクシーで帰ろう。」
悪くない提案だった。車は明日取りに来ればいいやって考えた。
夜の駅前はタクシーが頻繁に通っているから、大通りで手を上げるだけで、すぐに捕まえることが出来た。
「住所変わってないよね。」
「変わってないよ。」
彼女は、私を先にタクシーに乗せた。彼女が乗るのを確認してから、扉がパタンと閉まった。
「どこまでいきます。」
彼女は私の家の近くのコンビニを言ってくれた。
小声で「あなた、今どこに住んでいるの。」って聞いたら「すぐ近く。」って嘘を吐くの。近所のスーパーであなたを見かけたことなんて一度もないもの。
タクシーは私たち二人を乗せて、ネオン街を抜けていく。街灯がロマンティックで、待ちゆく人はキャストみたいだった。
タクシーの中で私たちは一切会話しなかった。タクシーの運転手さんに会話を聞かれるのが恥ずかしいの。けど、運転手さんは前を向いてなきゃいけないからこっちを向いてないわけ。だから、彼女の右手の中指に私の左手の薬指をくっつけたの。あなたは、窓の外を眺めていたね。今は、これぐらいの距離がちょうどいいの。
街灯が少なくなってきて次第に住宅が多くなった。
日本海が見えて残念に思う私がいた。
後五分もしたらコンビニに付く。
私はそれまでに大人にならないといけないの。魔法は長く続かない。「楽しかった。またね。」って言わないといけない。五分なのに、私には一分のように感じた。
「ここですね。」って言って、タクシーは左のウインカーを出してコンビニの敷地内に入った。駐車場に止めずに、敷地内の真ん中あたりの適当な場所で止めて、「料金はですね。」って確認した。串カツ屋さんでは彼女が払ってくれたのだから、ここはせめて私が払うべきだと思い、財布をありえないくらい小さい鞄から取り出した。すると、彼女は右手でけん制して「いいから」とだけ言って、運転手さんにお金を払った。なんだか申し訳なくて、次会う約束があったら絶対に会わないといけないって責任感すら感じた。
彼女が払い終わりタクシーから出ると、車高が思っていたよりも低かったものだから足がガクッて曲がっちゃった。
彼女は伸びをして海を見ていた。私はそんな彼女を見ていた。
なんだか言うのが嫌になったけど、魔法が解ける前に言わなければいけない。魔法が解けてからだと、言うのがもっと嫌になるもの。
「ねえ、」って彼女を呼ぶと、彼女は海を指して「少し歩かない」って提案するの。
魔法が解けそうだった。けれど、あと少しだけなら許してくれると思うの。言い訳を探していた。ここで、彼女の提案に乗ったら、別れが辛くなるだけなのに。黙って立っていると、彼女は「はら、ねっ。」って手を握りながら優しく微笑んだ。それが本当にずるいの。
今の私には、一緒に海に行くって選択肢しかなかった。
彼女に手を引かれながら海に向かった。
コンビニの向かいの海は砂浜があり、夕暮れだととても奇麗に海が反射するの。今はもう辺りは暗くてそんなことはないけれど、夜の海も心躍らせてくれる神秘さがあった。
砂浜に着くと、彼女は靴と靴下を脱いで、靴下を靴の中にしまってから歩き出した。私も、石段に座り、ベージュのストッキングを脱いで、ヒールの横に置いた。
砂はひんやりとして、指が砂に埋もれていく感覚が楽しくて足踏みをした。彼女はそんな私を見て、「少し座らない」って言うの。さっきから彼女は素敵な提案ばかりしてくれる。
私は、膝を丸めてかがんだ。すると彼女は「おいで」っていって隣を叩くの。服に頓着がないのも変わらずだけど、彼女の方が正しかった。
私は彼女の隣に行って、ゆっくり座った。
何も言わずに海を見る時間だった。言葉はないけど、このままでいいと思った。呼吸の仕方も忘れて、途中口で呼吸した。私だけがうるさいように思って、心を落ち着けようと、月を見上げた。
