ごめんなさい
ごめんなさい

そんな言葉を、頭の中でずっと繰り返していた。

あたしのせいで
あたしのせいで

山吹さんは_





家への道を歩きながら、あたしは自分への思いを巡らせていた。

どうして、どうしてあの時あたしは_

それだけが頭の中をぐるぐると駆け回り、あたしを滅ぼす材料となる。

救急車が来た後、怖くて怖くてあたしは救急車に乗らなかった。

だって、あたしのせいなんだから。

山吹さんが目を覚ました時、あたしはどんな顔でいればいいの?

もしかしたら、目だって覚まさないかもしれないんだから。

ごめんなさい
ごめんなさい

心の中で謝ったって、何か変わるわけじゃないのにずっと謝っている。

救急車に乗らなかったのだって、あたしが弱虫なせいなんだ。

あたしのせいなら、なおさら乗らなきゃいけないんじゃないか。
どうしてあたしはこんなにアホなんだ。

山吹さん
山吹さん

今まで何度も読んできたはずなのに、心の中で呼ぶだけで胸が締め付けられる。

ごめんなさい、山吹さん

何度もごめんなさいと胸の中で繰り返して、ついてしまった家を見上げた。
ぼんやりした視界の中で、恐る恐る玄関の扉をひらく。

その瞬間、鋭い声が飛んだ。

「どこに行ってたの!」

火のような、水のような。

そんな表情と声に、あたしは思わずびくりと体を反応させる。
そんなあたしの腕を、お母さんは容赦無く掴んだ。

憎しみが込められた目をあたしにみけ、唇を塗りたくった口を開く。

「あんた・・・・私を置いていくわけ⁉︎産んでやったのに!私のおかけであんたは・・・お前は今いるんだよ!」

_何それ

瞬間的に、そう思った。

私のことなんか、育てなかったくせに
勝手に産んで、勝手にどこかに出かけたくせに

そんな言葉が胸の奥から次々と出てくるが、それを口に出すことはできなかった。

あまりにも怖い顔をした自分の母親に、恐怖を覚えてしまったからだ。

お母さんは何も言えないあたしに苛立ちを感じたのか、さらにあたしを掴む手に力を込める。

「お前の・・・お前のせいで!お前のせいで私の人生はめちゃくちゃなんだよ!ちゃんと責任持ってこの家にいなさいよ!」

お前のせいで、あたしの人生もめちゃくちゃだよ
お前だって、責任持ってちゃんとあたしのこと育てろよ

瞬間的にそう思ってから、自分が思ったことに自分で驚いた。

それは誰にも見えない胸の中なのに、それを隠すように思わず俯く。

さらに何も言わないあたしの腕を離してから、今度はあたしの肩を力強く掴んだ。

あたしの肩に、衝撃が走る。
お母さんは力なくにこりと笑った。

真っ赤な赤色のネイルをした爪が、あたしの髪に触れる。

「ひまりちゃん」

さっきとは違う、落ち着いた優しい声。
ボサボサな髪を揺らして、さらに笑みを深めた。

「ひまりちゃんのことね、大好きなの。だから、どこにでも行かないで欲しいの」

そういい、またニコリと笑ったかと思えば、あたしを掴む手に力を込める。

「ねえ、わかる?わかってくれるわよね?」

何を考えているのか全く見通せないその目に、思わずビクリと体が震えた。

同意を求めているのかこの人は

さっきから意味のわからない発言をしているくせに、謎に同意を求めてきている。

怖い、怖いよ

本当はあたしのことなんか好きじゃないくせに。

下手な、適当な嘘をついて、きっと外
でもうまくやってきたんだ。
そうなんだ、そうなんだ。

母親の揺らぐことのない視線を見ながら、拳を握りしめる。

こんな綺麗な顔をして、なんてことを考えているんだろう。

本当に、恐ろしい人だ。

お母さんはあたしが黙っているのを同意したと勝手に思い込んだのか、あたしを抱きしめた。

「ひまりちゃん、ありがとね」

何もいっていないのに

そんな言葉を胸に押し込み、何か言ってしまいそうなのを堪えた。

お母さんのきつい香水が、鼻を刺激する。

ボサボサな髪を揺らして、きつい香水の匂いをまとわりつかせて、口紅を塗りたくった唇を開いて。

「・・・疲れちゃった。もう寝るわね」

掠れた声でそう言って、あたしを突き放すように放してからまた寝室に潜り込んでいった。

それを呆然と見つめている途端に、怒りと悲しみが込み上げてくる。

あたしをおいていったのに

今さら重い愛を投げられても困る。

「・・・大嫌い、嘘つき」

私も掠れた言葉を発して、ぼやける視界の中部屋に潜り込んだ。