龍己は俯きしばらく考えていた様だがスッと顔を上げると絞り出したかのような声で話し始める。
「......厄災の種を......既に1つ粉砕してしまった......教会に......言われて......友達を守りたくて......罰があるなら俺1人で受ける......謝って済む話じゃないかもしれない......あの2人を危険な事に巻き込みたくないんだ......」
それを聞いて一同は考えあぐねる、それはそうだ。
騙され何も知らなかったとは言え教会に加担し厄災に拍車をかけるかたちとなったが、それでもこの世界において聖人の器とは神がつかわせた救世主である。
通常であれば処罰は免れないが、何せ事が事、国王さえ決めかねる異例の状況でみなが深刻な表情を浮かべる最中、やはり1番に口を開いたのは武仁だった。
「お前、教会に戻れ」
その発言に耳を疑う一同だが武仁は構う事なく続ける。
「お前もうどっちが危ねえかわかったんだろ? んでダチを助けてぇだろ? ならとりあえず気付かれないように戻れ。んで、隙を見て合流するか、別行動のまま厄災に挑むか......何にしろ、ここで俺らの称号の出番って訳だ」
そう言えばログインボーナスの事もチラつかせていたなと全は思い返し、武仁の案に危険がない訳ではないが......と考えつつもその案に賛同したのか、先程からログインボーナスやら称号やらのワードに反応していた国王達にもわかるように「リン、説明を頼む」と話をリンに振った。
『はい〜。全様と武仁様はこの世界に来て7日間毎日ログインボーナスとして新しい力を神々より授かってきました〜。そしてついに昨日最後のログインボーナスを獲得した事で、新たな称号が付与されました〜♪7日目のログインボーナスは念話、これは任意の方といかに離れていようが頭の中で会話が可能となるスキルです〜。そして......全様が獲得した称号は強かな賢者、その効果は端的に言えば商売繁盛、更に武仁様が獲得した称号は優しき勇者、その効果は端的に言えば無病息災です〜。』
それを聞くと念話の時点で騒つき更に称号の効果に期待で胸を膨らませる国王や重役達だったが、リンの端的すぎる効果の説明には鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
その顔を見て笑い出したズチは補足をする。
『ふははは! リン殿、それでは分かりづらかろう! 全殿の強かな賢者、これは全殿の利となる方へ物事が運ぶと言う効果、例えるならサイコロを振れば必ず思い描く目が出せるのですぞ! そして我らが武仁殿の優しき勇者、これは武仁殿はいかなる妨害も受けずそれは距離を超えて有効ですぞ! 第六感を常に発動し極めた甲斐がありましたな! 称号とはその名の通りやってのけた功績を称えたもの。そしてその効果とはその人物がいかにして功を成したかを大きく加味し付与される。それを考えれば全殿と武仁殿がいかなる人物であるか、それが嘘か誠か、更には付き従うだけで繁栄すら容易い! これぞ我らが武仁殿なのですぞ!』
ズチは興奮のあまり最後の方には全のことさえ忘れながら堂々と語ったが、ズチの忠誠心は揺らがないのだろう、今更誰もツッコまない。
「つー訳で、お前はダチの事だけ考えて戻ればいいんだよ。あと全に殴りかかったアイツな......アイツには覚えとけって伝えろ、ゲンコツだ!」
武仁が言うと全は武仁をなだめながら改めて龍己に話しかけた。
「君は友人想いで、ゆえに危険を買って出る気概もある。あの時も......大切な友人なら止める勇気を持てていたら良かったと思うよ。君はこれから......教会に戻るかい? そしてどうする?」
優しい声で龍己に問いかける、その声は龍己の意思を確認しつつ背中を押すようにも聞こえる。
「......俺は......教会に戻ります。そして......今度何かあれば......きちんと止めます......! 皆さん......力を貸して下さい、友人を危険にさらしたくないんです、お願いします......!」
辿々しくもいつになく龍己の声は力強く、謁見の間に響き渡った。それを聞いて全は「うん! じゃあ僕は君を許すよ! そして力を貸そう!」と言うと武仁も頷き国王もそれに賛同し、教会の事と3人の聖人の器の件には緘口令を出した。
全と武仁は龍己を念話の対象に設定すると全は龍己を連れて不屈の洞穴へ転移(ワープ)し龍己に「踏ん張るんだぞ、何かあれば念話を飛ばして」と伝え全はまた王城へ転移(ワープ)で戻るのだった。
戻るなり全と武仁は厄災の種を浄化しにフォルダンへ行く事を国王に伝えたが国王は「不屈の洞穴、そこに土神様の大樹があります。そちらからの方が近いでしょう」と言うとそれを聞くなり武仁は「早く言えよ、王!」と突っ込み、国王はそんなに砕けた関係になれる人物が身近にいないのだろう、大笑いしながら「すまなかった」と謝るのだった。
その様子を見て苦笑いしながら全は「王様にそんな口聞けるのは武仁ぐらいだね」と呟くとリンは『あらぁ〜♪昔似たような方がいらっしゃいましたわ〜♪』と口を挟んだがズチは慌てて『それでは一時戻りますぞ!』と言うと姿を消し、続けてリンもお辞儀をすると姿を消した。