交錯の異世界 〜異世界転移したらインフレチート性能だったので1000年に1度の厄災を終わらせてから帰ります〜


2人は依頼書が無数に貼られたボードの前に立ち一通り目を通すと、それぞれ一枚ずつの依頼書を手に取った。
全はDランククエストの3種類の薬草採取、武仁はCランククエストの街道沿いの調査と書かれた依頼書を受付窓口にいるマムに手渡す。

「全さんは採取クエストですね。通常、採取クエストは1種10本でEランクなのですが、こちらは3種類をそれぞれ15本ずつとなりますのでDランクになっています。しかし、採取系のクエストは時間がかかる割に報酬は討伐系や他のクエストと違い低めです。それでもよろしいですか?」

全は自身の鑑定スキルを試したい様で、二つ返事でクエストを受注した。

「武仁さんは調査クエストですね。こちらは昨日出されたばかりのクエストで、知っての通りカルカーン周辺にBランクの魔物ホークアイが出現した事で領主様より出された依頼になります。この辺りでは普段Eランクの魔物くらいしか出現しませんから、何もなければラッキーで高報酬! しかし、昨日の今日ですしまだ出現した原因もわかりません......。万が一、危険なクエストになる可能性もあります。それでも受注されますか?」

武仁は腕試しがしたいのだろう、全に続き二つ返事でクエストを受注した。

「承りました。それではお2人ともお気をつけて!」

マムは依頼内容を受付名簿に写し取ると2人を見送った。

ギルドを後にした2人は、まずは全の採取クエストでその後に武仁の調査クエストを進めようと話しながら歩いていた。
すると後方から「おーい」と声がし、振り返るとケインが走ってこちらに向かって来ているのが見えた。

「はぁ、はぁ......ギルドに行ったら会えるかなと思って、マムに聞いたら入れ違ったと言われてね。追いかけてきたよ」

昨日のケインは騎士団の鎧を纏っていたが、今日は非番だと言う事で腰に剣は携えているものの革の胸当てをつける程度の軽装だ。

銀色の短い髪に、端正な顔立ち、人の良い気質、更には騎士団副団長である。
昨日はそれどころではなく気が付かなかったがケインは城下町で人気があるのだろう、道ゆく女性がキャッキャと話しながらケインに目を止めていくのがわかる。

「クエストに出るんだって? しかも調査のクエストも受けたと聞いた。今日は非番だし、良ければ同行させてくれ」

その申し出を断る理由もなく、彼には恩もある。
それにこの世界での理解者及び協力者も必要だと考えた全は「是非一緒に行こう」と快諾した。
武仁もケインを気に入っている様子で「俺の邪魔はすんなよ」と生意気を言いながら口角を上げた。

城下町カルカーンを出た3人は街道沿いをしばらく歩く。
道中ケインがこの辺りの地理やクエストポイントについて話をしてくれた。

カルカーンから東南に位置する迷いの森林が今回の採取クエストの目的地だと言う。
そう、全と武仁が落ちて来たあの森林だ。
奥に入ればEランクの魔物が出現し、更に奥に入ればDランクの魔物が生息しているが、森林入り口辺りには滅多に現れないらしく薬草の採取ポイントとされていると言う。
それが踏み跡のあった理由か、と全は理解した。

ケインは続けて、カルカーンより東北には水上の街フォンダンがあり、そこから北へ登ると王都ボルディア、東南へ降ると竜の渓谷があるのだと言った。
ケインの話はタメになるものばかりで聞き飽きない。
気付けばあっという間に目的地の迷いの森林に到着していた。
入口から草木が青々と生い茂っている。

「ケイン、道中色々教えてくれてありがとう。採取ポイントに到着したし、ちょっと採取してくるよ。......えーっと、採取対象は......薬草15本、毒消草15本、月見草15本、っと。......鑑定!」

依頼書を再確認してから鑑定スキルを使用した全の目にはゲームでよく見る▶︎(アイコン)と薬草の名前と効能が表示されて映った。
瞬間、ケインが驚嘆しながら全に声をかけた。

「全は鑑定が使えるのかい!? これは驚いた! ちなみに俺のステータスを見る事もできるかい?」

そう言うケインの方を向く全の目にははっきりとケインのステータスも映る。

「そうだね、ケインは職業が騎士、レベルは32だ。全部言うかい? 例えばスキルに直感があるね」

「凄いよ、正解だ! 鑑定なんて大当たりのギフテッドじゃないか! 商人になれば間違いなし、ギルドでも引っ張りだこのレアスキルだよ! だが......俺の直感スキルも......結構イケてるだろ?」

そう言うとウインクしたケイン、全と武仁は今までのケインの立ち回りは直感スキルに後押しされたものだったのかと納得したと同時に、人が良すぎる気質が故の詐欺には合わずに済みそうだなとホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ本番! 奥まで行かずともあらかた終わりそうだし、少し待っててね」

それから全は森に入り目当ての薬草を次々と採取し、遥か向こうから来る荷馬車が通り過ぎようとする頃には採取を終わらせた。

「楽しくなって少し採取し過ぎたかな......。まあ使いどころもありそうだし良いか......収納!」

全は採取した薬草を収納すると「おまたせ」と武仁とケインの元へ戻った。

「次は俺だな」と武仁は張り切ったが、次の瞬間には「街道沿いってどこまで調査すればいいんだ?」と振り返りケインに聞いた。
ケインは「真っ直ぐ進むと小さな村がある。そこまで行って戻れば問題ないだろう」と話した。

城下町カルカーンを背に街道沿いを進む3人。
カルカーンを出てから特に魔物に遭遇する事もなく道行く人もぽつりぽつりとすれ違う程度でのどかなものだ。

「俺の腕試しはいつになんだよ。魔物一匹いねぇじゃねえか」

武仁がボヤくとケインが口を開いた。

「この辺りは普段から割と平和なんだよ。魔物より賊なんかが関わっている事案の方が多いくらいさ。とは言えそれも数えるほどだけどね。だから昨日は本当に驚いた......。領主様が直々に依頼を出すのも当然、何もないに越した事はないし、報酬を貰い実績も積める、良い事尽くしじゃないか武仁!」

そう言い武仁の肩をポンと叩き微笑むケイン、納得の行かない武仁はムスっとしたかと思えば、次の瞬間ニヤっと笑う。

「いるじゃねぇかぁ......! 俺が行くまでそこ動くんじゃねぇぞぉ......!」

第六感スキルが働いたのだろう、そう言うと走り出す武仁。
全とケインは途端に走り出した武仁を追うが、その差は縮まらない。

「はぁ、はぁ......昨日のホークアイ討伐といい、さっきの鑑定スキルといい、全には大概驚かされたが......。武仁もただの前衛(アタッカー)と言うわけではなさそうだね......!」

