「ねぇ、君そんなところで読書って暑くない?」
突然後ろから聞こえた声。声の方向へ振り返ると鈴風のお姉さんが立っていた。鈴風は僕の同い年で幼なじみだ。
「まったくこんな暑い日に外で読書って変わってるね~。」
とお姉さんは僕の方へやって来る。
何で来るんだ。
見たところお姉さんは塾のバイト帰りだ、さっさと家に帰れよ。
「ねえ、君。君ってば。」
隣に座ってきた。
「なんですか。」
「もう~。つれないな~。無視は良くないよ。無視は。」
今、僕は読書中なんだ。ほっといてくれ。
「ちゃんとお水飲んでる?飲まなきゃだめだよ。ほら、お姉さんお水持ってるからあげる。大丈夫、これさっき買ったやつだから。ほらほら。」
僕はお水を持っていなかったのでありがたく頂戴する。水と聞くと一気に喉が渇いてきた。危ない、このままだと熱中症になるところだった。
「ありがとうございます。それで、お姉さんは家に帰らないんですか?」
直球かもしれないが、帰れと伝える。
「帰るよ~。でも君を見つけたんだもん。ちょっとお話でもしようよ~。」
くそ、やっぱり効かない。いつもそうだ。僕の言うことすること全部無視してグイグイくるんだ、この夜宮姉妹は。
「すみません、お話はできないです。話すようなこともないですし。」
すぐさま読みかけのページに目を落とす。
「ちょっとー、なんでよ。高校生なんだから、恋バナ聞かせてよ。君だって好きな人の一人や二人いるでしょ。」
二人はまずくないか。
「ねえ、ねえ、ほら教えてよ。なんでもお姉さん聞くよ。」
「すみません。好きな人いないんで。帰ってもらえませんか。」
もう一度帰れを混ぜる。僕は読書がしたい。
「またまた~、お姉さんには通用しないぞ。」
どうしよう、困った。本当に通用しない。このお姉さん僕が恋バナを言わないと帰らないのでは。
「いや、ほんとにないんで。てか、今日ほんとに暑いですよね。エアコンのある部屋とかに行きたいですよね。」
今度は変化球で勝負だ。こんな暑い中エアコンと聞いたら帰りたくなるはず。ていうか僕が帰りたくなってきた。
「もう、ケチだな~夏くんは。そうだね、じゃあ私の家に来る?」
なんでそうなる。僕が、暑いからお姉さんの家に行きたいです。って行っているように聞こえたのか。そんなのただの図々しいやつじゃないか。
「大丈夫です。僕本読むんで。」
もういいや。諦めて僕は本を読む。隣に人がいるのは少し気になるがいないものとしよう。
「うん、そうね。読書中だったよね、ごめんね、邪魔しちゃって。」
お、帰るか。
「ちなみに、何の本読んでるの?」
帰らんのかい。
「これは、えーっと、ざっくり言うと男女のラブですね。」
「ラブ!?まさか現実で恋愛が出来ないからって本で!?」
失礼だな、
「別にそんなんじゃないですよ。ただこの作者が好きなだけで。なんか今回の新作は恋愛でしたね。」
「へー、内容は?女の嫉妬で殺し合い?それとも浮気発覚で修羅場?2股?」
いままでどんな恋愛してきたんだ。すこし心配になる。
「いや、普通のピュアな恋愛ストーリーですよ。幼なじみの男の子と女の子が付き合って、結婚する話です。」
「へー、、なんか君たちみたいだね。」
「え、」
思わず本から目を離してお姉さんを見る。
「だって、夏くんと鈴風じゃん。」
じゃんって。
「いやいや、全然違いますよ。そもそも二人はお互いがお互いのことを好きで、それで付き合って結婚したんですよ。僕と鈴風はお互いそんな風には思ってないし、そもそもあり得ないですから。」
なぜか汗が止まらない。
「なになに~、そんな慌てちゃって。怪しいな~。」
お姉さんがニヤニヤ顔で僕を見てくる。ゲスい。
「あ、分かった。夏くん、鈴風のこと好きなんだ~。だからそんなに焦ったんでしょう。かわいいな~。」
「なっ、違いますよ。何言ってんすか。」
「あー、顔赤くなってる。かわいい~。」
「あ、暑いんで。」
自分でも分かる。全身の熱が一気に顔に集中したかのように顔が熱い。やばい。だらだらと背中に汗が流れる。
「ねえねえ、妹のどこが好きなの?」
「ちょ、だから違いますって。鈴風のことはそんなんじゃ。」
「そんなんって、何?好きじゃないの?お姉さん悲しいな。」
「いや、別に、、、。」
「じゃあ好きなんだ!」
「ちがっ、、」
ますます顔に熱が集中する。
「嫌い?」
「、、、。」
何も言えなくなって、思わず本で顔を隠す。
「ふふ、ごめんごめん。青春楽しみなよ。」
お姉さんの声が横から聞こえる。そして、立ち上がり僕の隣から気配が徐々に消えていった。帰った。本から顔を話し、思いっきり寝っ転がる。
絶対僕の顔は梅干しのように真っ赤だっただろう。

だって、好きなんだからしょうがないだろ。

お姉さんにバレたかな、まあでも鈴風には言わないだろう。

、、、言わないよな。

不安が心の中に充満してくる。
僕はさっと立ち上がりお姉さんを追い、走る。

暑い、暑い、汗が止まらない。