「しかし何度も何度も聖女は世代交代を繰り返し、手記を残す者や新たな信仰を持とうとする者も現れました。……そして数多の犠牲を経て、聖女達に与えられる神の教えは形を変えていったのです」
「……聖女って、今では行事でお祈りをするだけのお飾りでしょう?」
「懺悔も赦しも必要なくなりましたからね。やがて神は赦すことをしなくなり、その判断を人々に委ねることにしました」
「ふうん?」

 退屈そうに聖女の歴史について聞く、幼い令嬢。次の聖女となるべく教育を受ける少女は退屈そうに、今しがたメイドが運んで来た紅茶へと手を伸ばした。

「まあ、こういう歴史があるので、謝罪されたから必ず赦さなければいけないのではなく、赦す赦さないは自分の気持ちで決めていいのですよ、という教えですね」
「はぁい」

 少女は紅茶を一口含み、徐にカップをメイドに投げ付ける。
 そのままメイドの顔面にカップが当たり、床に落ち破片が飛び散る。湯気立つ紅茶を被ったメイドは火傷を負い、その場に蹲り悶絶した。

「お嬢様、何を……!?」
「だって、紅茶、熱かったからゆるせなかったの。私が猫舌なの知ってるくせに」
「ああ、成る程。……赦せなかったのなら仕方ないですね」
「ええ。誰かをゆるすのって、難しいわよね」