武仁を追いかけながらケインは全に言った。

「はぁ、はぁ......武仁は僕らの故郷でも一番身体能力が高くて、野生的に感も鋭いんだ......。僕と武仁は無いものを互いに補える良いパーティだと思っているよ......!」

そんな会話がなされているとも知らない武仁は、およそ2kmと少しを走り抜け単身小さな村へと辿り着いた。
村の入り口にはムツノハシ村、と書いてある。
一見すると穏やかな村だが村にいる人々の目は虚で、農作業をするお爺さんも家の前で会話をするおばさん達も走り回る少年少女にさえ違和感を覚えた。
武仁が感知した魔物はどうやら村の奥にいるようで、武仁は2人の到着を待たずに村へ足を踏み入れた。
すると一斉に武仁の方を見る村人達。
武仁は物怖じせずズカズカ村の奥を目指し進む。

「こんにちは、こんな辺鄙な村へどのような御用向きですか?」

「こんにちは、今日は天気が良いですね」

「こんにちは、お兄さんは冒険者ですか?」

村人は一斉に武仁に声をかけたかと思えば、ジリジリと近づいてきており、それはまるで村の入り口を塞ぎ武仁を村の奥へと追いやるかのように徐々に集まってきている。

「気持ち悪ぃな、なんだお前ら? まぁ俺も用があんのはこの奥だからよぉ。わざわざんな事しなくたっていいんだぜ?」

そう言うと村の最奥にある民家まで歩みを進めた。
嫌な気配はこの民家の真裏からするようだ。

武仁は剣(バット)を収納から取り出すと警戒しながら民家の裏手に回り込み、対面したそれに目を疑った。
それはまだ新しい苗木だったが、普通の苗木ではあり得ないギョロリとした大きな目が苗木から伸びた葉についているのだ。
その目は武仁の方を見るや枝を伸ばし、もの凄い速さで鋭く幾度も突いてきた。
地面に刺さった痕跡からして、当たれば貫通必至だろう。
しかし武仁はこれを身軽に避けながら接近し、苗木の前まで来ると剣(バット)を横にフルスイングした。
苗木はその衝撃でボロボロと崩れ落ち、最後にはコロンと目玉だけが残り地面に転がった。

「遅すぎるぜ。肩慣らしにもなんねえ」

そうつぶやくと目玉を拾い、民家の裏手から出るとさきほどまで目が虚だった村人達は正気を取り戻した様で少し混乱していた。
武仁が混乱に乗じて村を出ようとしたタイミングで全とケインが村に到着する。
2人はかなり息を切らしているようだ。

「ははっ! お前らも遅すぎるなぁ!」

そう言うと武仁はまだ肩を揺らしながら呼吸の整わない2人にお構いなく説明しながら拾った目玉を見せた。

「!!!」

それを見るや目を見開いて驚いたケインはまだ呼吸が整わない中で絞り出し言い放った。

「......厄災の芽......だと......!!」

ケインの様子から、それは何か不吉なもので急を要する深刻なものなんだと感じた2人。

「急いでカルカーンに戻った方がいいかな?」

そう全が言うと、ケインは深く頷いた。

「まだ試した事はないけど......転移(ワープ)!」

全が唱えたの闇属性上級魔法の転移は一度訪れた場所に移動できると言うものだ。
3人は瞬く間にカルカーンに戻ってきた。

ケインは転移に驚きながらも、厄災の芽の事で気が気でない様だ。
2人にギルドへの報告を頼むと大急ぎで領主へ報告に向かった。
厄災の芽が果たして何なのか、はっきりしないながらもよほどの事態なんだろうと察する2人もギルドへ急ぎ駆け込んだ。
受付のマムに経緯を説明し厄災の芽を差し出すと
マムは大慌てで「お2人も来て下さい」と言うと2人はマムと一緒に上階のギルドマスターの元へ駆け上がった。

ーー

時は少し遡り全と武仁が迷いの森林に落ちた時間、あの袋小路の地面に突如として現れた底の知れない真っ暗な穴へ飲み込まれたのは全と武仁だけではない。
そう、全に絡んだ中高生3人組だ。
3人は全と武仁とは違う場所へ落ちて来た。

「なんだここ......おい起きろよ、虎(トラ)、龍(タツ)」

先に目を覚ましたのは真中 聖人(まなか せいと)。
全に手を上げようとした彼だ。

「う......ん......。聖ちゃん、どったの?」

次に目を覚ましたのは右京 虎次郎(うきょう とらじろう)。
彼は寝ぼけているようだ。

「......」

最後に目を覚ましたのは左近寺 龍己(さこんじ たつみ)。
無言で辺りを見渡している。

どうやらどこかの部屋の中だ。
とても豪華な室内、3人はそれぞれにベッドで目覚め、見覚えの無いこの空間に戸惑いを隠せない。
聖人が2人に話しかけようとしたがまるで3人が目覚めたタイミングを伺っていたかの様に部屋の扉をノックする音が聞こえ、ガチャっと扉が開くと見知らぬ老人が入ってきた。

「お目覚めですか、聖人の器の皆様。私は聖人の器の皆様を導く者、オダーと申します。皆様まだ混乱されている事かと存じますので順を追ってご説明致します。ご準備が整いましたら部屋の外におります係の者にお声かけ下さい」

そう言うとオダーと名乗る老人は部屋を後にした。

「おい聞いたかよ、聖人の器? なんだそれ! てかどこだここ! 誘拐......!? 意味わかんねー!」

「聖ちゃん、怖いよぉ......!」

「......」

3人はそれぞれに不安を抱える様子だが「爺さんだったし何かあっても3人で行けば大丈夫だろ」と聖人が言うとベッドから出て部屋の扉をを開けた。
部屋の外にはシスターのような格好をした女性が立ち、その顔には目を覆い隠す様に布が垂れており、その布には大きな一つ目が描かれていた。
気味が悪いな、と思いつつも3人は案内されるがままに廊下を進んだ。

「こちらです」と通された部屋は広く、真ん中の床には魔法陣が刻まれており部屋の奥には案内してくれたシスターと同じ一つ目が描かれた旗が大きく掲げてある。
部屋の扉から真ん中の魔法陣までの導線を避ける様に神父やシスターの格好をした人々がズラリと整列し、3人の登場を拍手で迎え入れた。
さきほどオダーと名乗った老人は魔法陣より奥に立っており、3人は進むしかなく魔法陣の上まで進む。

