ラドンの背に乗り、水上の街フォルダンに戻ってきた一行は、街の入り口で頭を抱えていた。
「レディオーガは大丈夫そうだけど、ラドンは......そのままの姿で街入るのは厳しいね......」
全はラドンの大きな体を見上げながら言う。
「しかし......レディオーガ殿も角がありますからな......冒険者が見れば、魔物だと言う事はわかってしまいますぞ」
ズチも危惧している様だが、武仁の考えは違った。
「いや、いい。魔物と協力して行くんだぜ? そのままで行こうぜ。ただ......全が言うみてぇに、ラドンはデカすぎて街に入れねぇな......」
それを聞いてズチは「また我は......! 流石は武仁殿......!」と言いながら1人騒いでいる。
「あはは......ズチは置いておいて......うん、武仁の言う通りだね。だとすれば......ラドン、ちょっと魔法で小さくしても良いかな?」
全ははじめからそう提案しようとしていた様だ。
「構わぬ。人里など初めてだ、これは当面退屈しないな」
ラドンはそれなりに楽しみの様だ、しかし、レディオーガはやはり難しい顔をしていた。
「妾も行かねばならぬのか? 人の群れに混ざるなど......」
俯きながら言うレディオーガに、武仁が近づくと顔を覗き込みまじまじと見つめながら話しかける。
「嫌なのはわかる、けどよ、お前の力は必要だ。信じろ......っつーのは無理があるかもしれねぇが、悪ぃ様にはしねぇ。俺に着いてきてくれねぇか?」
レディオーガは武仁の言葉に、フン、と鼻で笑いながら「拒否権はあるのか?」と憎まれ口を叩いたものの、「行くなら早くしろ!」と街の入り口に向かいながら急かした。
少し面食らった武仁だが「おう!」と返事をすると、レディオーガを追いかけ、その後ろをズチが追う。
全は魔法創造スキルを使用し、変化(チェンジ)を生み出すとラドンに使うと、見た目はそのままにみるみる小さくなっていく。
「......これは......どう言う原理だ?」
人の頭ほどの大きさにまで小さくなったラドンは、不思議そうにしている。
「僕の思い描く形に変化するように魔法を作って、それをラドンに掛けたんだよ。解除しない限りそのままだけど、街の中では困らないかなって! 不便だったらもう少し大きくする? それとも人型が良かったかな?」
「魔法を作るとは......長いこと生きているが、其方らは実に愉快だな......いや、このままで良い! 身軽だな!」
ラドンは満足気に宙を飛び回ると「良かった。じゃあ行こうか!」と言う全に着いていきフォルダンの門を潜ると、冒険者ギルドまで真っ直ぐ足を運ぶ。
ギルドまでの道で街人の視線を感じながらも、構うことなく堂々と歩いた。
レディオーガは特に関心もなさそうだが、初めての人里とありラドンはキョロキョロと目配せに忙しない様子だ。
一行は無事に冒険者ギルドに到着すると、ギルド内にいる冒険者達はレディオーガとラドンの姿を見て騒ついた。
その声に気が付いたのか、同じくギルドに居合わせたアルテミスとルナが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です!」
そう言うアルテミスに、「クエストの報告をするけど、同席するかい?」と全が尋ねると、「はい!」と返事をするアルテミス。
ルナは他の冒険者同様、ラドンやレディオーガの事が気になる様子だ。
ギルドの窓口で受付のムムに、竜の渓谷にあるとされていた秘境について、クエストの報告をする。
「全さん、武仁さん、おかえりなさい。そしてお疲れ様です! ......そちらは......?」
ムムの言葉に反応したのか、ギルドマスターのサードも仕事の手を止め、ムムの横から窓口に顔を出す。
ムムはレディオーガとラドン、そしてズチに対して恐る恐る聞いてきた。
ギルドマスターも意外な訪問者に驚いている様に見える。
