「ごめんね」

なんで謝ってるんだ、何に対して謝ってるんだ。
俺を抱きながら母が言う。

「ごめんね」

床に大きな涙を次々に落として言う。

「ごめんね、ごめんね」

少し離れたところに父がいる。俯いて、歯を食いしばって、、、


深夜、物音で目を覚ましてしまった俺は、喉を潤すために台所へ行った。
その時、玄関で物音がした。泥棒かもしれない、、、
近くにあったフルーツナイフを片手にゆっくり玄関へ行く。
そこで見た光景に、思わずナイフを落としてしまった。
泥棒ではなかった。

「え?お父さ、、、んと、お母さん?」

目の前には、大きな荷物を持った父と母がいて、扉を開けるところだった。

「るり、、、お前、起きて、、」

驚いた父の声が俺の耳を通り抜ける。
母が突然、荷物を話して俺に抱きつく。
同じ単語を、何度も何度も叫んでいる。

あぁ、俺は生まれてくるべきじゃなかったのかな、、。

こうなる事はなんとなく分かっていた。
俺が、父さんと母さんをここまで追い込んでしまったんだ。

父さんと母さんを、これ以上追い込んだらだめだ。
縛ったら駄目だ。
一緒にいては、、、駄目だ。

高一の成長途中の少し大きな身体で、俺は母を突き放した。

「行っていいよ」

静かに、落ち着いた声で言う。

「る、、り、、、」

震えた母の声

「行くなら、行くなら早く行ってくれる?」

突き放つように冷たくいうと、母の表情は悲しげに曇った。
父が何か言いたげに顔を上げたが、
「ごめんな」
と一言だけ残して外へ出た。

父に腕を掴まれ、父と外へ出た母は一度だけ振り返って、、
「机の上に薬、あるからね、、」
俺に言った。


バタン、と扉の閉まる音が響く

ナイフを拾い上げて台所に戻しに行くと、そこの机の上には母が言っていた薬があった。
薬の横には見覚えのある時計と手紙もあった。

「これ、父さんの」

父さんが、初めて自分のお金で買った大切な時計
俺が欲しいと言ったことが一度だけあった。
それを覚えていたのか、、、、
手紙は母が書いたものらしい、今は読む気がしない。


そして、両親からの最後の贈り物は、

数分後、

両親の形見となった。