「ここはどこなんだ? それにしても悪趣味だろ、気味が悪い。俺たちをどうしようってんだ?!」

聖人が言うとオダーは答えた。

「改めまして、ここは聖ライガ教会、私は教祖のオダーと申します。皆様は異界よりこの世界へ召喚された聖人の器。言わばこの世界における救世主でございます。丁重におもてなし致しますのでご安心下さい。わからない事や必要な物、全て対応致します。ここに集まる者は皆様をお慕いする者ばかりです。本日は聖人の器である皆様のそのお力を鑑定するべくこちらのお部屋にお越し頂きました」

オダーが言い終わると聖人は「異世界転移じゃん」と湧き上がった。

「それでは鑑定させて頂きます。鑑定!」


真中 聖人(まなか せいと)

種族/人間 年齢/16
職業(ジョブ)/聖人の器 レベル/1

称号/雷神の加護(経験値2倍.レベリング加速2倍)

HP/1000
MP/1000
腕力/1000
腕力抵抗/1000
魔力/1000
魔力抵抗/1000
知性/100
感知/100
俊敏/100
運/100

スキル
・雷属性魔法
 雷属性の魔法を初級〜特級まで使える


右京 虎次郎(うきょう とらじろう)

種族/人間 年齢/14
職業(ジョブ)/聖人の器 レベル/1

称号/雷神の加護(経験値2倍.レベリング加速2倍)

HP/1000
MP/1000
腕力/1000
腕力抵抗/1000
魔力/1000
魔力抵抗/1000
知性/100
感知/100
俊敏/100
運/100

スキル
・雷属性魔法
 雷属性の魔法を初級〜特級まで使える


左近寺 龍己(さこんじ たつみ)

種族/人間 年齢/18
職業(ジョブ)/聖人の器 レベル/1

称号/雷神の加護(経験値2倍.レベリング加速2倍)

HP/1000
MP/1000
腕力/1000
腕力抵抗/1000
魔力/1000
魔力抵抗/1000
知性/100
感知/100
俊敏/100
運/100

スキル
・雷属性魔法
 雷属性の魔法を初級〜特級まで使える


オダーは鑑定結果に雷神の加護を見るや否や地に頭を擦り付け言った。

「雷神様がついに降臨致しました! 皆さん、頭を低くお祈りなさい! 聖人の器様は御三方とも本物です、我々の魂をお導き下さるのは聖人様、虎次郎様、龍己様です! この名を心に刻みましょう!」

そう言うと整列し見守っていたシスターや神父はオダーと同じように地に頭を擦り付けるように3人を崇めた。

この異様な光景に3人はギョっとしながらも動けず、ただその場に立ち尽くしていた。

妙な教会に保護された3人は教会員達の異様な信仰ぶりに唖然とし立ち尽くす事しか出来ずにいたが、教祖のオダーが仕切り直すと謎の集会はお開きとなり、そこからも丁重に扱われた。

「お腹が空いておられるでしょう」とオダーが言うと教会員はすぐに豪華な食事を用意し「お着物が汚れておられますからお着替えをご用意致します」とオダーが言うと絹の様な替えの服を手にしたシスターが1人ずつに支え湯浴みを手伝う。
湯浴みを終えた3人ははじめのベッドが3台並ぶ豪華なプライベートルームへ戻る。

「本日は召喚されたばかりで様々な疑問をお抱えの事とお察し致しますが、混乱の渦中かと存じます。この世界についてや聖人の器と言う存在についてなど、明日改めてお話させて頂きます。まずはゆっくりとお休み下さい」

そうオダーは言うと部屋を後にした。
3人きりになったところで聖人、虎次郎、龍己は話し始める。

「すげぇ崇められてさ、すげぇ至れり尽くせりなんだけど......ヤバい宗教って感じじゃね?」

「......うん。僕たちどうなっちゃうのかなあ......。でも聖ちゃんと一緒で良かったよぉ!」

「......異世界転移」

3人はいまいち会話が噛み合っていないが、龍己が「三人寄れば文殊の知恵......」と呟くとこれまたいまいち理解はしていない様子だが聖人は「俺たち3人いればなんとでもなるよな」と声高らかに言い虎次郎は「聖ちゃん最強だもんね」と囃し立てた。

いつしか眠りに落ちた3人。
よほど疲れたのか成長期の彼等だからなのかぐっすりと眠り、気が付けば窓を覆うカーテンからは太陽の光が漏れる。
その光は聖人の顔を照らすと眩しさを感じた聖人は目を覚ました。

一足先に目覚めた聖人はまだスヤスヤと眠る虎次郎と龍己を起こすため部屋のカーテンを一気に開けた。

「おらあ! 起きろ起きろ! 朝だぞー!」

そう言うと「眩しいよ聖ちゃん」と言う虎次郎と無言で薄目を開ける龍己を見てゲラゲラと笑った。

部屋に備わった洗面台で顔を洗ってから談笑していると、ノック音に続き部屋の外からオダーの声が聞こえた。
オダーは朝食の準備ができたと3人を呼びに来たようで「朝食を済ませた後にこの世界についてお話をしましょう」と言った。

3人は昨晩のうちに用意されていた服に着替えると部屋を出る。

部屋の前には昨日と同じくシスターが待機しており、案内されるがままに通された食堂で朝食を摂ると頃合いを見計らいシスターは「オダー様の元へお連れ致します」と言い3人は再び案内されるがままについて行く。
館内は広いお屋敷のような造りで案内がなければ迷子になりそうである。

案内に従い進む3人、連れられた入ったのは会議室の様な部屋だった。

「昨晩はよく眠れましたか? 朝食はお口に合いましたでしょうか? お召し物もよくお似合いでございます」

オダーがうすら笑みを浮かべながら言った。

「あぁ。それはいいんだけどさぁ、説明してくれない? 召喚されたのはわかったけど俺たちどうされんの? で、帰れんの?」

聖人はドカっと椅子に腰を下ろすと本題を急かした。

「流石聖人様、失礼致しました。では早速お話させて頂きます。ここはこの世界の中心都市、王都ボルディアから東北に位置する聖ライガ教会です。皆様は1000年に1度起こるとされる厄災を退けるために異界より召喚されました。厄災とは魔物が溢れ返る深淵(アビス)が各地に突如として現れる現象の事を指しております。この世界では召喚された人々の事を聖人の器と呼んでおり、昨日の鑑定により御三方には雷神様の加護が付与されているのを確認致しました。雷属性のあらゆる魔法が使用でき、更に初期ステータスたるやこの世界の常人の100倍となっておりました。その救世主とも言える聖人の器の御三方の力を持ってして、この世界をお救い頂きたいのです。その為に我々聖ライガ教会は存在し、お支えできる事を光栄に想いこの身を捧げる覚悟で御座います」