「こんにちは、まずはクエストの報告を。僕たちは竜の渓谷を隈なく探しましたが、秘境と言われる場所はありませんでした。ただ、渓谷内は進むに連れて魔素濃度が高くなっており、依頼主は魔素に当てられて、幻覚を見た可能性があります。それから、奥地でこの古竜に遭遇し、武仁のスキルで使役しました。レディオーガも同じく。更に、渓谷の最奥にある場所には、未発見とされていた雷神の大樹を確認しました」
全がクエストの報告と合わせて、信憑性を高めるために古竜との遭遇、そして雷神の大樹の発見についても話す。
また、レディオーガとラドンについて、使役と言うワードを使えば、人を襲う事はない、と認識させようと考えたのだ。
報告を受けて、サードが口を開く。
「クエストについては、なるほど......依頼者亡き今、これ以上は探求も難しいでしょう。理屈としても納得の行くものです。それに......古竜とは......長年に渡り張り出されていたクエストですが、クリアとしましょう。お疲れ様でした。......しかし信じ難い......聖人の器とは言え、本当に規格外が過ぎて驚かされます......使役とは......それにレディオーガや古竜と言えば3強の魔物......伝記や図鑑でしかその存在を知る者はいませんよ......その上、雷神様の大樹とは......」
サードがそう話すと、武仁が割って入る。
「おう、だからよ、3強の魔物に頼んでよ、人と協力関係になろうって話なんだわ! 魔物のトップが言えば、それよか下の魔物は聞く耳持つだろ? 厄災前に話詰めてぇからよ、国王に話通しに行ってくる」
「......凄い話ですね......わかりました。そう言う事でしたら早い方が良いでしょう。雷神様の大樹を発見された件も陛下に報告された方が良いかと」
サードは驚嘆しながらも淡々と答え、事務処理を済ませるとクエスト報酬の白金貨1枚を差し出した。
「サードさん、ムムさん、ありがとうございます。では急ぎ王都へ向かいます!」
全はそう言いながら頭を下げると、アルテミスとルナの方を向き声を掛けた。
「と、言う訳で王都へ行ってくるね。バタバタとしてすまないが、まだお兄さんの件は連絡がないし、今後連絡があればアルテミスやルナにもすぐ伝達できた方が便利だと思うんだ。良ければ念話を使ってもいいかな?」
それを聞いてアルテミスは「是非お願いします!」と答え、ルナは首を横に振った。
「私は遠慮するわ。しばらくアルテミスと2人で行動しようと話をしていたの。アルテミスに連絡してくれれば私も把握できるでしょう」
全は「わかったよ」と言うと、アルテミスに念話スキルを使った。
アルテミスとルナに再び別れを告げると、全は転移(ワープ)を唱え、一行は王都ボルディアの謁見の間へ移動したのだった。
--聖ライガ教会
虎次郎の思惑通り、王都ボルディアへ向かう事になった聖人と龍己だったが、聖人はふいにオダーに言われた言葉を思い出した。
「なぁ、王都って言えば独裁主義な国王のいる場所だよな? そんなとこに俺らがウロチョロしても大丈夫なのか?」
虎次郎は、痛いところをつかれた、と一瞬思ったが、顔には出さない。
「大丈夫だよー! だってさぁ、オダーさんみたいく、鑑定! ってやらないとバレないんだよ? それに人も多いだろうし、誰も僕らの事なんて気にしないよー! まぁ、聖ちゃんはカッコいいから目立っちゃうけど......いざとなれば帰ってくればいいんだし!」
それを聞くと、「あっはっは! そうだな! 俺のせいでバレちまったらごめんな!」と、聖人の疑問は虎次郎の煽てに掻き消された様だ。
「うし! 準備も出来たし、出発するか!」
聖人が切り出すと、虎次郎と龍己も「行こう!」と続け、部屋の扉を開ける。
廊下にいるシスターに、「オダーはいないのか?」と聞くと、「ただいま礼拝中でございます」と答えるシスター。
「僕たち、教会周辺で鍛錬してくるから、オダーさんに言っといて! 2〜3日野営するから、野営の準備もしてもらえる? 龍っちゃんに早く追いつかないといけないからさ! 外で待ってるから、準備が出来たら持ってきてね!」
