不屈の洞穴で厄災の種を浄化した2人は水上の街フォルダンにそのまま転移(ワープ)で向かうと、王都へ向かう前に一瞬経由しただけだった為改めて街へ足を踏み入れると空気の違いに気付いた。

洞窟から直に赴いたと言うのもあるのか、水上の街と言うだけの事、湖に浮かぶこの街はまるでマイナスイオンを発生させているかのように空気が澄み渡っている。
更に道ゆく人々は心なしか肌艶もよく見える、これも水場という理由で湿度が高いからなのだろう。

フォルダンはドーナツ状の街でその中心部に水神の大樹があると言う事はクリスティナから王都へ向かう道中に軽く聞いていた2人、ついでにケインからはこの街の飲み物は他とは比べ物にならない喉越しの良さであり、肌に良いとされる温泉があるとも聞かされていた為もちろんそれらを味わうつもりである2人だが、まずは真っ直ぐ大樹を目指し中心部へ向かった。

水神の大樹は街の中心にぽっかりと空いた穴からその立派な幹を空高く伸ばしており、水から生えているように見えてどこか神秘的に見える。
その葉は透き通るような空色で大樹はまるでこの街を見守るかのように優しく感じる。

全は厄災の種を取り出すと瞬く間に浄化され種は空色の宝珠に姿を変えると2人は大樹に触れ創生の記憶を見た。

どうやら世界を創生している最中である。
7の神々は一つの球体となろうとしているそれを囲うように立ち両手を掲げている。
他の神々をよそに水神は雷神に声をかけている様子だ。水神は『一筋の涙は悲しみも喜びも時には怒りすらも表すの。あなたの意志も私は汲みたい。』そう言うと水神は世界にスキル、そして称号やステータスと言う概念を注ぎ込んだ。
しかし、雷神は何かを呟いたがそこで水神の記憶は途絶えた。

「リン、君は水神の使いだろ? この記憶に触れて君は何を思った?」

水神の記憶を見た全はリンに語りかけると、リンは顕現はせずに声のみで答えた。

『私が聖人の器だった頃、水神の大樹に触れたのは5つ目の浄化の時でした〜。私は......雷神様がこの世界を歪ませたのだと、水神様はそれでも雷神様の意思を汲んだのかと......。全様や武仁様とは違い私は普通の聖人の器でしたからやはり厄災にも不安を抱えておりましたし、この世界が魔物や厄災を除けば......それがなければ......それは平和な世界だったのだろうと身に沁みて感じていたがゆえに水神様の記憶に触れてショックを受けたのを覚えております〜』

全は「そうか......ありがとう」と言うと武仁に宿をとって一旦休憩しようと提案し、武仁も腹が減ったのだろう「その前に飯にしようぜ」と目に入った食堂で2人は腹ごしらえをすると店員に宿屋の場所を聞いた。

宿屋に到着し部屋を取り一息つくと2人は立て続けに見た創生の記憶について語り出す。

「なぁ、水神の記憶見て思ったんだがよ、火神の記憶にあった意見が割れた原因は多分雷神だよな? で水神はその意志を汲んだからリンはショックを受けた訳だろ? じゃあ水神も悪もんなのか?」

武仁が言うと全が答える。

「悪いのかはわからないけど......雷神の意志と他の神々の意志とで何らかの乖離があったんだろうという気がするね。土神はそんな中でも世界創生においては満場一致で揺るがぬ意志な訳だからそれを見守るようなかたちだったのかな? しかし......既に厄災の種は1つ粉砕されてしまっているし、創生の記憶はあと3つしか見られない......。僕としては雷神の記憶は必ず見たいと思うが......」

全は粉砕された為7つの厄災の種を全て浄化する事が難しい事を話に出し、記憶に触れる大樹に優先順位をつけようと考えているようだが、そこでこの世界へ来て初めの頃に"厄災の種を6つ浄化する"とリンが言っていた事を思い出した。
それと同時に武仁はズチに聞く。

「おいズチ、雷神の大樹はどこにあんだ? あと他の大樹の場所は?」

するとズチは『......雷神の大樹は......ありませぬ......』と声のみで答えた。

「......ん? 神々は7人いるんだろ? 厄災の芽も種も7つだろ? なのに大樹は6個しかねぇのおかしくねぇか?」と武仁が更に掘り下げると『正確には発見されていないのです』とズチが話した。

それを聞いて全は眼鏡を額にずらして両目を軽く押さえると、だから6つしか浄化できなかったのか、と考えるように黙り込んだあとに口を開いた。

「この世界の創生に携わっているんだから、この世界のどこかに存在はするんだと思う。憶測に過ぎないけど......ゲームで言えばエンディングの分岐になるような、そう言う要素...... だと仮定すれば雷神の大樹を探すのは必須事項な気がする......僕たちが元の世界に戻る鍵もそこにあるような気がするんだ。どう考えても雷神はキーマン、となると聖人の器で雷神の加護を持った龍たちも気になるなぁ」

全はゲームも嗜むのだろう、考えに考えて出した仮定だったがエンディングが分岐するようなゲームには心当たりがあるようで武仁はそれを聞き「目頭押さえて絞り出したのがそれかよ! ゲームじゃねぇんだからよ!」とツッコんだが武仁は少し考えると「いや、全然あり得るな」と、まずもってこの世界の存在すら説明できない事を思い出して意見を変えた。

「じゃあその線で雷神の大樹を探しつつ厄災の芽の討伐をしよう。ペースで言えば厄災までの期間は折り返し......距離が相当離れたりしていない限りもう10日もあれば厄災の芽を全て狩れるとして......ゆっくり異世界も楽しめないよ! ブラック企業じゃないんだから!」

と異世界スローライフが全く出来ない事を嘆く全だが、とりあえず今日はフォルダンを楽しんで明日ギルドに顔を出したら久々にクエストを受けようと武仁に提案すると武仁も「休みは大事だよな」と言いながら全を温泉に誘うのだった。