--聖ライガ教会
虎次郎の思惑通り、王都ボルディアへ向かう事になった聖人と龍己だったが、聖人はふいにオダーに言われた言葉を思い出した。
「なぁ、王都って言えば独裁主義な国王のいる場所だよな? そんなとこに俺らがウロチョロしても大丈夫なのか?」
虎次郎は、痛いところをつかれた、と一瞬思ったが、顔には出さない。
「大丈夫だよー! だってさぁ、オダーさんみたいく、鑑定! ってやらないとバレないんだよ? それに人も多いだろうし、誰も僕らの事なんて気にしないよー! まぁ、聖ちゃんはカッコいいから目立っちゃうけど......いざとなれば帰ってくればいいんだし!」
それを聞くと、「あっはっは! そうだな! 俺のせいでバレちまったらごめんな!」と、聖人の疑問は虎次郎の煽てに掻き消された様だ。
「うし! 準備も出来たし、出発するか!」
聖人が切り出すと、虎次郎と龍己も「行こう!」と続け、部屋の扉を開ける。
廊下にいるシスターに、「オダーはいないのか?」と聞くと、「ただいま礼拝中でございます」と答えるシスター。
「僕たち、教会周辺で鍛錬してくるから、オダーさんに言っといて! 2〜3日野営するから、野営の準備もしてもらえる? 龍っちゃんに早く追いつかないといけないからさ! 外で待ってるから、準備が出来たら持ってきてね!」
虎次郎がシスターにそう言うと、「かしこまりました」と言ってシスターは準備のためにその場を離れた。
「虎は本当に......たまに怖くなるぜ......」
聖人が呟くと龍己もうんうんと頷き、「えー! なんでだよぉー!」と虎次郎はバタバタと手を動かしながら抗議した。
それから3人は、教会の外にある厩舎から馬を連れ出し、入り口で待機する。
しばらくしてシスターが3人にそれぞれ鞄を手渡すと、中身を確認する3人。
3日分の食糧は傷みにくい干し肉をメインに、飲料水は瓶で3本と、ポーションが3つ、それに簡易テントだ。
不思議な鞄で、重さをそんなに感じない。
「これ、なんでこんなに軽いんだ? それに中身の割にペタンコだな」
聖人が聞くと、シスターは「収納魔法を施した鞄になります」と言った。
3人は一様に感嘆の表情を浮かべると、「じゃあ行ってくる!」と聖人が先頭を、次いで虎次郎が、そして最後に龍己がシスターに頭を下げると、馬に跨り教会を出発した。
教会は木々に取り囲まれており、それは深い森のようではあるが、よく見ればそれなりに道になっている。
龍己は日々訓練していた事や、竜の渓谷方面、そして王都ボルディア方面へも行っており、聖人や虎次郎とは違い、道なりを把握しようと意識していた為、大体の方角はわかる様だ。
先頭は聖人だが、後方から虎次郎へ進行方向を教え、それを虎次郎が聖人に伝える。
「なぁ、実際さ、俺と虎は龍より弱ぇんだよな? 王都でヤバい奴らに出会した時の為に、ちょっと魔物狩っとかねぇ?」
しばらく進んだ辺り、一回目の休憩で聖人が切り出した。
虎次郎は怖がったが、龍己は「いざとなれば助ける」と言い、聖人の案に乗った。
「龍に教わるのもなんか癪だが......俺はすぐお前を追い越すぞ!」
聖人がそう言うと龍己は優しく微笑み、虎次郎は「聖ちゃん、言い方ぁ!」と言いながら顔を見合わせて笑う3人。
それから龍己にステータスオープンでステータスが確認できる事、そこから使える魔法の種類も確認できる事、魔法は相手に向かって唱えれば発動する事を教わると、早速ステータスウィンドウを見る聖人と虎次郎。
「俺と虎はレベル1、龍が158か......使える魔法は全員同じ......条件は同じ......なのか? ますます負けらんねぇな!」
聖人は意気込むと立ち上がり、木に向かって雷撃を放った。
木は雷に打たれた様に縦に割れると、炭と化し、風に崩れ落ちた。
虎次郎は目を丸くしながら驚き、放った聖人もその威力に唖然とする。
「......こりゃ凄ぇ」
聖人が呟くと、虎次郎も我に返り手を叩きながら「聖ちゃん! 凄い!」と囃し立てた。
しかし、雷撃が木に直撃したその音で、どうやら魔物が近寄ってきた様だ。
感知のステータスが聖人と虎次郎よりも高い龍己が、一瞬早くその気配に気づくと、「魔物だ!」と声を上げると同時に立ち上がる。
龍己の声に反応して虎次郎も立ち上がった。
木々を掻き分けて姿を現したのは、猪の魔物で、魔物はこちらを目視し立ち止まると、地面を幾度も掻き荒らす。
「聖人! 突進してくるぞ! 魔法を撃て!」
龍己が言うと同時に猪の魔物は虎次郎目がけて突進する。
複数の敵の中で、まずは1番小さな獲物を狙う、生物の本能なのかもしれない。
聖人は竦んで初動が遅れたが、虎次郎は咄嗟に叫んだ。
「雷撃!」
虎次郎が放った雷撃は魔物を直撃した。
消し炭となった魔物は、討伐証明である牙を落とす。
「......びっくりしたあ......!」
虎次郎はその場にへたり込むと、龍己が落ちた牙を拾う。
「......いきなりは卑怯だぞ! 次は俺がやるからな!」
聖人はやっと緊張が解けたのだろう、いつもの威勢を取り戻した。
「龍っちゃん、それは何?」
虎次郎が龍己に聞くと、龍己は「魔物を倒すと何かを落とすんだ。猪は牙......一応今までのも拾っている、役に立つかもしれないから」と答えながら、拾った牙を虎次郎に渡した。
「つぅ事は! それをいっぱい持ってた奴が勝ちだな! こっからは早いもん勝ちな!」
聖人は何事も負けず嫌いで、討伐証明の数で競うつもりの様だ。
虎次郎が「じゃあ龍っちゃんは今までの分もあるし、今回は審判ね!」と言うと龍己は頷き、「しばらくここで待ち伏せして狩るぞ!」と聖人は息巻くのだった。