「ねぇ希望ちゃん、これからクラスの皆で打ち上げに行くんだけど、希望ちゃんも来る?」


 あぁ、この間の文化祭と体育祭のものか。

 今日は特に予定もないし、クラスと人たちとのそんな集まりにもあんまり参加できてないから行こうかな。

 でも親にも聞いておこう。


 「うん。よければ行きたいな。親に聞いてみるから少し待ってくれない? 多分すぐ返信来るから」

 「えっ? うん…。」


 2人がお互いの顔を見あっていて、わざわざそんなこと聞くの、と思っているのが鳩が豆鉄砲を食ったような顔から読み取れる。


 【今日、クラスのみんなで打ち上げをするらしいので、私も行っていいですか?】

 【いいけど、何時頃まで?】


 何時頃までだろう。

 分からないけど遅くなるだろうな。


 【分かりませんが、遅くなると思います】

 【遅くなるではなく何時かの目安がいります。誰かに聞いてみて】


 威圧的な返信に顔が引きつる。

 そんなに事細かく決めれないに決まってるでしょ。


 「終わりって何時くらいとかの考えってある?」

 「えっ? あーっと、いい具合になったらかなー?」

 「うん。これと言って何時に帰るみたいなのはないかな。途中で抜けるの別に気にしないから全然ありだよ」

 「そっか。行くなら途中抜けさせてもらおうかな」


 【これと言って決まった時間はないらしいですが、途中で帰るのも大丈夫だそうです】

 【だとしたら行かせれません】


 は?

 わざわざ途中抜けオッケーっていう情報まで言ったのになんで?


 【途中抜けは相手への印象がの悪いです。それで時間の目安がないのなら勉強時間にぶれが生じます】

 なにそれ。

 どれだけ遅い時間に帰ってきたって勉強させてるじゃん。

 早く帰ってきても遅く帰ってきても同じ時間勉強させてるでしょ。

 そう思い、胃に締め付けられるような痛みと何者かが胃の中で暴れ回っているかのような不快感が訪れる。


 【でも、友達は全然気にしないと言っているので遅くならないように帰ってくるようにします】

 【ひかり、そんな中途半端に打ち上げなんて参加して、勉強は大丈夫なの? そんな中途半端に参加なんてしたら、勉強中も気になって身が入らないでしょう。お母さんたちもわざわざ希望に合わせて生活してるんだから、自分勝手なことは言わないで頂戴】


 自分勝手?

 これだけ連絡も勉強もして、言うことも聞いてるのに

 私からすれば何一つ自分勝手じゃない

 いつもいつも色々な何かに縛られて生活している感じがする。

 鳥籠に入れられているような気分。

 希望の大学は親が言った大学の名前を言って、新しく学んだ言葉を復唱して復習して何度も頭に叩き込む。

 扉を開けて学校に行って、自由だと思ったら「優等生」の檻に自ら入る。

 私は気がついたら狭い鳥籠に囚われているのかもしれない。


 「えっと、希望ちゃん、結局どうする?」

 「あっ、ごめん。お母さんに勉強しなさいって言われちゃったから。また別の時に行かせてもらうね」

 「そっか、そうだよね。希望ちゃん難関大学希望だもん。ごめんね勉強の邪魔になる様なこと言っちゃって」

 「柏木さんが謝ることじゃないよ。私こそごめんね」


 なんで私の意思で行くことができないんだろう。

 どうして私に自由はないんだろう。


 「希望のちゃんってなんか、あれだね。お母さんの言いなりになってるっていうか、お母さんに決めてもらわないと何もできないみたいな」


 離れたところで柏木さんが漏らした言葉は一直線にわたしの耳に届いてきた。

 うるさい。

 私は何もできないんじゃない。

 言いなりになってるわけじゃない。

 
「ね。正直、行っていいかとかわざわざ聞くもの?って思っちゃった」


 私だってわざわざ聞きたくない。

 でも聞かないと後で怒られるのは目に見えているから聞くだけ。

 母親に連絡するためスマホを取り出す。

 指紋がついて少し霞んだ画面から覗く自分の瞳に光は見えなかった。


 【ごめんなさい。課題がたくさん出ていたことを思い出したので、今日はやめておくことにしました】

 【そう。希望のが考え直してくれたのなら良かった】


 私が我慢する意味はなんなのだろう。


 [でも、私は打ち上げに行きたかった。なんで私ばっかり我慢してないといけないの]


 文章を見返してため息をつく。

 右上の方にある削除ボタンを長押しして何も無かったことにした。

 結局私は、思ったことを知らないふりして空白というもので自分を守っているのかもしれない。