ゆっくりと口を開くズチの容姿をした人物、その言葉を聞き漏らさないようにそして魔物召喚から召喚したことを考えると万が一戦闘になる可能性もあるのではと武仁と全は彼を真っ直ぐに見つめ、その横でアルテミスとルナも見守る。

「......我は......」

語り出した瞬間武仁と全は生唾を飲んだ。
次に発する言葉で敵になり得るのか、それとも味方であってくれるのか......もちろん後者を期待する2人は彼が続く言葉を発するまでのコンマ数秒と言うとても短い時間、胸中が騒がしく落ち着かない。

「我は......ズチですぞぉ! 武仁殿!! 生身でお会いできる日が来ようとは......このズチ、恐悦至極でありますぞ!! うおおおおお!!」

雄叫びを上げたズチは感極まり天を仰ぎながら漢泣きをしている、それに興奮のあまり全の存在を忘れているようだ。
その言葉を聞き姿を見て、全もそして武仁さえも胸を撫で下ろし確信する、これはあのズチだと。

「......おい! てめぇ、驚かせやがって!! どう言う事だか説明しやがれ!!」

武仁は様々な思いに翻弄されたからだろうか、いつになく怒鳴りズチを詰めた。

「ううう......武仁殿ぉ!!」

ズチはそんな武仁に構わずガシっと武仁を抱きしめると「そんな図体で力むんじゃねぇ! 暑苦しいんだよ!」と言いながらもどこか嬉しそうだ。

ズチが落ち着くのを待って改めて聞こうと、フォルダンを出て2時間ほどのその場所で休憩を挟む事にした全はアルテミスとルナがリラックスできる様に防御結界(シールプロテクト)を張ると収納から香りの良いリラックス効果のある薬草から錬成した茶葉とフォルダンで用立てた水、それからカップを取り出して紅茶を淹れて差し出した。

「2人とも混乱させてごめんね。だけど僕らがどんな力を持っていたとしても、それを君たちが悲しむような使い方はしないよ。それから、この先も驚かせる事が多いかも知れないけれど......少しずつ慣れてね」

全は腰を低く落とし微笑みながらアルテミスとルナに話しかけるとスッと立ち上がり武仁とズチの横に腰を下ろした。
アルテミスとルナは確かに全と武仁はそんな人には見えないと信じる心は強まる一方で、慣れるのはなかなか難しいなと2人は揃って少し難しい顔をした。

「どう? ズチ、少し落ち着いたかな?」

「全殿......取り乱しましたな。もう大丈夫ですぞ」

全が少ししてズチに話しかけるとズチも落ち着いてきた様子でさきほどの武仁の問いに答えはじめた。

「どうやら神の使いではなく転移者、人として召喚された事で我はこの場に存在できるようですな。我も理屈はわからぬが......何せこのような事はこれまでになかった故、神々からも聞き及んでおりませぬ」

全と武仁はズチの話を聞くと全は「兎にも角にもズチが仲間となれば心強いよ! だって既に厄災を一度退けた経験があるんだ、創生の記憶も今なら話せるんじゃない?」と言う。

「それが......理の部分に関する記憶がないのだ。厄災についてや我がこの世界で経験したことは鮮明に覚えているのだが......もちろん神の使いとして過ごした日々やお2人の事も」

そう話すズチに武仁は「それだけ覚えてりゃ十分だ!」と言うとズチはまた漢泣きしそうになるが察した武仁はスクッと立ち上がると「話は終わりだ! さっさと竜の渓谷に行こうぜ」とズチの気を上手くそらした。

再び竜の渓谷を目指して進みはじめた一行、様々な会話をしながら着実に目的地まで近づいてゆく。
これまで魔物とは一切接触しなかったが、竜の渓谷が近づくにつれて様々な魔物と頻繁に遭遇した。
武仁は感知しても一網打尽スキルをあえて使用せずアルテミスとルナのレベリングを考え全に任せていた。

まずはじめに遭遇したのは大蛇の魔物、ジャイアントスネーク。
ちょうど巣が近いのか4体、その名の通りの体躯で囲まれてしまってはまるで急に夜が訪れたかのように陽を遮るほどだ。
その姿にアルテミスとルナは体が硬直する。
しかし全は至って冷静に防御結界(シールプロテクト)を展開すると水属性初級魔法の水球(ウォーターボール)を唱えた。
水球(ウォーターボール)はジャイアントスネークの顔を覆うと窒息で気を失いその巨体は地に崩れ落ちる。

「まだ生きているから、アルテミスとルナはそれぞれとどめを刺して!」

全がそう言うとアルテミスは自前の武器である短剣を取り出すとジャイアントスネークの首を刺し、ルナはイバラ状の鞭を取り出すとめった打ちにした。

4体のうち1体ずつをアルテミスとルナが、残り2体は水球(ウォーターボール)でそのまま全が倒すと「僕も武仁にレベルを離されたからね。この辺りでレベリングしておかないといけないし2人とも一緒にがんばろうね」と全はまたしてもにこやかにアルテミスとルナに声をかけたが、ルナは武仁に魔神と言ったが見た目に反し全の方が血の気が多いのかもしれない、とアルテミスの後ろにしらっと隠れ距離を取るとアルテミスはそんなルナの心中を知る由もなく「ん?」と言うと全に「頑張りましょう!」とガッツポーズをして答えるのだった。