本日両親遅くなると連絡があった。
彼女の自室からピロ〜と音が聞こえる。
「これって⋯」
ドアを叩く。
「夜空、それってさ?」
「分かる?私たちが初めてステージで歌った曲よ。」
「だよな!フルートで吹くとまた違うアレンジがかかって、いい味出てた。」
「本当?良かったわ。…あっ⋯」
なにかに気づくと、引き出しをゴソゴソしている。
「朝日、座って?」
「あ、あぁ。何だ?」
手を出すよう要求されると、クリームを塗られる。
「赤くなってる⋯チェロ頑張ってるのね。」
「実は先生が再来週あたりコンクールに出てみないか、って言われて、詰めてんだわ。」
「そうなのね、私も今週末あるわ。ある程度感覚は戻ったし、自信が出てきたの。」
本当にそのようで、最近は前よりも生き生きとした顔をしている。
夜空は弓道との兼ね合いもあり、俺らよりも忙しい毎日を過ごしているはずなのに。
「はい、毎日手のマッサージとかケアしてあげて?」
「分かった、もう寝っかな。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
触れるだけのキスをすると、俺は部屋を出た。
手のひらは甘い薫衣草香りでいっぱいだった。