「大体わかった。んで、その厄災とやらを鎮めなきゃ俺らは帰れんねぇのかよ? 帰れんなら今すぐ帰りてぇんだけど」

「心中お察し申し上げます。しかしながら仰る通り、厄災を鎮める事により元の世界に繋がる扉(ゲート)が開かれるとされております」

「だったら早いとこ厄災終わらせて帰ろうぜ!」

聖人は振り返り後ろに立っていた虎次郎と龍己に言った。
2人は真剣な顔で深く頷くとオダーは話を続けた。

「厄災の起こる日までまだ少し時間が御座います。まずは厄災の予兆とされている厄災の芽と呼ばれる苗木を探し、その苗木の本体である種を破壊して頂きたいのです。深淵(アビス)は厄災の芽を破壊する事で段階的に封印を施す事が可能とされております。御三方には厄災の起こる日までに7つ現れると言う厄災の芽を1つでも多く破壊して頂きたいのです。この世界では慣れず不自由も多いとは思いますが、出来うる限り如何なるお申し付けにも応じる所存で御座います。どうか我々にしばらくのお時間とお力添えをお願い致します」

そう言うとオダーは深々と頭を下げた。

「......わかったよ、頭上げろ。虎と龍もいるんだし、ちょっとこの世界でチート無双かまして凱旋帰還ってのも悪くねぇ! それにここは異世界なんだろ? 日本の法律も関係ねぇんだし女とうまい飯に酒だ! オダーって言ったか? ちゃっちゃと厄災とやらは俺らが終わらせるからよぉ、それぐらいは良いだろ?」

「せ、せ、聖ちゃん......! なんかダークヒーローっぽいよぉ......! そんな聖ちゃんもカッコいい......」

「......」

オダーは「お安い御用です。直ぐに手配致します」と言うと、一通りの話も終わり3人はプライベートルームへ戻った。

部屋に戻った3人。
オダーに頼んだ女とご馳走と酒を楽しみに待つ聖人は部屋に戻るやテーブルに着き「異世界なんか夢みたいな話どうせなら思いっきりやろうぜ」と豪語する。
そんな聖人の横に腰掛け潤んだ目で見つめながら相槌を打つ虎次郎。
しかし龍己は終始無言で1人ベッドに腰をかけた。

「......なんだ龍! 辛気臭ぇ顔して! 今からお楽しみが待ってんだぜ?」

そんな龍己に声をかけた聖人だが龍己は「......俺はいい」と言って1人部屋を出た。
「童貞拗らせるとあぁなんのかね」と言う聖人に「龍っちゃんは慎重だから」と虎次郎が返した。

1人部屋を出た龍はオダーに話がしたい旨を部屋の前に待機しているシスターに伝える。
シスターは「かしこまりました」と言うと昨日の魔法陣のある部屋へ龍己を案内した。

「これはこれは龍己様、どのような後用向きでしょうか? さきほどの件でしたらただいまご準備しておりますので......」

オダーが言い終わる前に龍が食い気味に聞いた。

「そうじゃない......。さっきの話......厄災の芽......場所はわかっているのか......? わかっているのなら......まずは俺だけで行きたいんだ......。なるべく2人を......聖人と虎を......危ない目には遭わせたくないから......。大事な幼馴染なんだ......」

そう言うとオダーは感涙しそうな表情を浮かべながら龍己に答えた。

「龍己様はご友人想いのお優しい方なのですね。なんともご立派! 流石は聖人の器に選ばれしお方......このオダー、感動致しました。......厄災の芽は現在判明しているものであれば竜の渓谷近くに出現しております。案内役と戦術指南役をお付け致します。地理もスキルの使い方などわからない事が御座いましたらこの者達をお使い下さい。いつ出発なさいますか?」

「......今すぐに。......2人には内緒にしてくれないか......」

そう龍己が言うと、仰せのままに、とオダーは返し待機しているシスターに言伝た。
すると間も無くやって来た案内役と戦術指南役を2人ずつ紹介され、教会が準備した武器の中から大剣を選び取ると背中に携え教会の外に用意された馬に跨りオダーに見送られ早々に出立した。

龍己は表情が硬く口下手であるがゆえにコミュニケーションが得意ではなかった。
周りは彼に近寄り難い人と言う印象を抱く事が多く、180cmを有に超える体格の良さがその印象をさらに深めた。
そんな彼の唯一の友人は幼馴染の聖人と虎次郎であり彼にとっては大切な友人。
彼が1人で終わらせられるならと危険を買って出たのもそれを思えばおかしな話ではない。

道中、はじめて魔物に出くわす。
魔物は猪の様な見た目で龍は驚きながらも表情は変わらない。
この辺りは魔物が多いようで戦術指南役が先頭を切り交戦しながら龍にスキルの使い方や武器の扱い、魔物の弱点などを教えた。

「......ありがとう。......次は......俺が戦う」

戦闘が終わると戦術指南役にお礼を告げたが「とんでもございません」と恐縮させてしまった事に罪悪感を感じながらコミュニケーションの難しさを再認識しつつ竜の渓谷を目指して再び馬を走らせた。

竜の渓谷までは馬でも半日がかりになるそうだ。
スキルの使い方を覚えた龍は騎乗したまま次々に向かってくる猪のような魔物に魔法を放ち道を開く。

「雷撃(サンダーショック)」

龍己は小さな声で魔物を見つけるやいなや次々に雷属性初級魔法を唱えた。
天から雷が一直線に落ちる。
やはり聖人の器なのか、その力の差は歴然で順調に竜の渓谷への道を進んだ。

しかし、厄災の芽の位置に近づくに連れて出現する魔物は強くなっている様に感じた。
猪の魔物は跡形もなく消し飛んだが、次に出た熊のような魔物は丸焦げ程度。
そして竜の渓谷を目前に、今対面している大蛇の魔物に雷撃は大したダメージを与えられずにいた。

「烈閃光(インテンススパーク)」

龍己は雷属性中級魔法を使った。
伝線を伝う電流のようにバチバチと音を立てながら大蛇の体を激しい雷光が伝う。

大蛇はそれでも息絶える事はなかったがダメージは通ったようだ。
これなら倒せるのかと考えた瞬間、大蛇は龍に向かって大きく口を開けて襲いかかった。

龍己は冷静に背に携えた大剣を抜いたが間一髪間に合わず襲いくる大蛇を前にギュっと目を瞑ってしまった。

ゴキ......バリ......バリ......

