セイラムの港の外れに行ったとき、とても美しい少年を見かけた。岩場に腰かけて楽器を演奏する彼に目を奪われた。私が立ち止まると、彼と目が合った。その瞬間、風が吹いて私の帽子をさらった。宙に舞い上がった帽子を、手を伸ばして捕まえる。綺麗な人の前で少し恥ずかしかった。

「綺麗な人……」
「すごく綺麗だ……」

 2人は、ほぼ同時に綺麗だといった。彼は東洋人を初めて見たらしい。この時に感じた感情は、たぶん恋ではなかったと思う。ただ、美しい絵画を見たときのような感情をお互いに抱いていた。

 彼はよくここに来るらしい。この村で生まれ育った彼と、最近越してきた私。彼は村の市場を案内すると言ってくれた。彼は私の見た目の年齢と同じく13歳。名前はレオ。獅子のように強くあれと名付けられたけれど、森で狩りをするよりも美しい鳥や花を愛でる方が好き。レオは村の美しいものを一つ一つ教えてくれた。

「ただ、この村の冬は少し寒いから、もう少し暖かくて綺麗な街にも行ってみたくなる」

海の向こうをまっすぐ見つめる目は水晶のようにきらめいていた。

 ヨーロッパの魔女狩りの噂を聞いた魔女、魔女狩りを逃れた魔女たちは、同じ集落にいてもお互いに深くは関わらない。魔女同士でいると、目立ってしまうリスクがあるからだ。こんな風に誰かと笑い合うのは初めてだった。とても楽しかった。

 レオはここを寒い場所だといったけれど、私の心は春の日向のように暖かくなっていった。私たちは人目を盗んで、村の外れでよく話をした。ある晴れた夜、レオは私を運河へと呼びだし、私を小さな舟に乗せた。レオは舟を自らの手足のように巧みに操る。港町生まれの男の嗜みだと彼は無邪気に笑う。二人が乗るのにギリギリの大きさのボートを漕ぎながら、彼が夜空の星を指さした。

「羅針盤がない時代の人々は、星を見ながら船旅をしていたんだよ」

 私はその時代を生きてきた。でも、レオにとってはその時代は御伽噺や神話の時代だ。時々思う。私が普通の人間の少女ならば良かったのにと。レオと同じ時を生きられれば良いのにと。

「レオは物知りね」

「いつか、君と舟に乗ってどこか暖かい島に行けたらいいな。そしたら、船旅で星の物語をたくさん教えてあげる」

 レオが私の手を握る。胸が高鳴った。700年間生きてきてこんなにドキドキしたのは初めてだった。レオは私に告げる。

「君が好きだ」

 彼の言葉で、私は自分の中に芽生えた感情が何であるかはっきりと認識した。私は彼にいつの間にか恋をしていた。二人きりの水面で、私たちは唇を重ねた。