ぼんやりしていたら、開会の辞は終わっていた。

 国歌斉唱が始まっている。

 私は特に歌うことも、口を開くこともせず、ただ流れに身を任せるようにそこにいた。

 どうせ、卒業式に出ても意味なんてないのに。

 つい、そんなことを考えてしまう。

 名前も知らなければ、肩書きもよくわからない、来賓たちの言葉。

「まだ若い皆さんは、無限の可能性に満ちています」

「どうか、明るい未来に向かって羽ばたいていってください」

 何が、無限の可能性だ。

 何が、明るい未来だ。

 無責任な言葉に、私は腹を立てる。それが、どうしようもなく自分勝手な感情だとわかっていたけれど。

 ……やっぱり、卒業式なんて出なきゃよかった。



※試し読みはここまでです。続きは書籍でお楽しみください。