「奇麗だね。」
彼女は何も言わなかったけど、聞こえていたと思う。
「生まれ変わるなら吸血鬼がいいわ。」
急に、そんなことを言うものだから、
「どうして。」って聞き返したの。喋ったと思ったら、そんなことを言い出すのだもの。
「日が昇るまでずっと抱き合っているの。日が昇ったら、二人で灰になって世界を巡るの。」
あなたが初めてロマンチックなことを言い出すから、私笑ってしまったの。高い声で、海の向こうまで聞こえそうなほど。
「素敵だと思わない。」
あなたはこっちを向かなかったけど、恥ずかしかったのかな。あなたのキャラに合わないもの。
奇麗な横顔ね。本当に、あなたって何考えているか分からない。
けどね、言いたいことがあるの。
来世があるのなら私はあなたの子どもがいいの。
あなたは二杯目を飲み終えてから、私の隣に移動した。左手はこちらを向いていて、今なら手を重ねても許してくれそうだった。私は、あなたを試すために、気づかれないように右手をあなたの左手に近づけた。ゆっくりと時間をかけて、薬指をあなたの人差し指に当てた。あなたは、何も言わないものだから、調子に乗って、もっと踏み込んだの(だって、嫌なら手を引っ込めるものでしょ)。そのまま、私の薬指をあなたの人差し指の爪に乗せた。それでも何も言わないの。こっちすら向かない。気付いているはずなのに。それとも、酔い過ぎて感覚が無いのかしら。酔ったことがないから分からないのだけど、そうだといいなって。私ってすぐ調子に乗るものだから、それから中指、薬指、小指をあなたの指に乗せた。その状態のまま、左手でオレンジジュースを飲んだのに、味が無いの。心臓の音があなたに聞かれていないのかも気になって。隣の人の声も聞こえない。なんだか、私とあなたしかいないような気さえするの。三分ほど(数秒だったかも)あなたの指に私の指を乗せてから、手を重ねた。まだあなたはこっちを向かない。いくところまでいってしまいそうだった。
手を握ろうか迷っているとあなたは「そろそろ、行こうか。」って急にこっちを向くのだから、驚いて思わず手を引っ込めた。別にやましいことなどないのに後ろめたく感じた。
「私が誘ったから、ここは払うよ。」って、あなたは言うのだけれど、何も言えなかった。思い返すと恥ずかしくなって、頬が紅くなっているかもと思った。
「先にお店出てるね。」とだけ言って、自分の靴を探して店を飛び出した。
外はまだ冬の名残をみせるような風が吹いていた。深呼吸をして、彼女が出てくるのを待った。「楽しかった。また一緒に食事に行こうね。」と心の中で練習して、彼女が店から出てこないかと待ち構えた。
暫くすると、彼女が出てきた。よし、言うぞ、って意気込み、口を開きかけたとき
「今日、車で来たの。」って聞いてくるから、調子が狂うけれど、期待してしまった。
「ううん、歩いてきた。」
「なら、一緒にタクシーで帰ろう。」
悪くない提案だった。車は明日取りに来ればいいやって考えた。
夜の駅前はタクシーが頻繁に通っているから、大通りで手を上げるだけで、すぐに捕まえることが出来た。
「住所変わってないよね。」
「変わってないよ。」
彼女は、私を先にタクシーに乗せた。彼女が乗るのを確認してから、扉がパタンと閉まった。
「どこまでいきます。」
彼女は私の家の近くのコンビニを言ってくれた。
小声で「あなた、今どこに住んでいるの。」って聞いたら「すぐ近く。」って嘘を吐くの。近所のスーパーであなたを見かけたことなんて一度もないもの。
タクシーは私たち二人を乗せて、ネオン街を抜けていく。街灯がロマンティックで、待ちゆく人はキャストみたいだった。
