葵の寝顔を眺めながら僕は考えていた。

 ――もしかして、葵が夢を見るのは、それがこここにあるからで、教室からいなくなれば、葵が彼の夢を見ることはなくなる?


 僕は、シロクマをズボンのポケットに入れて持ち帰った。



 次の日、いつものように、放課後、葵は教室で眠っていた。起きた時、ガッカリしていていつもと様子が違った。

「今日ね、あの人、会いに来てくれなかったの」
「へぇ、なんでだろうね」

 何も知らないって感じの返事をしたけれど、心の中で僕はガッツポーズをした。

 やっぱり思った通りだった。
 家にシロクマを置いてきた。
 ふたりを引き離すことに成功したのかもしれない。

 でも、葵が夢を見なくなったって事は、シロクマはやっぱり葵の夢に出てきていた彼って事? 彼はこれからどうなってしまうのか、気になった。

 
 あれから、葵が教室で眠る事はなくなった。

 けれど放課後、相変わらず一緒に教室にいる。一緒にいたいから。今までと違うのは、葵が起きているという事。彼女と僕は変わらずに今までと同じ席に座っている。席替えをして、もう隣同士ではないのに、一番窓側の席に葵が座り、僕はその隣に。

 葵の夢の中に登場していた彼の代わりに、僕が今、彼女の話し相手になっている感じだ。

 ――もしも彼が、葵の夢の中に現れなければ、今こうして一緒にいる事は出来なかったのかな。

 葵が眠っていても、起きていても、この時間が、空間が、ただ葵と一緒にいられるだけで大好きだった。

 ずっとこのまま、一緒に過ごしていたい。
 卒業を迎えたらもう一緒にいられなくなるのかな?