虎次郎がシスターにそう言うと、「かしこまりました」と言ってシスターは準備のためにその場を離れた。
「虎は本当に......たまに怖くなるぜ......」
聖人が呟くと龍己もうんうんと頷き、「えー! なんでだよぉー!」と虎次郎はバタバタと手を動かしながら抗議した。
それから3人は、教会の外にある厩舎から馬を連れ出し、入り口で待機する。
しばらくしてシスターが3人にそれぞれ鞄を手渡すと、中身を確認する3人。
3日分の食糧は傷みにくい干し肉をメインに、飲料水は瓶で3本と、ポーションが3つ、それに簡易テントだ。
不思議な鞄で、重さをそんなに感じない。
「これ、なんでこんなに軽いんだ? それに中身の割にペタンコだな」
聖人が聞くと、シスターは「収納魔法を施した鞄になります」と言った。
3人は一様に感嘆の表情を浮かべると、「じゃあ行ってくる!」と聖人が先頭を、次いで虎次郎が、そして最後に龍己がシスターに頭を下げると、馬に跨り教会を出発した。
教会は木々に取り囲まれており、それは深い森のようではあるが、よく見ればそれなりに道になっている。
龍己は日々訓練していた事や、竜の渓谷方面、そして王都ボルディア方面へも行っており、聖人や虎次郎とは違い、道なりを把握しようと意識していた為、大体の方角はわかる様だ。
先頭は聖人だが、後方から虎次郎へ進行方向を教え、それを虎次郎が聖人に伝える。
「なぁ、実際さ、俺と虎は龍より弱ぇんだよな? 王都でヤバい奴らに出会した時の為に、ちょっと魔物狩っとかねぇ?」
しばらく進んだ辺り、一回目の休憩で聖人が切り出した。
虎次郎は怖がったが、龍己は「いざとなれば助ける」と言い、聖人の案に乗った。
「龍に教わるのもなんか癪だが......俺はすぐお前を追い越すぞ!」
聖人がそう言うと龍己は優しく微笑み、虎次郎は「聖ちゃん、言い方ぁ!」と言いながら顔を見合わせて笑う3人。
それから龍己にステータスオープンでステータスが確認できる事、そこから使える魔法の種類も確認できる事、魔法は相手に向かって唱えれば発動する事を教わると、早速ステータスウィンドウを見る聖人と虎次郎。
「俺と虎はレベル1、龍が158か......使える魔法は全員同じ......条件は同じ......なのか? ますます負けらんねぇな!」
聖人は意気込むと立ち上がり、木に向かって雷撃を放った。
木は雷に打たれた様に縦に割れると、炭と化し、風に崩れ落ちた。
虎次郎は目を丸くしながら驚き、放った聖人もその威力に唖然とする。
「......こりゃ凄ぇ」
聖人が呟くと、虎次郎も我に返り手を叩きながら「聖ちゃん! 凄い!」と囃し立てた。
しかし、雷撃が木に直撃したその音で、どうやら魔物が近寄ってきた様だ。
感知のステータスが聖人と虎次郎よりも高い龍己が、一瞬早くその気配に気づくと、「魔物だ!」と声を上げると同時に立ち上がる。
龍己の声に反応して虎次郎も立ち上がった。
木々を掻き分けて姿を現したのは、猪の魔物で、魔物はこちらを目視し立ち止まると、地面を幾度も掻き荒らす。
「聖人! 突進してくるぞ! 魔法を撃て!」
龍己が言うと同時に猪の魔物は虎次郎目がけて突進する。
複数の敵の中で、まずは1番小さな獲物を狙う、生物の本能なのかもしれない。
聖人は竦んで初動が遅れたが、虎次郎は咄嗟に叫んだ。
「雷撃!」
虎次郎が放った雷撃は魔物を直撃した。
消し炭となった魔物は、討伐証明である牙を落とす。
「......びっくりしたあ......!」
虎次郎はその場にへたり込むと、龍己が落ちた牙を拾う。
「......いきなりは卑怯だぞ! 次は俺がやるからな!」
聖人はやっと緊張が解けたのだろう、いつもの威勢を取り戻した。
「龍っちゃん、それは何?」
虎次郎が龍己に聞くと、龍己は「魔物を倒すと何かを落とすんだ。猪は牙......一応今までのも拾っている、役に立つかもしれないから」と答えながら、拾った牙を虎次郎に渡した。
