レオともう1度会いたくて、彼にもう1度触れたくて、記憶を具現化した。現れたのは、いまにもどこかに飛んで行ってしまいそうな綿毛だった。

 彼の記憶からはタンポポの花が咲く。神様に与えられた恋の花、そして別離の花。彼の名前と同じ花。暖かい春の花。この花は絶対に、彼が安らげる場所に咲かせると決めた。それまで、大事に大事に小瓶の中にしまっておこう。

 庭にレオのお墓を作った。そこには母さまの花の種を植えた。レオのお墓に、レオが綺麗だと言ってくれた花を供えてあげたかった。

 極寒の地に花を咲かせるために、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。花が咲いた夜、流れ星が流れた。どうか、レオが安らかに眠れるようにと祈った。

 数年後、夏には花畑とも呼べるくらいに花が咲くようになった。同時に、少し離れた町で「花畑の魔女」の噂を聞くようになり私はレオと暮らした家を離れた。私がそこにいることでレオが眠る場所を荒らされたくはなかった。レオとの最期の約束である、暖かくて綺麗な場所を探してレオの花を咲かせたかった。

 ヨーロッパではいまだに魔女裁判が幾度となく行われているらしい。南へ、南へと終の棲家を探しに行った。

 1782年を最後に魔女裁判はなくなった。差別と紛争と暴力という過ちを繰り返し、21世紀となった。レオが望んだ世界には程遠いかもしれない。でも、世界は少しずつ良くなっていると思う。

 世界中をさすらう中で、私はずっと終の棲家を探していた。結局私は母の生まれ育った日本へと辿りつき、そこに定住した。この街は暖かい。そして、今日気づいた。私はこの街が好きだ。私は怯えずに眠れる街に来られたのだと。

 小瓶に詰めたレオの花の綿毛を取り出す。レオではないと分かっているけれど、それでもレオなのだ。300年あなたとゆっくり暮らせる場所を探したの。ここで一緒に暮らしましょう。ここはとても暖かくて平和で綺麗な場所なの。
 綿毛にふーっと息を吹きかける。流れ星のようにレオが部屋の中に舞い上がった。

「レオ、大好き」

この部屋には私の魔力が満ちている。ここならばフローリングの床であっても花は咲く。きっと明日にはレオの花が部屋一面に咲いていることだろう。花はその命をその種を媒介して何度でも何度でも永遠につなぎ続ける。これからはずっと一緒にいられる。

「レオ、おやすみなさい」

愛しい人の花が咲くのを待ちながら、私は眠りについた。

「ずっと見守っているよ」

レオの声が、聞こえた気がした。

*****

朝日が昇って、たくさんの花が咲く部屋に日差しが差し込んだ。その中でタンポポに囲まれて眠る魔女が一人。少女はとても穏やかな顔をしていた。