耳に鈍い音が響く。

恐る恐る目を開けると、そこにはここまでを共にした戦術指南役の1人が龍己の前で大蛇に噛み砕かれ飲み込まれようとしているところだった。

龍己は足がすくみ体が固まった。

恐怖。

戦うとはこう言う事かと、龍己は後悔した。
そして不甲斐ない自分に怒りが沸いた。
目の前で飲み込まれた人間がもし自分だったなら......まして聖人や虎次郎だったのなら......。

そう頭をよぎった瞬間、地面を踏み込み空中高くジャンプした龍は大剣を両手で力強く握り頭上へ大きく振りかぶると大蛇の額に思い切り振り下ろした。

大蛇は額が縦に割れ大きな図体はバランスを失い地に崩れ落ちた。

「......すまない......すまない......」

そう言いながら飲まれた戦術指南役を大蛇の喉元から引きずり出すと、他の教会員と共に弔った。
龍己は自分のせいだと強く責任を感じながら、死者を出した事への罪悪感と一歩間違えれば死ぬと言う恐怖心、そして逃れる術のない絶望感、さらに聖人と虎次郎を守りたいと言う想い......様々な感情が交錯する。

しばらく俯き、降り出した通り雨さえまるで気にするそぶりもなく、どのくらい時間が経っただろうか。
雨が上がり雲の切れ間から一筋の陽の光が地面の水溜まりをキラキラと照らす。
龍己の顔はまだ晴れないがスッと顔を上げ真っ直ぐと前を見据え立ち上がると腹を括り厄災の芽まで一直線に進んだ。

厄災の芽は竜の渓谷の手前の崖の上にあった。
枝を伸ばし攻めて来る厄災の芽に動じるそぶりもなく瞬時に大剣で両断するとすぐに種を破壊し、戻ろう、と案内役の2人と戦術指南役の1人に言うと来た道を颯爽と戻った。

ーー城下町カルカーンーー

場面は冒険者ギルドに駆け込んだ全と武仁へ戻る。
受付のマムに厄災の芽の出現について伝えるとマムは耳を疑いながら差し出された一つ目を見るや大慌てで2人をギルドマスターのワンドの元へ連れて行く。

「そんなに慌てて何事だ」とワンドが言うと「厄災の芽が出現しました」と血相をかえてマムが報告した。
ワンドも驚きを隠せない様子だが2人事の経緯を聞くと冷静に説明しはじめた。

「なるほど、ムツノハシ村でそんな事が......。その目は厄災の種と言って厄災の芽を倒すと姿を表す、言わば厄災の芽の本体だ。厄災の芽自体はそれほど脅威ではないが、生息する場所が今回のように人里であれば厄介で厄災の芽から放たれる濃い魔素により周囲の人間の自我を奪うのだ。厄災の芽が出現したとなると、厄災の発生......深淵(アビス)の出現も時間の問題だな......。領主へはケイン経由で報告がなされるだろうが、2人とケインは証人として領主とともに王都ボルディアへ行き国王へ謁見する事になるだろう」

そう言うとワンドは真剣な顔で続けた。

「しかし、ケインが同行し厄災の種を持ち帰ったのは良かった......。これは粉砕してしまうと厄災を早める深刻化させるだけではなく粉砕時にそいつの魔素が全て放たれ周辺の魔物を活性化させてしまうからな! いやぁ、本当に良かった!」

武仁はホークアイの一件で単に討伐証明なのかと拾っていたが「あぁケインが教えてくれたからな」と咄嗟に答えながら内心、危ねー、と1人胸を撫で下ろすのだった。

その後、普段出現しないホークアイが出現したのも厄災の芽の影響だろうと言う結論が出たところで話も一区切りつき2人は受付に降りて受注していたクエストの報告をし薬草を納品した。

「お2人ともお疲れ様でした。全さんの3種の薬草採取のクエストも納品された素材は全て間違いなし、武仁さんに関しては厄災の芽の件は本当にお手柄ですよ! 領主様から別で恩賞が出るくらいの事です。 それではこちらが今回のクエストの成功報酬となります、ご確認下さい」

全は金貨1枚、武仁は金貨15枚を受け取ると一旦宿屋に戻る。
宿屋に着き部屋に入ると全は武仁に切り出した。

「凄い濃い2日間だなあ、怒涛の展開と言うか......異世界をゆっくり楽しむって言うのはなかなか骨が折れそうだ」

「俺なんか危うく厄災とやらを早めるところだったぜ......おいズチ! そこは言っとけよな!」

武仁が言うと呼ばれたズチは声のみで答えた。

『申し訳ない! まさか厄災の芽がこんなにも早く現れるとは......此度の召喚対象が変わった事により世界の流れが変わろうとしているのやもしれぬ......』

「リン、厄災の芽の発生をあらかじめ探知できないのかい?」

武仁に続きリンに問いかける全。

『神々や神の使いの私達がこの世界に物理的干渉をする事はできません〜。そして創生の記憶をお教えする事もできません〜。しかし厄災の芽の場所については制限外、発現次第私たちもお教えします〜。今回はズチの言う通り早すぎて対応不可能だったのかと〜。しかし〜道を示すのが私たち神の使いの役目、厄災の種を浄化する為にここから近い火神の大樹を目指すと良いでしょう〜♪』

そう言うとリンは火神の大樹がカルカーンの北にあるマグマ山にあると教えてくれた。
「厄災までどのくらいの猶予があるのか」と全が尋ねる。

『本来であれば聖人の器が召喚されてから1年をかけて7つのうち6つの厄災の種を浄化していき最後の浄化をきっかけに深淵(アビス)が発生するのです〜。これは先ほどのギルドマスターさんも一部仰られておりましたが補足いたしますと、厄災の種を浄化せずに放置すれば高濃度の魔素を発し続け魔物を凶暴化させてしまいますし、粉砕すれば深淵の発生が早まり更に強い深淵となってしまうので厄災の芽を倒し種を入手後は速やかに浄化される事をおすすめします〜』

2人は息つく暇もないな、と言う顔をしつつ「次の目的地も決まったところで話しておきたい事があるんだ」と全が言った。

「迷いの森林でケインを鑑定しただろう? その時のステータスなんだが、ケインはレベル32だったがステータス値はどれも300前後だった。騎士団副団長のクラスで、だ。僕はホークアイを、武仁は厄災の芽を討伐した事でレベルが上がっていると思う、改めてステータスを確認してこれから行く先々で騒ぎにならないようパワーバランスを考えながら動いた方が良いと思うんだ」

