「退院、おめでとうございます!」

明るく淡い色の花束を差し出し、自分でもできる満面の笑みでそういった。

山吹さんは苦笑い、でも嬉しそうな笑いを表情に出し、花束を受け取ってくれた。

「お花ありがとう!・・・でも退院って言っても、そこまで入院してないんだけどね!」

「・・・でも退院は退院ですよね?」

「う、うん・・・。確かに・・・」

「ですよね!」

また満面の笑みで同意を示すと、山吹さんはあたしをまじまじと見てからゆっくりと口を開く。

「・・・ひまりちゃん何か変わったね」

「そりゃ人は変わりますよ」

「う、うん確かに・・ってさっきと同じじゃん!」

「あたしは説得力があるのでつい納得しちゃうんですよ」

「ええ、何それー!」

山吹さんは怒ったような表情をわざとらしく作り、あたしのことを軽く叩く。

楽しそうに笑いながらそう喋るあたしたちは、きっと初めのころから比べると確実に変わっているだろう。

このままずっと楽しく笑いあっていたいけど、そういうわけにはいかない。

あたしは、ちゃんと伝えなくちゃいけないんだ。

「・・・山吹さん!」

「んー?」

「話したいことがあるんですけど・・・」

自分でも呆れるほどにもじもじという言葉が似合う話し方をしていると、山吹さんがニヤリと微笑んだ。

「話したいことといえば・・・」

「あのカフェ、ですよね!」

「ん?」

「え?違いました?」

「え、い、いや、そういう場所とかの話じゃなくて・・・」

「なんですか?」

「・・・・・・。は、恥ずかしいからいえない!」

「なんですかそれー!」

今度はあたしが怒ったような表情を作り、わざとらしく意地悪な口調で言葉を発した。

「あーあ、山吹さんが言ってくれないならあたしもカフェで言おうとしてたことやめちゃお・・・」

「えっ⁉︎ちょ、ちょっと!それを武器にするのはひどくない⁉︎」

「あはは、冗談ですよ!」

「ええ、本当にい、?ひまりちゃん冗談っぽく見えないところあるんだから・・・」

「・・・・やっぱり言わないことにしますね」

「ああ、うそうそ!ごめんってば!」

今度はわざとらしく冷たい態度を取ると、焦ったように、でも笑いながら、手と手をくっつけてあたしに謝罪の言葉を述べる山吹さん。

またそれも大好きでたまらなくて、好き、の言葉が口からでそうになったけれど我慢したのは覚えている。

「・・・本当にカフェ、いけますか?」

「うん!もちろんだよ!」

満面の笑顔で即答を述べられ、あたしも一気に気がゆるむ。

「今日、いけますか?」

「うん!もちのろん!!」

またまた満面の笑みを向けられ、あたしの心拍数はさらに上がっていく。

高鳴る心臓を手で押さえながら、じゃあ、今から行きましょう、と静かに言った。

この後また満面の笑みを向けられ、倒れそうになったのは言うまでもない。





いつものようにチョコレート色のドアを開けて、優しい木の匂いを一気に吸い込む。
体は幸せな気分になり、脳も喜んだ__ような気がした。

端っこの席に座り、適当にメニューを注文する。

そして、あたしから山吹さんへの話したいこと___

けれど、やはり人間というものは緊張、という二文字が必須で、今もあたしに緊張、というものが体中を埋めている。

口を開けて閉じてを繰り返し、ため息。

それを繰り返す自分に呆れてため息。

ずっと何も話さないあたしの言葉を辛抱に待ってくれている山吹さんに、申し訳ない。

チラリと山吹さんの顔を見ると、山吹さんはいつもの微笑みであたしを見つめていた。

う、ごめんなさい、山吹さん・・・。

謝罪するあたしの気持ちが伝わったのかなんなのか、山吹さんはさらに笑みを深めて口を開く。

「・・・焦らなくていいよ、ひまりちゃんのペースでね」

そう言ってコーヒーを飲む山吹さんに、胸がキュンと鳴いてしまったのは仕方ないと思う。

急かさずゆっくりと話を聞いてくれる、優しくて強がりな山吹さん。

面白くて可愛くてかっこよくて。

山吹さんのことが、あたしは、あたしは_____

「好きです、大好きです」

気づけば、そう言っていた。

真顔で好意を表現するあたしの光景はなかなかシュールだったと思うが、伝わっていることを祈るしかない。

山吹さんは少しの間笑みを崩さなかったが、だんだん意味が分かってきたのか今では顔を真っ赤にしている。

「あたし、山吹さんのこと好きなんです。優しくて、面白くて、かっこよくて、ちょっとお茶目なところも、可愛いところも、全部、全部好きなんです」

山吹さんは、固まっている。

でも、もう、伝えるなら、伝えてしまいたい。

「山吹さんに、山吹さんに、たくさん救われたんです・・。あたし、本当に、大好きなんです・・・」

頬に暖かい涙が流れるのを自覚しながら、一生懸命に言葉を繋げていく。

必死に涙を拭いながら、山吹さんの瞳を見つめ続けた。

山吹さんの口元が、少しずつ動き始める。

「・・・ひまりちゃん、それはずるくない?」

苦笑_でも、嬉しそうに笑い、あたしの頭をあの時と同じように撫でた。

「俺も大好きだよ、ひまりちゃんのこと」

え___

その言葉に、思わず顔を上げる。

山吹さんは、少し恥ずかしそうに微笑んでいた。

「可愛くて、優しいひまりちゃんのこと大好きだ」

溢れる涙は、止まることなく頬を流れ続ける。

「あたしも、あたしも・・・山吹さんのこと大好きです!」






あなたと人生を支え合いたい。

そう思うから今日も生きる。

いつも息苦しくて辛いあたしも、あなたと出会って、少し変われた。

少しだけ、息がしやすくなった気がした。