青年に連れられて冒険者ギルド、と書かれた看板が掲げられている建物に到着した。

「ここは冒険者ギルド、各地から腕に自信のある奴らがクエストを求めて集う場所だよ。さっきの話、もう少し詳しく聞かせて欲しいんだ。俺は騎士団に報告をしに行かなければならない。一旦席を外すが、俺が戻るまで悪いがここで待機しておいてくれ」

騎士団に冒険者ギルド、全はこの異世界ワードにワクワクが止まらないのだろう。
目を輝かせながら青年に問いかけた。

「騎士団に所属されているんですか?!」

青年は全の勢いに押されながらも答えた。

「あ、あぁ。自己紹介がまだだったね。俺はカルカーン騎士団の副団長、ケインだ。よろしく頼む」

そう名乗ったケインは冒険者ギルドの受付で一通りの説明をした後に騎士団への報告のためその場を離れた。
2人は受付係にしばらく待つように促され冒険者ギルドの中の一番奥のテーブルに着いた。

「おい、おっさん。クエスト? だとかギルド? だとか騎士団? ちょっとわかんねぇ事ばっかりなんだが」

武仁は席に着くや全に問いかける。

「そうか、武仁はこう言う世界観を全く知らないんだもんなあ! いいぞ、教えてやろう! 簡単に言うと、多分こうだ。この城下町カルカーン、高台の方に城が見えただろう? その城にお偉いさん、この土地を納める領主だとかが住んでいるんだと思う。で、そのお偉いさんに支えて城下町を守ったりする、現代で言う警察や軍隊みたいな組織が騎士団って言ったらいいかな。そして冒険者と言うのは、さっき街道に出た魔物なんかを討伐したり、薬草を採取したり、時には探し物を探したり、とにかく色々な依頼を困った誰かがギルドへ出すんだが、その依頼を受ける人が冒険者で、冒険者ギルドは依頼者と冒険者を繋ぐ窓口のような役割を担っているんだ。この依頼の事をクエストと言って、冒険者はクエストを成功させると依頼者からギルドを経由して報酬が貰える。異世界モノは設定によって多少の齟齬もあるだろうがこんな感じだろうか、理解したかい?!」

興奮しているのか、いつにも増して流暢に話す全だが武仁には情報過多だったようだ。

「お......おう。まあ、その辺はおっさんに任せときゃ大丈夫そうだな......」

武仁にそう言われると頼られたと感じた全は張り切って返事をした。

間も無くして受付から呼ばれ、冒険者ギルドのギルドマスターが直々に話を聞くと言う事で上階へ通された。

受付の女性が「お連れしました」と扉越しに発すると扉の向こうから「入ってくれ」と返事がある。
扉を開き部屋へ入ると歴戦の古傷が強者を物語っているような、なんとも迫力のあるギルドマスターが応接用の卓に着いていた。

「待たせて悪かったな! 早速だが座ってくれ、詳しく話が聞きたい!」

促されるまま卓に着く2人、ギルドマスターはワンドと名乗った。
ギルドマスターともなれば堅苦しいのかと思いきや、どちらかと言えば野生的な身なりで驚いたのは女性であると言う事だ。

「ケインから話は聞いたが、Bランクの魔物がここらに出ただけでも驚いたが! まさか! それを狩るやつがいるってんだからこれは会って直接話をしたいと言うもんだ!」

そう言われ、全は討伐証明のガラス玉のようなものを卓の上へ置いた。

「僕は全、彼は武仁と言います。2人で田舎から出てきましたが、ここへ来る途中に例の魔物と交戦しました。武仁が感知系のスキルを所持していたので魔物より先手を打つことができました。慌てて火属性魔法で撃退しましたが、これ以外は灰になってしまい......。その時に身分証を紛失したんだと思います」

場慣れしていると言うのか、それとも知力が高いからなのか、門兵に話をした時といいスムーズに受け答えする全に対し武仁はこれが大人か、と少し見直した様子だ。
しかしワンドは腑に落ちない様子で深掘りする。

「感知スキルは理解できる、それにより先手を打って火属性魔法を放てたのも理解できる! が、こいつはホークアイと言ってBランクの魔物だ! 火属性魔法で消し炭にするほどの威力となると流石に上級魔法でなければ辻褄が合わないぞ!」

これを聞いた全は門兵の時に感じた違和感を思い出す。

そうか、僕らが授かった力がチート過ぎてこの世界で当たり前とされるパワーバランスを前提にすると齟齬が生まれるのか......。
そう解釈した全はワンドにこう返した。

「はい、僕は火属性上級魔法を修得しています。上級を修得するのは僕らの村では凄い事で、更に高みを目指そうと感知スキルを使える前衛(アタッカー)の武仁と旅をしていたところでした」

「なるほど、そう言う事なら合点がいく! ともなれば全と武仁、と言ったかな! 2人は控えめに言ってもBランク冒険者に匹敵する実力だ! その村だけではない、上級魔法を扱える魔法使いは一握り! 身分証の件はこのギルドで冒険者登録をすれば問題ないだろう! 強き者は大歓迎だ!」

そう言うとワンドは先程の受付係を呼び、2人の冒険者登録と討伐証明の買取手続きをするようにと言い付け、書類整理が片付いたら飯でも食おう、別れ際に言った。
2人は受付係の後について再び階下へ降りる。