王都ボルディアの冒険者ギルドを見つけ、その扉を開いた3人は、ギルド内に居る冒険者を見渡す。

 「異世界転生とかの漫画でよく見るやつだー! 見て、あそこの杖を持った人はきっとマジシャンだよ! あ! あっちの人はディフェンダーかな!? 凄いー!」

 大通りでは見かけなかった、戦闘職と思われる彼らを見て、虎次郎は目を輝かせている。

 「あぁ......本当だな......。けどあまりジロジロ見るなよ、絡まれたら面倒だからな。用を済ませて早く出ようぜ」

 まだオダーの教えを信じており、龍己から真実を聞いていない聖人は、冒険者を見て警戒している様だ。

 「......受付の人に聞いてみよう」

 龍己はそう言うと、受付カウンターへと進み窓口にいる女性に声をかける。

 「すみません......こう言った物の買取が出来ると聞いたのですが......」

 龍己が討伐証明をいくつか見せながら聞くと、窓口の女性は丁寧に案内をしてくれた。

 「ようこそ、ボルディアの冒険者ギルドへ。私は当ギルドの受付係、ミムと申します。討伐証明の買取ですね、可能ですよ。冒険者登録はお済みですか? まだでしたらこれを機に登録される事をお勧めします。買取時の手続きがスムーズになりますし、魔物を討伐出来るほどの腕前でしたら、クエストをこなせば更に報酬を得られますよ」

 どうやらミムは龍己の顔は覚えていない様だ、案内を聞き終わり、龍己は聖人と虎次郎にどうするか尋ねた。

 「冒険者って言う肩書きも持っていた方が便利かもな......万が一の時はバックれれば良いんだし、登録しても良いんじゃねぇ?」

 聖人は、教会から外へ出た際、冒険者として振る舞う事で、聖人の器と言う職業の隠れ蓑にしようと考えたのだ。

 虎次郎は龍己から既に真相を聞いていたが、良いように提案してくれた聖人の意見に賛成し、龍己が「お願いします」、とミムに伝えた。

 「はい! では登録用紙に記入をお願いします。買取希望の討伐証明は、査定をしますのでこちらにお出し下さい」

 そう言われたが、到底カウンターに収まる量ではない事を伝えると、ミムは「では査定室にてお1人ずつ査定をしましょう」、と言うと受付奥の査定室へとまずは龍己を通した。

 マムは「あとはお願いします!」、と査定室内の椅子に腰掛け、レンズを片手に討伐証明を品定めしている男に言うと、窓口へ戻った。

 「討伐証明の買取か? この卓に全部出してくれ」

 言いながら男は顔を上げ、龍己の方を向くと、お互いに「あっ」と声を漏らす。

 「......お前は......全と武仁が連れてきた、聖人の器の兄ちゃんじゃねぇか! あれからどうなったんだ!?」

 査定をしていた男はギルドマスターのニドだった。

 「あの時は、お騒がせしました......。あれから王様に会って、色々お話して、今は別行動をしています。幼馴染と3人で冒険者としても活動しようと登録しに来ましたが、1人にはまだ王様に会ったりした事も言えていなくて......すみませんが、話を合わせてもらえませんか? 自分からタイミングを見て伝えたいので......」

 龍己の言葉を聞き、ニドは「若いっつーのは、色々あるよなぁ! 任せな! 言わねーよ!」、と胸をドンと叩いて言う。

 龍己はホッと胸を撫で下ろすと、討伐証明を作業台と言うにはとても広い卓の上に出し、「これ、全部お願いできますか?」と尋ねた。

 ニドはその量に驚きながら、根っからの討伐証明マニアの心に火がついたのか、「任せろ!」と言うと黙々と査定に取り掛かる。
 その様子を見て、邪魔しては悪い、と無言でお辞儀をし査定室から出るのだった。

 受付窓口に戻った龍己は、聖人と虎次郎に混ざり登録用紙に記入をしはじめる。

 「名前と年齢、使用する武器は良いとして、職業と出身地はどうする?」

 聖人が小声で言うと、虎次郎が答えた。

 「ここにいる冒険者の人たちを見て思ったんだけど、僕ら3人いるし、ポジションで分けるのはどうかな? 聖ちゃんはやっぱりアタッカーだよね! 龍っちゃんがディフェンダーで、僕は......なんだろう?」

 話しながら、自分の事となるとピンと来ない虎次郎は照れ笑いをしている。

 「おぉ! 良いじゃん虎! 虎はサポーターだな! 器用だしよ!」

 そう言って聖人が虎の頭をワシャワシャと撫でると、聖人はにっこり微笑んだ。

 話している間に、査定室からニドが出てくる。

 「あとの2人! 討伐証明持ってきていいぞ! 案内してくれミム!」

 そう言うとミムは聖人と虎次郎を査定室に連れて入り、その間にニドは冒険者登録用紙を手際良く回収した。

 「良いタイミングだったな! 登録するって言ってたのに気が回らずすまん、肝を冷やしただろう。出身地は王都にしておく......ほら、これが登録証だ。後の説明はミムに聞いてくれ。頑張れよ!」

 ニドが気を回してくれたおかげで、無事に冒険者登録もでき、ニドが査定室に戻るのと入れ替わりで、ミムと聖人と虎次郎も窓口に戻ってきた。

 「あ! ギルマス登録業務してくれたんですね! 珍しい......!」

 戻ってきたミムが言うと、聖人と虎次郎は不思議そうにしていたが、とりあえず冒険者ランクについてや注意事項などの説明を聞いた。

 説明が終わる頃には買取査定も終わり、順番にまず虎次郎が金貨53枚、次に聖人が金貨82枚、最後に龍己が白金貨6枚と金貨74枚を受け取った。

 3人にはこの世界のお金の知識がないが、龍己だけ群を抜いている事だけは何となく理解し、聖人がミムに尋ねる。

 「こいつの査定額が高い理由は何だったんだ?」

 「ワイルドボアの討伐証明が600を超えていましたので、単純に数の差かと思います」

 ミムがそう返すと、その数に呆けながら「そりゃレベルも96な訳だ......」、と呟き、聖人は冒険者ギルドを出て行った。

 虎次郎はお礼を伝えると、慌てて聖人を追いかける。
 龍己も「ニドさんによろしく伝えて下さい」とミムに言付けると、お辞儀をして2人の後を追うのだった。