どこにいても、何をしていても、いつもどこか息苦しい__こんな自分のことが大嫌いだ。

真っ暗な暗闇の世界にいつか一筋の光がさすことを祈って、今日も真っ暗な海の中をただよっている。





今日もニコニコスマイルを作って。
素敵な笑顔を作って。
誰もが疑わない、かわいい笑顔を作って。

7時半、あたしは鏡の前で自分を睨みながら唱えていた。
自分の顔に、呪文をかけるように。

下がりそうな口の端を上げると、自分でも思うかわいらしい笑顔が作れる。
そう、いつもは_

昨日あたしは教室で一人自習をしていたのだけれど、眠くなったのかなんなのか、そのまま寝落ちしてしまったのだ。
自分でも馬鹿だと思う。

当然お母さんに怒られる__なんてことはなかった。

_心配されたわけでもないけれど。

まあ寝不足なせいなのか、なかなかいい笑顔が作れないのだ。

心の底からの灰色の気持ちに蓋をして、うまく笑顔を作れないままリビングに直行した。
リビングに行ってまず目に入ったのは、つけっぱなしの電気。

なくなったおしゃれなカバン。
荒らされたクッション。

家に誰もいないことをいいことに大きなため息をつくと、コップにお茶を注ぎ、ヨーグルトを食べてあたしの朝ごはんは終了した。
あたしの胃は、今日もからっぽじゃないようだ。

クッションをいつもの定位置に戻し、少し朝の勉強もして、少しだけ掃除をしたら出発。

これが、あたしの朝だ。

いつもの靴に足を入れて、髪を軽く束ねながら外に出る。

誰もいない部屋に、

「いってきます」

も忘れずに。





学校へ行く道に一歩一歩足を進めるたびに、あたしの足取りはどんどん重くなる。

はっきり行って、行きたくない_これが本音だ。

でも行かなかったら色々友達からの心配がややこしい。

うん、休むなあたし。
自分で自分にうなずくと、あたしは無理やり足を進めた。
_まあ、全く歩く速さは変わっていなかったのだけれど

あたしはもう一度ため息をついて、ポケットから鏡を取り出した。
立ち止まり、鏡に笑顔を浮かべてみる。

・・・うん、だめだ。

ぎこちなく不細工な笑みに思わず笑えてきそうだ。
まあ当然笑えたわけもなく。

もういいや、と乱暴に鏡をしまうと、あたしはまた歩き出した。
ゆっくり、ゆっくりと。
一歩一歩を噛み締めるように。

途中ですれ違った人に、チラチラと見られたりもした。
きっと、苦虫を噛み潰したような顔をしていたからだろう。

でも、そんなの気にならなかった。
とにかく、学校にいくことだけを考えていたからだ。

休んじゃダメ、休んじゃだめ_

自分に言い聞かせながら一歩一歩を進めていく。

とうとう瞳に涙のようなものが浮かんできた時、道ですれ違った男の人に大きく目を見開かれた。
そして、その男の人は驚いたようにあたしの前で立ち止まる。

でも、気にする余裕もなかったので横をすり抜けて行ったのだが、突如腕を掴まれた。

え_

振り返ると、気まずそうにあたしを見ながらおそるおそる口を開く男の人の姿があった。

「・・・学校・・・いきたい?」

制服から見て学校に行く途中だと察したのだろうか。
あたしの腕を掴んだまま、男の人はそう発した。

その言葉に、今度はあたしが大きく目を見開き驚く番だった。

怪しい人だと思って掴まれた手を振り払おうとしても、その気持ちがどうしてもしぼんでしまう。
学校のことを思い出すからだ。

学校のことを考えると、力もゆるむ。
だから、あたしはぼやける視界の中こう答えた。

「行きたくない・・・」

と、半泣きの声で。