そう全が言うと武仁は「300......」と呟くと信じられないと言うような顔をしながら自身のレベルを再確認した。


全 レベル59

武仁 レベル63


2人はそれぞれのレベルに驚愕した。
その様子を見ているのかズチは笑いながら端を発した。

『はははっ! それは当然の事ですぞ! 六神の加護があるお2人は経験値獲得量が6倍ですからな! ちなみに初期ステータスに至っては適正職業に関わる値は1000倍、それ以外でも100倍もこの世界の人々より優れておりますぞ! 本来聖人の器が授かる加護はどれか一神の加護だが、お2人は迷いし落ち人としてやってきた勇者と賢者なのですからな! 神々も大盤振る舞いですぞ!』

「そんな設定でいいのかよ......」

武仁は呆れたようにツッコんだ。

しばらくすると、領主様が2人に会いたいそうだ、とケインが宿屋に訪れた。
2人はこれを了承するとケインに連れられて領主の待つ城へ向かった。

ケインに連れられて領主の元を訪れた2人は執務室に通された。
そこにいたのは若く長い金の髪に青い澄んだ瞳が印象的な美しい女性だった。

「急に呼び立ててすまない。私はカルカーンの領主、クリスティナ・フォン・カルランド。君が全、そして君は武仁だね。ケインから話は聞いたよ。先程ケインから報告を受けた厄災の芽の件で急ぎ国王並びに他領地へ書状を認めたり忙しなくてな。執務室で申し訳ないが、まぁ座ってくれ」

そう言われ2人はソファに腰を下ろす。

「まずは昨日のホークアイの討伐、並びに今日は厄災の芽の発見と対処、カルカーンの領主として深くお礼申し上げる。君たちがいなければ城門付近の人々やムツノハシ村の人々は無事ではなかっただろう......。これはそれらの功績に対する褒賞だ、受け取ってくれ」

クリスティナから差し出されたのは白い金貨1枚と金貨50枚だ。
2人はケインをチラリと見るとケインは、受け取れ、と言うかのように頷いた。
2人は「ありがとうございます」とお礼を言い受け取った。

「それからギルドマスターあたりから既に聞いているかもしれないが、謁見許可が下り次第、王都ボルディアへ出発する。厄災の芽を発見した君たちにも同行してもらいたい」

そう言われた2人は了承すると「出発日はまたケイン経由で言伝る」と言うクリスティナは忙しそうだ。
邪魔にならないよう早々に領主邸を後にした。

「2人ともお疲れ様! カルカーンに来て2日目にして領主と会って緊張したんじゃないかい? それに国王へ謁見となると......君たちはそう言う星の元に生まれたのかな?......しかし疲れただろう、日も暮れて来たし今日はゆっくり休むと良い」

ケインが言うと2人はヘトヘトながらも「昨日の約束覚えてるか」と言いながら絶品ボアステーキのある食堂にケインを引っ張って行った。

「昨日今日の付き合いだが、本当にケインには感謝している。僕たちだけじゃ冒険者登録も、厄災の芽の事後報告だって手こずっただろう......。王都ボルディアへの同行もあるし、それまでさカルカーンを基点に動くから良ければこれからもよろしく頼むよ」

そう全が話すと「一期一会も冒険者の醍醐味の一つだろ、こちらこそよろしく頼むよ」とケインは笑いながら言ってくれた。
それからも3人は話を弾ませながら楽しい一時を過ごし、ボアステーキで腹も膨れ武仁がウトウトしはじめたところで全は「お礼だから」と会計を済ませると見送るケインに手を振り宿屋に入った。

部屋に戻ると2人はすぐに眠りつく。

ーー翌朝ーー

どちらが先ともなく目覚めた2人は「おはよう」と挨拶を交わすと3日目のログインボーナスを得るためステータスオープンを唱える。
リンとズチは今日も特典内容を川の流れのようにさらりと告げると風のようにふわりと去った。

3日目のログインボーナスを得た2人のそれぞれのステータスはこうだ。


全 レベル/59

称号/六神の加護(獲得経験値6倍.レベリング必要経験値100固定)

HP/590
MP/15900
腕力/590
腕力抵抗/590
魔力/15900
魔力抵抗/EX
知性/15900
感知/590
俊敏/590
運/EX

スキル
・六属性魔法
 火、水、風、土、光、闇の初級〜特級魔法を使用できる。
・鑑定
 目視したあらゆる対象の情報を看破する。
・収納
 収納対象の時間を停止し無制限に収納できる。
・全知全能
 素材さえあればあらゆるものを錬成できる。

装備
・賢者のローブ
 賢者のみ装備装備可、物理攻撃をはね返す


武仁 レベル/63

称号/六神の加護(獲得経験値6倍.レベリング必要経験値100固定)

HP/16300
MP/630
腕力/16300
腕力抵抗/EX
魔力/630
魔力抵抗/630
知性/630
感知/16300
俊敏/630
運/EX

スキル
・必中
 必ず狙ったところへ命中する。
・第六感
 半径3km圏内の対象を正確に感知できる。
・収納
 収納対象の時間を停止し無制限に収納できる。
・一網打尽
 感知した任意の対象、または目視した任意の対象を攻撃できる。対象設定数は無制限。

装備
・勇者の剣
 勇者のみ装備可、魔法すら切れる剣(バット)


3日目のログインボーナスでそれぞれ新しいスキルを獲得し、どうやらステータスは1レベル上がる毎に職業適正値は100、それ以外は10ずつ上昇するようだ。

2人は身支度を済ませると今日もクエストをこなそうとギルドへ足を運んだ。
依頼ボードを眺めてクエストを吟味すると、2人はCランクの探索依頼とCランクの討伐依頼が聞いた事のある同じ場所で貼り出されているのを見つけると依頼ボードから剥がし取り受付のマムに手渡す。

「全さん、武仁さん、おはようございます。今日はこちらのクエストですね。......あ! お2人はこの依頼を達成されますと冒険者ランクがCランクへ上がりますよ!」

と言うマムは続けて冒険者ランクの上げ方の一つとして、自分の冒険者ランクより一段階上のランクのクエストを3回成功させると冒険者ランクが上がると教えてくれた。
2人は別々でクエストを受注していたが、同行者はパーティとみなされるようで昨日武仁が受注した街道沿いの調査のCランククエストは全の実績としてもカウントされているそうだ。