「つぅ事は! それをいっぱい持ってた奴が勝ちだな! こっからは早いもん勝ちな!」
聖人は何事も負けず嫌いで、討伐証明の数で競うつもりの様だ。
虎次郎が「じゃあ龍っちゃんは今までの分もあるし、今回は審判ね!」と言うと龍己は頷き、「しばらくここで待ち伏せして狩るぞ!」と聖人は息巻くのだった。
陽が暮れるまで狩りを続けた聖人と虎次郎。
途中から猪の魔物ではレベルも上がりづらくなって来た為、竜の渓谷方面へ場所を変え、熊の魔物を狩り、狩り尽くすと大蛇の魔物にまで挑戦した。
「聖ちゃん......もう暗くなって来たよ......僕もうヘトヘトだし、そろそろ切り上げようよお」
肩で息をしながら虎次郎はその場に座り込む。
「だらしがねぇなぁ! ......だが、確かに狩り続けで腹も減ったなぁ......魔物が落としたやつも数えてぇし、今日は切り上げるか」
聖人がそう言うと、龍己が口添えする。
「この辺りの魔物の方が強い、進路を戻してテントを張ろう」
聖人と虎次郎も同意し、猪の魔物の出没エリアである、王都ボルディア方面まで馬を走らせ戻った。
3人は簡易テントを張ると、雷属性生活魔法の電灯を使用し、その灯りを頼りに各々が倒した魔物から得た討伐証明を数えながら干し肉を頬張る。
「牙が......21に、毛皮が6と、ヘビ皮が3......」
聖人が数えると、虎次郎も鞄から討伐証明を取り出した。
「僕は、牙が33、毛皮が2と、ヘビ皮が1だよ! 数では買ったけど、流石聖ちゃんだね! 強い魔物は全然狩れなかったぁ」
少し気を落とす虎次郎の肩を、ポンっと叩き、聖人は満足げに言った。
「まぁ数ではお前の勝ちだ! レベルが上がったか見てみようぜ!」
そう言いながら、ステータスウィンドウを開いた聖人と虎次郎のレベルは、確実に上がっていたものの、龍己に及ばない事実を目の当たりにした聖人は険しい顔をした。
「22......」
ぽつりと漏らした一言に虎次郎は、「え! 僕21だよ! やっぱり聖ちゃんは凄いなぁ!」、と素直に褒める。
「......おい、龍。お前どうやったら91なんかに上がるんだよ?」
聖人が少し不貞腐れながら龍己に聞いた。
「......この世界に来て2日目に、厄災の芽を討伐したんだ。その時、同行してくれた人が俺を庇って亡くなった......。力不足だと思った......だから、7日目に2つ目の厄災の芽の討伐に出るまで、ずっと魔物と戦っていたんだ」
それを聞いて虎次郎は胸が苦しくなり、切なげに龍己を見つめる。
「お前、何日目だとか......日記でもつけてんのか!? 暇なやつだな! ......まぁ、それじゃあすぐには追いつけねぇか......。だが! ここからは俺のターンだからな! まぁ見てろ、数日ですぐに超えてやるからな!」
聖人はそう息巻くと、龍己は「うん。それから、日記はつけてるよ」と返すと、「本当につけてんのかよ! 見せろ!」と聖人はゲラゲラと笑いながら、頬を赤らめる龍己から日記帳を取り上げる。
しかし、龍己の日記は存外細かく記録されており、その日に何がありどう過ごしたかをはじめ、どの魔物が何を落とし、経験値がどれ程あるのかなどまで記されており、聖人と虎次郎にとっても有用な内容が多く記載されていた。
「......お前って......オタク気質だよな」
聖人が呟くと、「龍っちゃんは生真面目なんだよね!」と虎次郎がフォローした。
「まぁいい、もう寝ようぜ! 明日はいよいよ王都だからな!」
聖人がそう切り出すと、3人は「おやすみ」と交わすと、それぞれのテントに潜り込んだ。
聖人は取り上げたままの龍己の日記を眺めながら、主に経験値の部分を見て計算している。
どれだけ倒せば91なんて言うレベルに至るのか、それを考えている様だ。
「......猪1匹で経験値が300......熊が600で、蛇が1000か......俺らは1レベル上がる毎に次のレベルアップに必要な経験値が50増えてくから......今で俺が稼いだ経験値が12900で......まじであいつ、一体どんだけ1人で戦ったんだよ......」
