教師は娘が切ったのか、髪型を問い詰めるような口調だった。
「誰のものだろ。その人のものだ。だから別に、」
「なら、自分のものだから別に」
娘は母親に言い当てられたように、少し怒ったような口調で言うと、母親は「いや、それはでも」と言葉を濁したが、娘の言葉で自分のものではないと言われ、「……ありがとうございます」と礼を述べた。
「お姉さん、もういいから、」母親が娘に話しかける。
「ありがとう」
「もう、いいんですよね」
「うん、もう、いい。
ちょっと、いいから、」
父親が母親に言うが、娘はそちらにいかない。
視線を合わせず、母親の手から、自身の手を取る。
手を握られて驚いた父親が、娘の手を見て、なんだ、と言っているが、娘は無言で、手を握られていて。
何だ、と父親が父親を見ると、父親はあっけなく手を取られ、「いたい」と言って、娘を見た。
母は、母の手に、自分の手の平を当てる。
「いいから、」そう父親は言うが、娘は父親の手を取り、自分の手の平を、母親の手の平に合わせる。
「あ、いたい、」
父親は母親の手に手を当てれば、自分の手に当てることが出来そうだと言うほど、手に力が入る。
父親の手から、自分の手を引き寄せ、母親の手に当てた後は、父親が母親の手から受けたせいで、母親が父親の手から受けたため、握る手が強くなる。
力いっぱい引き寄せられる自分の手に、母親が自分の手を当てれば、強くなる。
強くなった手に、自分が乗っていた手を、娘は、引き寄せれた。
「……ありがとう」と父親は呟いた。
娘が母親の手を両手で掴み、父親から視線を移した。母親は娘に「なんで、、、あんな言い方するの」と怒るつもりはないようだ。「いや。、......何となくよ、」と母親はそれ以上は言わず娘の部屋に戻って行った。
母親も後に続き、部屋を出ると、「あんまり怒るなって」と、声が掛かった。
「……」娘も黙っている。
母親は娘をちらりと見てから言った。
「私には、あれくらいしか思いつかなかったわ。
それなのに、そんな言い方って……。
それに、何て言って欲しかったの?」
娘は何も答えない。
ただ俯いているだけだ。
母親は溜息を吐いて、「分かったから。
ごめんなさいね」と言い、部屋に戻ろうとする。
娘は母親の後ろ姿を見ているだけで、何もしない。
「じゃあ、明日ね」と母親は娘に言い残し、部屋に入って行く。
部屋の中に入った母親は、扉越しに聞こえる娘の声を聞いてしまう。
「心配しないで。お休み」と言われた。
翌朝、娘はいつも通りに起き、朝食の準備をし、
「お母さん、朝だよ」と母親を起こしに行く。
母親は目を覚まし、身体を起こすが、すぐに横になる。
「どうしたの?」と娘が尋ねても、母親は何も言わずに、また横になった。
母親は布団の中で考えた。
(昨日、
「あんな言い方って……」と言っていたけど、何に対してかしら?……でも、何だかんだで、謝った方がいいかしら?)と思いながら、寝返りを打つ。
しかし、考え直したようで、そのまま、二度寝してしまった。
それから一時間後、娘が起きてきて、
「おはようございます」と言うと、母親が目を開けて、上半身を起こした。
そして、「おはよう」と言った。
母親はベッドから出て、洗面所に行き、顔を洗い始めた。
その様子を見た娘は、台所へ行き、朝食を作り始める。
しばらくすると、母親が戻って来て、
「いただきます」と食事を始めた。
「いただきます」娘も同じように言い、食べ始める。
娘は朝食を食べながら、ふと、昨夜の事を思い出してしまう。
母親に言われていた言葉を思い出してしまい、胸が痛む。
(私は悪い子なんだわ)そう思うと悲しくなってしまうが、涙だけは我慢していた。
「今日は何時に帰るの?」
「……お昼前ぐらいに帰ります」
「わかった」
娘はいつも通り登校した。
授業は退屈でみんなも娘も上の空。
休み時間。女子の輪に彼が割り込んで来た。
「おい!知ってるか? あいつの事!」
「え!?なになに!?」
一人の女子が聞くと、
「お前、あいつとは話さない方が良いぜ」と言われた少女は首を傾げた。
「何で?」
「あいつはなぁ、俺の母さんの妹の娘さんなんだけどな、そいつの家が金持ちらしいぞ。
しかも、あいつが住んでたとこなんて豪邸だぜ!」
(私ったら、そんな風に言われてるんだ……。
「そうなんだ。
知らなかった……」少女の声は小さいので、男子生徒達には聞こえない。
「でもさ、あの子だって、私達と同じ高校生じゃん。
なんでそんなこと分かるのよ?」もう一人の女子生徒が言うが、
「いや!俺もそう思って、調べたんだよ。
そしたらよぉ、やっぱり凄い家だったよ。
だから、絶対に関わらない方が……」と言い掛けた男子生徒を遮った生徒がいた。
「うるせぇよ」と言う声に遮られてしまった男子が言った生徒は誰なのか分からないようだ。
「えっ? 何が?」聞き直す男子生徒に答えたのは、やはりというべきか彼だった。
「お前らが関わるかどうかの話だろ?」彼はそう言うと、教室を出て行った。
残された生徒の一人が聞く。
「どういうことなんだよ」すると彼が答えてくれた。
「どういう事って、お前も言ってたじゃないか。
俺達より裕福な生活をしてるってことだろ?」と当たり前という顔で答える。
「それが、どうしたんだ?」と尋ねる彼に、女子生徒が詰め寄った。
「だからさ、なんでそんな事が言えるのかって事でしょ?」と言うと、彼も分かったようで、説明することにしたようだ。
「……まぁ、それは、あれだ。
あのお嬢様はな、親がいないらしいからな。
一人で暮らしてるんだって」と答える。
しかし彼女は不満そうに言う。
「へぇーそうなんだ。
でもさ、それと、あんたが言ってることって関係無いんじゃないの?」彼の態度が変わったのが分かったらしく、口調を変えずに続ける彼女だが、彼女も少し不安そうな様子が伺える。
そんな彼女達を見て言う彼に続けて聞いた。
「……で、他には何か分かったのかい?」
「あーっ、あとはだなぁ……確か、お金持ちのお祖母さんの家に住んでるとかだったな。
後は……」