「ではお2人のクエストの目的地はマグマ山ですね、受付ました。今日もお気をつけて。」

そう言うマムに見送られ2人はリンから聞いたカルカーンの北に位置するマグマ山を目指して出発した。

マグマ山を目指してカルカーンを出発した2人。
武仁は道中に咲く草花に一々鑑定を使い採取している全を急かす。
全は「これも異世界を楽しむ要素だぞ」とぶつぶつ言いながらも「これならいいだろ!」と素早く採取し収納すると武仁を走り抜きまた腰を下ろしては採取、武仁が追いつきそうになればまた走り抜き腰を下ろし採取を繰り返した。
ちょこちょこと前を行く全にしらーっとした目線を送りつつも武仁は終始第六感を使用し魔物や敵意を感知しながら進む。

マグマ山へは片道だけでも1日がかりと冒険者ギルドでマムから聞いていた為「魔物を狩ってサバイバル飯を食べよう」と武仁は張り切っていただけに、魔物の気配のしない平和な時間に退屈だと言わんばかりの大きなあくびをする。

途中、相変わらず採取をしていた全が武仁目掛けて走り戻って来た。
何事かと思ったが「出発前にカルカーンで用意していた水に魔力を通すと聖水が錬成できてそれに色々な薬草を混ぜ合わせるとポーションやエーテルが出来たんだ!」と言いに戻ってきただけだった。
「お前呑気だなあ」と武仁が言うと「サバイバル飯だとか言ってたお前には言われたくないな」と全も返した。

そんな穏やかな旅路の最中、武仁の第六感スキルがようやく敵意を感知した。
ちょうどマグマ山へ行く道と水上の街フォルダンに行く道との分岐点にさしかかったところだった。

「おい全! ちょっと道は逸れるが北東3km先、人が襲われてるぞ! どうする!?」

そう武仁が言うと薬草採取の手を止め全は返した。

「決まっている! 助けるぞ!」

2人は3kmの距離を駆けつけるまでに間に合わない可能性を危惧して3日目のログインボーナスで修得した武仁のスキル一網打尽を使用する事にした。

「対象は13......一網打尽!」

スキルを発動すると宙に光る球がフッと現れた。
「なるほど」とつぶやくと武仁は収納から勇者の剣(バット)を取り出すとフルスイングして打ち抜いた。
すると球は打った瞬間13個に別れ目で捉えられない様なスピードで飛んで行った。

急いで感知した場所まで向かう2人、ものの数分で武仁が到着するとそこには感知通り13人が気を失って倒れていた。
そして、荷馬車の中で怯える親子らしき人達の無事を確認する。
遅れて全が息を切らしながら到着、呼吸を整えたのち被害者に話を聞くと、カルカーンに向かう道中で盗賊に襲われたと言う事だった。
どうやらこの親子は行商人らしく積荷を狙われたのだろう。
全がステータスウィンドウを開き「土属性魔法にうってつけの魔法があったんだよなあ」と言う。

「......あった!拘束(バインドブランチ)!」

唱えると木の枝が倒れた13人の盗賊達に絡み付き拘束していく。

「カルカーンに僕の魔法で盗賊ごと転移(ワープ)させますから、到着次第冒険者ギルドに突き出すと良いですよ。ご無事で何よりです」

そう全が行商人の親子へ伝えると、深々と頭を下げながらお礼を言う行商人を笑顔で見送り転移(ワープ)を唱えた。

「それにしても武仁、一網打尽ってスキルは絶命させずに気絶させるんだね。僕たちのステータスを考えると塵一つ残らないんじゃないかと思っていたけど......急を要したとは言え使わせたのはまずかったかなって追いかけながら考えてたよ......」

全は内心ホッとしているようだ。

「あぁ、どんな仕組みかわからねぇが感知したのが魔物なのか人なのか、敵意や悪意があるのかだとかがわかるんだ。人だったんでHP1残しの瀕死! と思って打った」

そう言う武仁に「徹底的にシバくさすがはヤンキーだ......」と呟くと「悪人なんだから当たり前だろ」と普通に返され冷やかしたつもりが肩すかしの全だった。

進路を戻し再びマグマ山を目指し歩みを進め途中休憩を挟み食堂で買った弁当を食べると、あまり時間をかけていられないと2人は更に前進する。
あれから特に何もなく大して変わらない風景にも飽きてきた2人、歩き詰めで疲れも溜まる。
陽が傾いてきたところでようやく遠くに山が見えはじめた。

「やっと見えてきた......ちょっと舐めてたな......次からは乗り物が必要だな......もう足が棒だよ、今日はここらで野宿としよう」

全が言うと武仁は「貧弱だな」と言いながらも野宿の準備をしはじめた。
言われた全は「お前が体力おばけなんだ」と返しながら路肩に座り込んだ。

事前にカルカーンの道具屋で調達しておいた野営用の簡易テントを設置すると「念のため」と寝込みを襲われないよう全は光属性初級魔法、防御結界(シールプロテクト)を唱えた。

2人はテントに篭ると全はすぐに眠りについた。
武仁は横になるもなかなか眠れず陽が完全に落ちるまで第六感スキルを使用していたが気がつくと眠りに落ちていた。

ーー翌朝ーー

早めに眠りについたせいか朝早く目が覚めた全。
武仁を起こさないようにテントから出ると大きく伸びをして辺りを見渡した。
マグマ山へ続く道には人1人の影もなく見飽きた草原に変わりもない。
とりあえずとステータスオープンを唱え4日目のログインボーナスをリンから授かるとスキル複製を修得した。
これは所持するアイテムを複製するスキルのようで全知全能と相性が良さそうだ。

ステータスウィンドウを開き水属性魔法を見ながら生活魔法とされる浄化(クリーン)を唱える。
洋服は洗濯されたように、体は風呂に入ったかのように、歯も磨いたようにスッキリだ。

武仁が起きるまで採取してきた薬草で錬成をしようと張り切っていると、案外早く起きてきた武仁に「まだ寝ててもいいんだぞ」と声をかける全だが「いや、目が覚めちまった」と二度寝する気配もないため諦めて武仁にも浄化(クリーン)を唱えた。

「......!? 便利な魔法だな! これで毎日風呂も歯磨きもしなくていいじゃねーか!」

と今までのどの魔法より感動する武仁に「いやそれもどうなんだ......」とツッコむ全だが「忘れずにログインボーナスもらえよ」と口添えた。
言われて武仁もステータスオープンを唱えるとズチの声が聞こえてくる。