聖人は独り言を呟きながら、戦いの疲れか、そのまま眠りに落ちたのだった。
翌朝、夜襲に遭うこともなく無事に目覚め3人は、飲料水で顔を洗い口を濯ぐと、干し肉を齧りながらテントを片付け、馬に跨った。
「さて、いよいよ王都! 行くぞ!」
聖人が先陣を切り馬を走らせると、虎次郎と龍己も後を追った。
途中で休憩を挟みながらも、昼頃には王都ボルディアへ辿り着いたが、入り口で門兵に止められてしまう。
「どのような後用向きで?」
門兵に尋ねられると、龍己が前に出る。
「魔物を討伐している者だ。これらを......」
そう言いながら討伐証明を見せると、門兵はその数に驚きながら食い気味に答えた。
「冒険者の方でしたか! 登録証を無くされたのですか? それにしてもこの討伐証明の数......売るのですね、いつもお疲れ様です! お通り下さい」
なぜだか門兵がにこやかに通してくれると、3人は足早に門を潜り王都ボルディアへ足を踏み入れた。
「おい! 見ろよ! 教会とは違って賑やかだぞ! それにさっきの奴も意外といい奴だったな!」
聖人が言うと、虎次郎が続ける。
「うん! 凄いね! 色々見て回ろうよ! ......でも、冒険者って言ってたね、何のことだろう......?」
龍己は、以前全と武仁に連れられて来た際に、はじめに行った冒険者ギルドの事を思い出しながら、2人にそれとなく話す。
「門兵の人は、これを見て売るのかと言っていた......きっと、これを売れる場所があるんだ。教会は俺たちに金銭は渡さないし、折角なら売ってご飯でも食べないか......」
それを聞いて、聖人も虎次郎も賛成の様子で、聖人も楽しそうに言った。
「確かに、教会内で金銭なんかいらねぇし、何にも困らねぇが......外に出りゃやっぱし必要だよな! 冒険者って言ってたし、それっぽいとこ探そうぜ!」
それから3人はそれらしき建物を探して歩き、少しして龍己が冒険者ギルドを見つけると、聖人と虎次郎に声をかけ、ギルドの扉を開いた。
王都ボルディアの冒険者ギルドを見つけ、その扉を開いた3人は、ギルド内に居る冒険者を見渡す。
「異世界転生とかの漫画でよく見るやつだー! 見て、あそこの杖を持った人はきっとマジシャンだよ! あ! あっちの人はディフェンダーかな!? 凄いー!」
大通りでは見かけなかった、戦闘職と思われる彼らを見て、虎次郎は目を輝かせている。
「あぁ......本当だな......。けどあまりジロジロ見るなよ、絡まれたら面倒だからな。用を済ませて早く出ようぜ」
まだオダーの教えを信じており、龍己から真実を聞いていない聖人は、冒険者を見て警戒している様だ。
「......受付の人に聞いてみよう」
龍己はそう言うと、受付カウンターへと進み窓口にいる女性に声をかける。
「すみません......こう言った物の買取が出来ると聞いたのですが......」
龍己が討伐証明をいくつか見せながら聞くと、窓口の女性は丁寧に案内をしてくれた。
「ようこそ、ボルディアの冒険者ギルドへ。私は当ギルドの受付係、ミムと申します。討伐証明の買取ですね、可能ですよ。冒険者登録はお済みですか? まだでしたらこれを機に登録される事をお勧めします。買取時の手続きがスムーズになりますし、魔物を討伐出来るほどの腕前でしたら、クエストをこなせば更に報酬を得られますよ」
どうやらミムは龍己の顔は覚えていない様だ、案内を聞き終わり、龍己は聖人と虎次郎にどうするか尋ねた。
「冒険者って言う肩書きも持っていた方が便利かもな......万が一の時はバックれれば良いんだし、登録しても良いんじゃねぇ?」
聖人は、教会から外へ出た際、冒険者として振る舞う事で、聖人の器と言う職業の隠れ蓑にしようと考えたのだ。
虎次郎は龍己から既に真相を聞いていたが、良いように提案してくれた聖人の意見に賛成し、龍己が「お願いします」、とミムに伝えた。