タクシーの中で私たちは一切会話しなかった。タクシーの運転手さんに会話を聞かれるのが恥ずかしいの。けど、運転手さんは前を向いてなきゃいけないからこっちを向いてないわけ。だから、彼女の右手の中指に私の左手の薬指をくっつけたの。あなたは、窓の外を眺めていたね。今は、これぐらいの距離がちょうどいいの。
街灯が少なくなってきて次第に住宅が多くなった。
日本海が見えて残念に思う私がいた。
後五分もしたらコンビニに付く。
私はそれまでに大人にならないといけないの。魔法は長く続かない。「楽しかった。またね。」って言わないといけない。五分なのに、私には一分のように感じた。
「ここですね。」って言って、タクシーは左のウインカーを出してコンビニの敷地内に入った。駐車場に止めずに、敷地内の真ん中あたりの適当な場所で止めて、「料金はですね。」って確認した。串カツ屋さんでは彼女が払ってくれたのだから、ここはせめて私が払うべきだと思い、財布をありえないくらい小さい鞄から取り出した。すると、彼女は右手でけん制して「いいから」とだけ言って、運転手さんにお金を払った。なんだか申し訳なくて、次会う約束があったら絶対に会わないといけないって責任感すら感じた。
彼女が払い終わりタクシーから出ると、車高が思っていたよりも低かったものだから足がガクッて曲がっちゃった。
彼女は伸びをして海を見ていた。私はそんな彼女を見ていた。
なんだか言うのが嫌になったけど、魔法が解ける前に言わなければいけない。魔法が解けてからだと、言うのがもっと嫌になるもの。
「ねえ、」って彼女を呼ぶと、彼女は海を指して「少し歩かない」って提案するの。
魔法が解けそうだった。けれど、あと少しだけなら許してくれると思うの。言い訳を探していた。ここで、彼女の提案に乗ったら、別れが辛くなるだけなのに。黙って立っていると、彼女は「はら、ねっ。」って手を握りながら優しく微笑んだ。それが本当にずるいの。
今の私には、一緒に海に行くって選択肢しかなかった。
彼女に手を引かれながら海に向かった。
コンビニの向かいの海は砂浜があり、夕暮れだととても奇麗に海が反射するの。今はもう辺りは暗くてそんなことはないけれど、夜の海も心躍らせてくれる神秘さがあった。
砂浜に着くと、彼女は靴と靴下を脱いで、靴下を靴の中にしまってから歩き出した。私も、石段に座り、ベージュのストッキングを脱いで、ヒールの横に置いた。
砂はひんやりとして、指が砂に埋もれていく感覚が楽しくて足踏みをした。彼女はそんな私を見て、「少し座らない」って言うの。さっきから彼女は素敵な提案ばかりしてくれる。
私は、膝を丸めてかがんだ。すると彼女は「おいで」っていって隣を叩くの。服に頓着がないのも変わらずだけど、彼女の方が正しかった。
私は彼女の隣に行って、ゆっくり座った。
何も言わずに海を見る時間だった。言葉はないけど、このままでいいと思った。呼吸の仕方も忘れて、途中口で呼吸した。私だけがうるさいように思って、心を落ち着けようと、月を見上げた。
「奇麗だね。」
彼女は何も言わなかったけど、聞こえていたと思う。
「生まれ変わるなら吸血鬼がいいわ。」
急に、そんなことを言うものだから、
「どうして。」って聞き返したの。喋ったと思ったら、そんなことを言い出すのだもの。
「日が昇るまでずっと抱き合っているの。日が昇ったら、二人で灰になって世界を巡るの。」
あなたが初めてロマンチックなことを言い出すから、私笑ってしまったの。高い声で、海の向こうまで聞こえそうなほど。
「素敵だと思わない。」
あなたはこっちを向かなかったけど、恥ずかしかったのかな。あなたのキャラに合わないもの。
奇麗な横顔ね。本当に、あなたって何考えているか分からない。
けどね、言いたいことがあるの。
来世があるのなら私はあなたの子どもがいいの。
