きーくんの鼓動の音を聞いていたら、いつのまにか眠ってしまったようだ。関節が痛むくらいに熱が上がってきてる気がする。

「きーくん、ごめん。寝ちゃってた」
「いいよ、その間に続き書いてたし」

 きーくんの部屋の外は、もう薄暗くなり始めていて、慌てて帰る準備をする。

「きーくん、じゃあまた明日」

 手を振ってバイバイしようとすれば、きーくんは少し寂しそうに目を伏せた。

「まだ帰って欲しくない」

 珍しいきーくんの弱音に驚きながらも、嬉しさが勝る。きーくんに抱きついて、頭を撫でた。

「また明日会えるから」
「そうだけど、なんかアオイちゃんと居るといつも寂しくなる。別れる時」

 きーくんの素直な言葉に胸がドキドキと高鳴った。熱に浮かされてるせいじゃない、今なら空だって飛んで帰れそう。

「きーくん、あのね」
「なに?」
「大好き。きーくんの目も優しい言葉も、胸をポカポカさせる小説も,全部大好きだよ、えへへ、言っちゃった」

 照れる私にきーくんが近づいて、おでこにキスをする。

「今は精一杯だけど、僕も、アオイちゃんが大好きだよ」

 熱くなるおでこを押さえながら、きーくんに手を振って帰路を急ぐ。このまま、おでこ一生洗えないかも。

 頭の中で反芻するきーくんの「大好きだよ」に気を取られていたせいかもしれない。はじめてのキスのせいかもしれない。

 気づいた時には、ドンっという衝撃音と共に意識を失っていた。