「好きな人に気持ちを知ってほしいとは思わない、なんて。ウソばっかじゃん」
いや、違う。最初から全部、勘違いしていたのはおれのほうだ。
『吏玖くんてさ、好きでしょう。隼人のこと』
初めにそう訊いてきたのは未亜だった。
だけど未亜は一度も、自分もそうだとは明言してない。
スマホをぎゅっと握りしめると、玄関に向かって廊下を走る。
「え、ちょっと、吏玖?」
驚いたように呼び止める母の声を無視して、玄関を飛び出す。
今ならまだ、未亜と交わした「バイバイ」を明日以降の未来につなげることができるだろうか。
エレベーターでマンションの一階まで降りると、未亜のライン通話を選んでスマホを耳に押しあてる。
どうか、まだつながって――。
マンションのエントランスを飛び出して駅に向かって走るおれの耳に、一回目のコール音が鳴り響いた。