三日後。

 王家御用達の諜報員により、トムじいさんの身辺が徹底的に調査された。
 その結果、共犯者はいないということが判明。
 ネコネの呪いは彼一人の犯行と確定した。

 そして……

「すみません。お仕事でお忙しい中、このようなところへ来てもらい……」

 俺とネコネは、トムじいさんを再びカフェテリアに呼び出した。

 俺達以外にも客や店員がいるが……
 それらは全てフェイク。
 王家が用意した諜報員だ。

 これなら逃げることは不可能。
 抵抗されたとしても、すぐに制圧できるだろう。

「なに、構いませぬ。姫様のような美しいレディとお茶ができるのは、儂にとってご褒美ですからな」
「まあ、口がうまいですね」

 何度見ても、トムじいさんからはネコネに対する悪意が感じられない。
 でも、彼が呪いをかけていることはほぼほぼ確定した。

 動機が気になるが……
 まあその辺りは、事件を解決してからゆっくりと聞けばいいか。

「それで、今日はどうされたのですかな?」
「悪い。俺がレガリアさんに言って、呼んでもらった」
「ふむ」
「単刀直入に聞く……ネコネに呪いをかけたのは、あんただな?」
「……」

 トムじいさんは朗らかな笑みを浮かべたまま……
 しかし、その身にまとう気配が鋭いものに変わる。

「はて? なんのことですか」
「とぼけるな。証拠は出ている」

 テーブルの上に書類を並べた。

 トムじいさんが呪いに関する魔法書を購入した記録。
 呪いに必要な触媒を購入した記録。
 ……などなど。

 調べれば調べるほど色々と出てきた。
 故に、ネコネに呪いをかけたのは他にありえない、という結論になったのだ。

「これらは状況証拠で、儂が犯人という決定的な証拠にはならないのでは?」
「そうだな。ただ、決定的な証拠をお望みなら、多少時間はかかるが用意してやるさ。ここまで大胆に動いているんだ。絶対に証拠は出てくる」
「……」
「今、罪を認めるか先延ばしにするかの違いだ。どうする?」
「ふぅ」

 トムじいさんは小さなため息をこぼした。
 それから苦笑する。

「まさか、このようなところでバレてしまうとは」
「それは自白と考えていいんだな?」
「うむ」
「っ」

 トムじいさんが頷いて……
 ネコネが傷ついたような表情に。
 状況証拠は出揃っていたが、それでも信じたい気持ちがあったのだろう。

「どうして、このようなことを?」
「姫様のためですな」

 迷いもなく、トムじいさんは即答した。

「……それは、どういう意味だ?」
「魔法は便利な力ではあるが、しかし、時に使用者を傷つける刃となる。とても危ないもので……そのようなものに姫様に関わってほしくなかったのでな」
「……」
「……」
「うん? まさか、今のが理由の全てなのか?」
「ええ」
「……」

 なにを考えているんだ、こいつ?
 あまりに理解不能な回答に、ついつい言葉を失ってしまう。

 その間、トムじいさんはどこか陶酔めいた表情で語る。

「姫様には魔法なんかに関わってほしくないのですよ。それなのに、魔法学院に通うと言い出して……だから、魔法を使えなくする呪いをかけた。そうすれば、魔法を学ぶことを諦めると思ったのだけど……」

 それでもネコネは諦めなかった。
 無能とバカにされても、9年、がんばり続けた。

 ……少し腹が立ってきたな。

「そんな自分勝手な理屈でネコネから魔法を奪ったのか?」
「ええ」
「あのな……そんなバカな話、聞いたことがないぞ。ってか、お前には関係ないだろ」
「関係ありますとも」

 トムじいさんは笑う。
 優しく、慈愛に満ちた表情を浮かべる。

「儂は、姫様のことを実の孫のように思っていますからな」
「あんた……」
「孫の近くに刃物が置かれていたら、誰もがそれを遠ざけるじゃろう? 儂は、それと同じことをしただけのこと。全ては姫様を思ってのことじゃ」

 マジで言っているのか?

「……」

 目はマジだった。

 護衛が対象に親近感を抱くという話は聞いたことがある。
 命を賭けて守る相手だ。
 それなりの情を抱くことは、よくあるのだけど……

 だからといって、本当の孫のように思い、過度に接するなんてこと、聞いたことがない。

「そう、儂がしたことは孫を守るためにしたこと。なにも問題はない」
「なら、解呪するつもりはないと?」
「ない」

 即答だった。

「そっか」

 俺はにっこりと笑い、

「エアロランス」

 ゴガァッ!

 魔法を放ち、テーブルとイスが吹き飛んだ。
 ただ、トムじいさんは驚異的な身体能力で避けていた。
 こうなる展開を読んでいたらしく、あらかじめ身体能力強化魔法を自分にかけていたみたいだ。

「ちょ……す、スノーフィールド君!?」
「悪い、レガリアさん。俺、魔法をこういう風に悪用するヤツ、大嫌いなんだ」

 俺は魔法が好きだ。
 心底惚れている。

 だからこそ……
 こんな歪んだ方法で人を縛りつけておいて、魔法を悪用して、まるで反省していないヤツを見ると我慢できなくなってしまう。

 ついでに……

「すまん、嫌な話を聞かせた」
「……あ……」

 ネコネの頬に指先をやり、流れていた涙を拭いた。

 彼女が泣いているところを見ると、不思議とこちらも腹が立つ。

「さあ、おしおきの時間だ」