「……さて。このように走馬灯とは、その方の人生を振り返るものです。しかし、酷い人生を過ごした方は、総じて魂が汚れて、ひねくれていますからね……最期に振り返ったりしたら、もっと悪化してしまいます」
「確かに、さっきの奴……久遠青司でしたっけ、先輩のこと殴ろうとしてましたもんね」
「ええ、すぐに暴力に訴える、とても野蛮で物騒な魂……。そこで、そんな魂に対し我々が行うのが、今回のような『更正プログラム』です。身近な他者の人生を走馬灯として追体験することで、愛されていたと言う記憶をより強く実感出来るという訳です」

 先程その青年の魂を送った黒衣の男は、まるで通販番組さながらに、声高らかに後輩へと語る。

「成る程! 荒んだ魂は愛情で浄化されますもんね。それで彼の場合、母親だったんですか」
「ええ。プログラムが必要な魂はそもそも素直でない場合が多いので、あくまでこちら側のミスとして途中まで……或いは最後まで観て貰ってください。彼のように集中していたら、途中で止めて、自らの意思で続きを観る選択をさせるとより効果的です」
「勉強になります! でも先輩……愛したことも愛されたこともない魂の場合、どうするんですか?」

 元気に挙手をする後輩の問いかけに、男は笑った。

「おや、そんなの決まってるじゃないですか。ほんの一欠片すら愛されたことのない魂なんて、存在しませんよ。魂とは、生き物だけでなく時には物にさえ、愛を以て宿るものですから」
「そっか……へへ、皆の魂が次に向かう為に、ここで綺麗になれるといいですね! 俺、この仕事に就けて良かったです!」
「はいはい。では、次のお客様のご案内ですよ」
「はあい!」

 満足気な後輩は、気持ちを新たに次の走馬灯を用意しに駆けて行った。その背を見送る男は、一息吐く。

「……まあ、一欠片の愛とも接することのない魂がもし存在するとしても、この走馬灯ルームに送られるまでもなく地獄に落ちて消滅するでしょうし……それは『ない』のと同義ですよね」

 一人残った黒衣の男の呟きは、誰にも届くことなく、白い部屋へと消えていった。