王都ボルディアより北西にある洞窟、通称不屈の洞穴、そこは明かりが届かず足を踏み入れたものの視界を奪い、いく通りも枝分かれした道は何人の進路をも邪魔をし、さらにはそれを良い事に闇討ちを計る輩もいると言う場所。
この洞窟を踏破した者は数多の冒険者より一様に不屈の精神力を讃えられる事でついた名である。

ここに4つ目の厄災の芽が発現し、龍己はそれを討伐するべく馬を走らせていた。
龍己は案内役と馬に気遣いながら小休憩を挟みつつ着実に厄災の芽との距離を縮め、時折平地に出現する魔物も自らが先陣を切り倒していく。
そうして追ってくる聖人と虎次郎が追いつかぬ間に不屈の洞穴まで辿り着くと馬から降り、案内役を入り口で待機させると1人松明を片手に足を踏み入れた。
幸い厄災の芽は入り口から真っ直ぐ進み一つ目の分岐地点に発現しており、これを難なく討伐すると厄災の種が地面に転がる。

「これで......また一歩近づく......」

龍己は元の世界に戻る為必死なのだ、1人そう呟くと厄災の種めがけ大剣を突き立てる。
しかしその時、後方から気配を感じ魔物かと振り返ろうと言うその一瞬に「浮遊(フロート)!」と言う声がしたと思えば地面に転がっていたはずの厄災の種は浮きあがると龍己の横をビュンと通り過ぎた。

ほんの1秒にも満たない間、龍己は何が起きたのか理解が追いつかないが、振り返った龍己が目にしたのはどこかで見た事のある顔だった。

「......君は......」

龍己が小さく声を出すとそこには全と武仁が佇んでいた。
異世界に来て8日目、ついにあの日同じくこの世界に落ちた全と武仁、そして龍己はこの世界ではじめて顔を合わせたのだ。

「君は......あの日の......君もこちらへ落ちていたのか......」

全が龍己に声をかけると武仁は龍己を睨みつける。

「オヤジ狩りしてたヤツがこんなとこで何してんだ。お仲間さんはどうしたんだよ?」

龍己はあの日を思い返しながら全に「あの時は......すまなかった」と頭を下げると「その、種をこちらに渡してくれないか」と続けた。

「いや、お前厄災の種を破壊しようとしてただろ! オヤジ狩りの次は異世界滅ぼそうとでもしてんのか? 良い加減にしろよ!」

武仁は声を荒げるが全は武仁の前に出ると話を遮り龍己と武仁に語りかけた。

「僕は全。まず、君の謝罪は一旦受け入れよう。だが、種を渡すわけにはいかない。彼......は武仁と言うんだが、武仁には感知スキルがあり、特に悪意や敵意のあるものには過敏に反応するんだ。しかし、洞窟からここまでには魔物数匹と厄災の芽の反応しかなく、君の事を敵としては武仁は感知していなかった......つまり......君には悪意や敵意はない、しかし厄災の種を破壊しようとしていた。間一髪だったが、もしそれを破壊していたなら厄災は更に早まり禍々しい規模になるところだったんだよ」

武仁は「たしかに......」と呟いたが龍己は混乱している様子で、それを知ってか知らずか全は話を続けた。

「......悪いが一旦王都へ同行してもらえるかい? 僕たちがこの世界へ落ちて8日間、その間の事を擦り合わせたい」

全の申し出に龍己は考えあぐねたが武仁は「お前に今拒否権はねぇよ」と呟くと全に合図を送り全は「ごめんね」と言うと転移(ワープ)を唱えた。

それから入れ違うかたちで不屈の洞穴に到着した聖人と虎次郎は入り口で待機していた案内役に龍己の居所を聞くと洞窟の中に単身入って行ったがまだ出てこない事を聞くと「ここで待機だな」と聖人はズカっとその場に座り込んだ。
その間に不屈の洞穴と言う場所である事に一抹の不安を抱える龍己に同行していた案内役が「そう言えば冒険者の方が龍己様の後に入っていかれました......大丈夫でしょうか......」と心配するが「冒険者風情がなんだ?」と気にするそぶりもない聖人に虎次郎は少し胸が痛むのを感じた。

陽が沈みかけた頃、全と武仁に連れられて王都へ転移(ワープ)したはずの龍己は何事もなかったかのように洞窟から出てくると「龍っちゃん大丈夫!?」と虎次郎が駆け寄り、龍己は「なぜ?」と2人がこの場にいる事に戸惑った。
聖人はフンと鼻息を上げると「帰るぞ、お前抜け駆けすんなよ」と睨みつけるが虎次郎は慌てて「朝、龍っちゃんが出て行くところを見てね! たまたま! それでだよ!」と話すと「すまない......」と謝る龍己。

それからはそれぞれが無言のまま案内役とともに聖ライガ教会へと戻るのだった。