チャイムの音が鳴ったと同時にガタガタと音を鳴らしながら、皆が慌てて席に座る。
座ってその音を右耳で聞きながら知らぬ間に小さなため息が漏れる。
2分前に座るだけなのになんでこんなに出来ないの?
なんであんなに皆時計を見ないの?
何度目かも分からない疑問をぎゅっと胸の中にねじ込む。
「お前ら早く座れー! 授業始まってるぞー!」
授業担当の先生が少し遅れて教室に入ってくる。
分厚いプリントを抱えているあたり、今日も発展問題をつめこんだプリントだろう。
嫌な気持ちと戦いながらも、授業のノートを開き、今日の日付を書きこもうとシャーペンを握る。
「おい滝采! いつまで立ってるんだ、お前は早く座れ!」
「はいはーい! わかってるって先生〜!」
そんな会話を聞いて横目に名前を呼ばれた男子、滝采琥珀を見てみる。
ヘラヘラと笑いながら自分の席に戻って行った。
と思ったのだが、ガンっと物体が軽く当たったような音がして、再びその方向に顔が吸い込まれる。
すると、滝采琥珀がある男子の机にぶつかったようだった。
当たられた男子は彼に何か言うような仕草をして、彼はまたヘラヘラと笑って返し、かつ当たられた男子にキックを食らわす。
その行動に眉がぴくりと動き、お腹の中がぐずぐずと掻き乱される。
なにあれ。
授業を自分のせいで止めてること分かってないの?
それとも、止めることを悪いことだと思ってないわけ?
なんとも言えないお腹の感覚に気持ち悪さを覚えつつ先生の声を聞いて今日の一限目が始まった。
*
机に付きそうなほどの近さでプリントを見ている彼を見て、再び胃の中がぐるぐるとした。
目が悪いなら眼鏡でもしろよ。
そんな気分の不調の八つ当たりのような考え方をしてしまった自分に対し、またお腹の中で正体不明のなにかが暴れ出した。
『太陽みたいな滝采琥珀が、私は苦手だ。』
空白のノートの一行目にサラサラと書く。
そして、何事もなかったかのようにその一行を消し、プリントの問題を解き始める。
優等生もどきの私には分からなすぎて、おのずとノートは空欄だらけになり、すかすかだった。
これは家で捨てよう。
ノートからびりびりと破いて切り離し、無地のクリアファイルに突っ込んだ。
次のページを開き、訳も分からない公式を用いた解説を、隙間なく黒一色で写していると、気がつけば授業は終わっていた。