あたしたちが大笑いした後に、あたしの自己紹介ははじまった。
緊張しながら、もぞもぞと口を開く。
「・・・あ、あたしの名前は小笠原ひまりです。年齢は16で・・・それで・・」
_あれ。
なんでだろう。
次に言う言葉が思い浮かばない。
言葉に詰まっていると、山吹さんが助け舟を出してくれた。
「趣味はー?あ、ちなみに俺は散歩ね!」
散歩しているときにあたしを見つけたのかな、と心の底でぼんやり思いながらあたしはその質問に対して口を開_こうとした。
でも、そこで固まった。
_あれ?あたしの趣味ってなんだっけ?
せっかく言ってくれた質問なのに、それだけが頭の中をぐるぐる回る。
答えを待ってくれている優しい山吹さんの期待のようなものを裏切りたくなくて、あたしは無理やり口を開く。
そして、「いつも」の笑みを浮かべると適当に出てきた趣味を元気な感じでいってみた。
「さ、裁縫とかですかね?ぬいぐるみとか作ったりはあるかもです!」
ぬいぐるみは作ったことないので一応「かも」をつけておいた。
そうすることによって、「そんなこと言ったっけ〜?」で誤魔化せるもんね。
あたしは、山吹さんの明るい声を期待して待ってみた。
でも、いつまでたってもその声はきこえない。
むしろ、あたしの顔を_
辛そうに、悲しそうに見つめていた。
そんな山吹さんの顔を見た瞬間、あたしの頭は真っ白になった。
_え
_どうして?
そんな気持ちがどんどん湧き出てきた。
普通の人なら、いいね、とかそんなこと言って笑ってくれるのに。
でも、その理由はすぐ見つかった。
山吹さんが自分から口を開いたから。
「・・・ひまり_ちゃん」
暖かい微笑みで、初めてあたしの名前を呼んだ山吹さん。
なぜか、その笑みに心の奥の奥がどきりと高鳴る。
ゆっくり口を開く山吹さん。
あたしはその言葉の続きをゆっくりとまった。
「_ひまりちゃんは」
そこで、山吹さんの声が途切れる。
それで、あたしは全てを察してしまった。
気づいちゃったんだ、山吹さんは
_あたしが、嘘の笑いを浮かべていたことに。
でも、それを言おうか言わないか迷っている。
そういうことなんだ。
山吹さんが、優しすぎて、
でも山吹さんが優しいからこそ、今はそれが痛々しい。
嬉しいよ、嬉しいんだよ。
あたしの目に、思わず涙が溢れる。
ぼやける視界のなかで、あたしは口の端を無理やりあげて笑ってみせた。
きっと不細工な笑みだっただろう。
そんなことはわかっていた。
山吹さんはそんなあたしに対して、悲しそうに笑って、寂しそうにして、辛そうに笑った。
この場から、逃げたかった。
でも、それができなかった。
あたしは、手で目元ををぬぐって溢れる涙を止めようと必死に擦った。
山吹さんは、そんなあたしを見て黙ったまま。
でも、あたしを優しいまなざしで見つめた後、大きくて優しい手をこっちに伸ばした。
_ポン
あたしの頭に、山吹さんの優しい手がゆっくりのる。
あたしは、驚きのあまり山吹さんの顔をまじまじと見つめてしまった。
「や、山吹さ・・・?」
混乱の声を出すと、山吹さんは少し焦るもすぐに恥ずかしそうな顔をして、あたしの顔を見つめ返す。
そして、ゆっくり口を開いた。
「無理、しないでね」
たった一言の、優しい言葉。
それが、あたしの心に響いた。
その一言に、あたしは驚きのあまりになくなった涙をまたこぼしてしまった。
暖かい涙が頬をつたう。
泣いたら、山吹さんをもっと混乱させてしまうだろう。
それは、わかっていた。
でも、涙は止まらなかった。
あたしは少し口を開いて、掠れた声で「ごめんなさ、い」と言った。
すると山吹さんは驚いたような顔をして、さらにあたしの頭を撫でた。
その心地よさに、あたしは胸が暖かくなる。
そして、山吹さんは包み込むような笑みで言ってくれた。
「いいんだよ。泣いていいんだよ」
その言葉に、あたしはなかなか涙が止まらなかった。