「はい! では登録用紙に記入をお願いします。買取希望の討伐証明は、査定をしますのでこちらにお出し下さい」
そう言われたが、到底カウンターに収まる量ではない事を伝えると、ミムは「では査定室にてお1人ずつ査定をしましょう」、と言うと受付奥の査定室へとまずは龍己を通した。
マムは「あとはお願いします!」、と査定室内の椅子に腰掛け、レンズを片手に討伐証明を品定めしている男に言うと、窓口へ戻った。
「討伐証明の買取か? この卓に全部出してくれ」
言いながら男は顔を上げ、龍己の方を向くと、お互いに「あっ」と声を漏らす。
「......お前は......全と武仁が連れてきた、聖人の器の兄ちゃんじゃねぇか! あれからどうなったんだ!?」
査定をしていた男はギルドマスターのニドだった。
「あの時は、お騒がせしました......。あれから王様に会って、色々お話して、今は別行動をしています。幼馴染と3人で冒険者としても活動しようと登録しに来ましたが、1人にはまだ王様に会ったりした事も言えていなくて......すみませんが、話を合わせてもらえませんか? 自分からタイミングを見て伝えたいので......」
龍己の言葉を聞き、ニドは「若いっつーのは、色々あるよなぁ! 任せな! 言わねーよ!」、と胸をドンと叩いて言う。
龍己はホッと胸を撫で下ろすと、討伐証明を作業台と言うにはとても広い卓の上に出し、「これ、全部お願いできますか?」と尋ねた。
ニドはその量に驚きながら、根っからの討伐証明マニアの心に火がついたのか、「任せろ!」と言うと黙々と査定に取り掛かる。
その様子を見て、邪魔しては悪い、と無言でお辞儀をし査定室から出るのだった。
受付窓口に戻った龍己は、聖人と虎次郎に混ざり登録用紙に記入をしはじめる。
「名前と年齢、使用する武器は良いとして、職業と出身地はどうする?」
聖人が小声で言うと、虎次郎が答えた。
「ここにいる冒険者の人たちを見て思ったんだけど、僕ら3人いるし、ポジションで分けるのはどうかな? 聖ちゃんはやっぱりアタッカーだよね! 龍っちゃんがディフェンダーで、僕は......なんだろう?」
話しながら、自分の事となるとピンと来ない虎次郎は照れ笑いをしている。
「おぉ! 良いじゃん虎! 虎はサポーターだな! 器用だしよ!」
そう言って聖人が虎の頭をワシャワシャと撫でると、聖人はにっこり微笑んだ。
話している間に、査定室からニドが出てくる。
「あとの2人! 討伐証明持ってきていいぞ! 案内してくれミム!」
そう言うとミムは聖人と虎次郎を査定室に連れて入り、その間にニドは冒険者登録用紙を手際良く回収した。
「良いタイミングだったな! 登録するって言ってたのに気が回らずすまん、肝を冷やしただろう。出身地は王都にしておく......ほら、これが登録証だ。後の説明はミムに聞いてくれ。頑張れよ!」
ニドが気を回してくれたおかげで、無事に冒険者登録もでき、ニドが査定室に戻るのと入れ替わりで、ミムと聖人と虎次郎も窓口に戻ってきた。
「あ! ギルマス登録業務してくれたんですね! 珍しい......!」
戻ってきたミムが言うと、聖人と虎次郎は不思議そうにしていたが、とりあえず冒険者ランクについてや注意事項などの説明を聞いた。
説明が終わる頃には買取査定も終わり、順番にまず虎次郎が金貨53枚、次に聖人が金貨82枚、最後に龍己が白金貨6枚と金貨74枚を受け取った。
3人にはこの世界のお金の知識がないが、龍己だけ群を抜いている事だけは何となく理解し、聖人がミムに尋ねる。
「こいつの査定額が高い理由は何だったんだ?」
「ワイルドボアの討伐証明が600を超えていましたので、単純に数の差かと思います」
ミムがそう返すと、その数に呆けながら「そりゃレベルも96な訳だ......」、と呟き、聖人は冒険者ギルドを出て行った。
虎次郎はお礼を伝えると、慌てて聖人を追いかける。
龍己も「ニドさんによろしく伝えて下さい」とミムに言付けると、お辞儀をして2人の後を追うのだった。