「武仁殿! 4日目のログインボーナスですぞ! 今日もスキルなのだが、少しこれまでと勝手が違うスキルですぞ。強者の特権......このスキルを使用すると武仁殿が打ち負かした魔物を使役(テイム)する事が可能になりますぞ! 魔物の世界は分かり易い弱肉強食......そして強い魔物ほど知性も持ち合わせておりますからな、使役(テイム)する魔物次第では心強い協力者となりましょうぞ! まぁ武仁殿の力の前にして協力者など必要ないかもしれませんがな! がはははは!」

そう言うとズチは去った。

武仁は「強い魔物なんかいんのかよ」と言いながらも一方の全は、「魔物使役(テイム)じゃないか」とはしゃいでいる様子だがあまり興味のないスキルに「早く行こうぜ」と武仁が急かすと2人でテントを片付け昨日に引き続きマグマ山を目指して歩みを進めるのだった。

黙々と歩みを進める2人の目前に段々とその巨大な姿を現すマグマ山、しかし人間の視野とはなんとも狭いもので近づくにつれてそこが山だとは分からないようになっていく。

早朝に出発した2人はまだ陽が登り切らないうちにマグマ山の入り口まで辿り着いた。
これまで武仁の第六感は魔物への反応を示さなかったが、ここに来てそれを感知したようだ。
感知するや「魔物がうじゃうじゃいるぞ」と幼い少年のように目を輝かせた武仁はそれを追うかのようにどんどんと山道を登って行く。
全は「お前は疲れを知らないのか」とため息を漏らしながらその後を懸命に追った。

マグマ山を登りはじめると武仁が感知した通りに魔物と遭遇し、はじめこそ楽しそうに勇者の剣(バット)をフルスイングし討伐していた武仁だが、次第にあまりの手応えのなさに「つまんねぇ」とぼやく。
そんな武仁に全は言った。

「......あのなぁ、さっきからお前が倒した魔物の討伐証明拾ってる僕の身にもなってくれ。それに僕は探索依頼だからそんなズイズイと進まれたら探すのも探せないよ」

すると武仁は反省したのか「わりぃ」と呟くと全のペースに合わせながら歩き出した。
肩を並べて歩き始め、全も気を取り直したのか武仁に声をかける。

「依頼書を再確認しよう。武仁の討伐クエストは......バイオレットベア......これはさっきからお前が倒しまくってる熊だからもうクリアしていると思うんだ。討伐証明は倒せばドロップするようだしこれは良い発見だね! それから、僕が受けた探索クエストは、マグマ山中腹部に生息する溶岩蜂(ラバビー)の巣の捜索。毎年溶岩蜂は住み替えをするので今年の生息域を報告する事でクエストクリアみたいだ。」

「そうか、探索対象が魔物なら俺が溶岩蜂を感知すれば全もクリアだよな! 俺......さっきまで先走っちまって悪かったな、ありがとよ」

そう言う武仁は反省したのか全のことをおっさんとは呼ばずに名前で呼んだ。
全も「気にするな僕も薬草採取で先走るから同類だよ」と笑うと、武仁も思い出したかのように「本当だぞ!」と言い笑った。

2人はそれからも湧いて出るバイオレットベアを討伐しながら山の3合目辺りだろうか、色違いのバイオレットベアを見つけた。

「おい! 見てみろよ全! 色違いがいるぜ!」

そう言う武仁に「熊はもういいよ」とうんざりの様子の全だが一応鑑定するとブルータルベアと名前も違うようだ。
しかし相変わらず一発で倒してしまうようで少し上がった武仁のテンションはすぐに落ち着いたが、4合目を過ぎた辺りでようやく武仁の第六感で溶岩蜂を捕らえると武仁は気持ちの昂りを抑えながら全にそれを伝えた。

「そろそろ休憩しないか、サバイバル飯にもありつけなくて今日は何も食べていないし......腹が減っては、と言うだろう」

全がそう言うと武仁も「そう言やぁそうだな」と休憩に合意した。
しかしここはバイオレットベアが湧く場所、休憩中は全が防御結界(シールプロテクト)を使えば良いとしても空腹は凌げない。
そこを解決するのが全だ。

「あの熊......僕の魔法で仕留めれば食べられるんじゃないかな......。そして炎属性魔法の生活魔法で焼けば......」

「おぉ! サバイバル飯じゃねぇか! ......だがよ、全の魔法の威力でまた消し炭になるんじゃねぇのか......?」

まぁ見てて、と言うと全はバイオレットベアに向かって魔法を放った。

「風刃(ウィンドカッター)!」

するとバイオレットベアは綺麗に頭部が切断されその場に崩れ落ちた。

「解体(ディスマンタリング)!」

重ねて魔法を使用する全。
バイオレットベアはみるみる毛皮、臓物、骨、肉など部位ごとに解体されて行く。
解体された中で必要な肉にだけ浄化(クリーン)を唱え収納すると、少しして他の部位は崩れて消滅したが、やはり討伐証明となる毛皮はその場に残っていたためそれも収納する。
全はやはり浄化(クリーン)効果で何らかの作用が魔物にも働くのか、と考えながら防御結界(シールプロテクト)を唱えその場に腰を下ろすと「風属性初級魔法で切って生活魔法で解体と浄化をしたんだ」と武仁に言った。

「お前なんでもありだな......」

と武仁は改めて全の魔法のチート具合に呆けた顔をした。

薪になるようなものを集めないと焼けない事に気づいた2人は手分けして周辺の小枝を集める防御結界(シールプロテクト)を展開している場所に戻ると集めた小枝を中心に置いた。

「着火(イグニッション)」

全が唱えると小枝に火が着いた。
収納から肉を取り出し分けていた枝に刺すと2人は肉を炙る。
火が通るまで時間はかかりそうだが、はじめてのサバイバル飯に2人はご満悦の様子でじっくり焼き加減を見ながらその時間を楽しんだ。

良い具合に火が通り「いただきます」と2人はバイオレットベアの肉にかぶりつくと食べ応えのある肉感に「これぞサバイバル飯」と満足そうに武仁は言ったが「......全がいなきゃできねぇじゃん」呟くと1人ひっそり肩を落とした。

遅めの昼食を終えた2人は難なく5合目を越えた辺りで溶岩蜂の巣を発見、そのポイントを把握すると「いよいよ本命だな」と武仁が言う。

そう、2人の真の目的はサバイバル飯でも討伐クエストでも探索クエストでもない。
ここにあるとリンに言われた火神の大樹へ赴く事だった。