「吏玖くんがご機嫌斜めな理由は、あれだ」
「あれ……?」
「そう、あ、れ」
未亜が、一音一音区切って発音しながら、教室の窓のほうを指差す。その先にいるのは、小学校からの幼なじみの灯里と、高校になってできた親友の隼人だ。仲良さそうに顔を寄せ合って話しているふたりは、一ヵ月ほどくらいから付き合い出した。
付き合い出してからのふたりは、そんなに一緒にいる必要あるかってつっこみたくなるくらい、学校でいつも一緒にいる。特に、灯里のほうが隼人にべったりだ。
人目も気にせず、隼人の腕に腕を絡める灯里の姿に顔をしかめていると、未亜がおれのほうに少し身体を寄せてきた。
「吏玖くんてさ、好きでしょう。隼人のこと」
瞬間的に、「へ?」と間抜けな声が出る。それから少し時間差で未亜に言われた言葉の意味を理解すると、かーっと頭に血が上った。
おそらく美亜がおれに指摘したのは、単純な友達としての好意ではなく、もっと違う意味のものだ。
「……、そんなわけないだろ」
咄嗟に否定したけれど、未亜に言われた言葉は今まで他の誰に言われた言葉よりも妙にしっくりきて。その感覚に戸惑ってしまう。
灯里と付き合い出してから、隼人は灯里を優先するようになった。前までは、おれの遊びの誘いに100%の確率でのってくれたのに、最近は誘っても3回に2回の確率で断られる。そのたびに胸がモヤモヤして愚痴っていると、他のやつらは「幼なじみの灯里ちゃんを隼人に取られて悔しいんだろ」と言ってきた。
灯里をとられて悔しい――? それって、おれが灯里を好きだってこと……?
考えてみたけど、小学生のときから知っている灯里は、灯里以外であり得ないし。そこに無理やり恋愛感情を載せようとしてみても、しっくりこなくて気持ち悪い。
灯里と隼人がふたりでいるところを見るたびに、苛立ってモヤモヤする気持ち。それがなんなのかずっとわからずにいたし、わかろうともしてこなかったのに……。