この物語はいくつかの些細な出来事が重なったことによりはじまる。
まず、電信柱の上で配線の点検をしている青年が口にしようとしたキャンディを落とした。
落ちたキャンディは太陽に照らされ、キラキラと光るとその輝きに惹かれカラスが飛んでくる。
飛んできたカラスにびっくりした小学生はコンビニで兄から買ってもらったソフトクリームを歩道橋の上から落とした。
落ちたソフトクリームは宙に弧を描きながら歩道橋の下を通る軽トラックのフロントガラスを汚す。
軽トラックを運転していたお爺さんは視界を奪われ一瞬蛇行しつつもすぐにワイパーを動かし走り去る。
その際一瞬揺れた軽トラックが前日の雨によりできた水溜りを踏むと信号待ちをしていた3人の中高生は盛大に雨水を浴びた。
その横を自転車で通りすぎようとしたサラリーマンは商談が上手くいき直帰出来る事に喜び空いた時間をどう過ごそうかと微笑みを漏らしながら考える。
それを自分たちが笑われたと勘違いした中高生はサラリーマンに絡むと大通りから一本入った人通りの少ない袋小路へ誘導した。
高校生の1人はちょうど親から電話で叱責を受けていて虫の居どころが悪かったようだ、誤解を解こうとするサラリーマンの声は届かず殴りかかろうとする。
そこへ原付に乗ったヤンキーが来たかと思えば大声で止めに入った。
どうやら先にソフトクリームを落とした小学生の兄のようで、ソフトクリームを落とし泣く妹をなだめ終えふいに視線を横に流すとサラリーマンが中高生に連れられて行くところが目につき気にかかり様子を見に来たようだ。
交わらなかったはずの5人がこうして出会った瞬間、突如地面に真っ黒で底の知れない穴が空いた。
その穴は彼らを飲み込むと何事もなかったかのようにスゥっと姿を消す。
これがはじまりのはじまりである。