わたしには好きな人が居る。
 少し長めの金に近い明るい髪、目を惹く赤いピアスにシルバーアクセ、お洒落なモノトーンのコーデ。
 いつも子犬のような明るく人懐っこい笑顔を浮かべていて、ぱっと見チャラそうな印象の彼は、けれどもとても優しくて紳士だった。

和花(わか)ちゃん、荷物持つよ。貸して」
「ううん、大丈夫……せっかくのデートに本なんて買っちゃったわたしが悪いんだし……そこまで重くもないから」
「何言ってんの。俺が和花ちゃんの空いた手、繋ぎたいだけ。それにその本、ずっと欲しかったんでしょ? 出会えて良かったじゃん」

 そう言って微笑んだ彼は、流れるようにわたしの手から本の入った重たいバッグを取り、代わりにそっと手を握ってくれる。

 彼は、やはり女の子慣れしていそうだ。それでも好きになってしまったものは仕方ない。異性に対する耐性がないと、例え警戒していてもこういう女の子の扱いが上手なタイプに絆されてしまう。

「ね、和花ちゃん。この本読む度に、俺のことを思い出してね」
「うん……」

 初めての恋人。初めて好きになった人。初めてときめきをくれた人。
 けれどわたしはこの美しい彼の名前を、近頃上手く思い出せない。


*******


 私には好きな人が居る。
 少し長めの金に近い明るい髪、目を惹く赤いピアスにシルバーアクセサリー、お洒落なモノトーンのコーディネート。
 いつもクールな表情浮かべていて、ぱっと見近寄り難そうな印象の彼は、けれどもとてもスマートで接しやすい人だった。

玲乃(れの)ちゃん、お待たせ。遅れてごめんね」
「あら、まだ時間十五分前よ」
「それでも……俺が悔しいんだ」
「悔しい?」
「うん、きみの大切な時間、俺を待つのに使わせちゃったから。……ここからの時間は、その分楽しませるね」
「ふふ……期待してるわ」

 そう言って彼は私の手を引き、完璧なエスコートで予約されたディナーに向かう。夜景の見えるレストランなんてベタなシチュエーション。けれど今日は、記念日でも何でもない。

 何にもない日にも特別扱いしてくれる彼は、やはり女の子慣れしていそうだ。それでも好きになってしまったものは仕方ない。これまで付き合ったどんな人よりも、傍に居て安心するし幸せな気分になる。

「わ……これ美味しいわね」
「本当だ。ヴィンテージワインか……この時代に生まれて、こんな美味しいワインを飲む機会と、一緒に飲めるきみに出会えたことに感謝だね」
「ふふ、大袈裟。でも、そうね……あなたに会えたのは、きっと何かの運命だわ」
「……ね、玲乃ちゃん。美味しいワインを飲む度に、俺のことを思い出してね」
「ええ……勿論よ。次のワインも、一緒に飲んでくれるでしょう?」

 初めての幸福。初めての高揚感。初めて大切にされる喜びを教えてくれた人。
 けれど私はこの愛しい時間の詳細を、近頃上手く思い出せない。


*******


 ✕✕✕には好きな人が居る。
 少し長めの金に近い明るい髪、目を惹く赤いピアスにシルバーのアクセに、お洒落なモノトーンのコーデ。いつも✕✕✕な表情浮かべていて、ぱっと見✕✕✕そうな印象の彼は、けれどもとても✕✕✕だった。

「ね、✕✕✕ちゃん。✕✕✕の度に、俺のことを思い出してね」

 朧気な記憶、断片的な印象。きっと幸せだった時間。けれどそんな彼の何もかもを、もう思い出せない。


*******