「ねえ、吏玖くん」
「なに」
「高校卒業するまで、あたしと付き合わない?」
未亜がおれの耳元で、そんな提案をこっそりと持ちかけてくる。
「は? なんで?」
意味がわからなかった。だって、未亜が好きなのは——。
窓際にいる隼人に視線を向ける。つい一ヶ月前までは一緒にバカな話で盛り上がっていた親友が、今は灯里のことだけを一途に見つめている。
近頃の隼人の目には、灯里以外映っていない。自分の知らない親友の顔を目の当たりにして、心臓がズキンと痛くなる。
隼人から目をそらすと、おれのほうに肩を寄せていた未亜と目が合った。
「ねえ、吏玖くん。秘密の共犯者になろうよ。あたしと付き合えば、吏玖くんはもっと、隼人と一緒にいられるよ」
未亜の言っている意味がよくわからない。けれど、未亜の提案を受け入れれば、隼人に対して感じる胸のモヤモヤは自然と消えてなくなるのかもしれない。だったら……。
「いいよ。付き合っても」
無感情な声で言うと、未亜が、ふふっと笑った。
「やったー。嬉しい」
「いや、ウソじゃん」
完全に棒読みな未亜の言い方に、つられて、ふふっと笑ってしまう。
ふつう、こういう話は、誰もいないふたりきりの場所で交わされるものだと思う。だけど、おれと未亜の場合は《ふつう》じゃない。
高二の冬。クラスメートたちの話し声で騒がしい教室で。おれと未亜は卒業までの期間限定の恋人になった。互いに、伝えられない思いを胸に抱えて。