「あの……すみません」
「は、はいっ!」
思わず背筋を伸ばして、私はいい返事をする。
「消しゴムって、余分に持ってたりしません?」
緊張感のかけらもない、朗らかな声だった。
素直に答えるとすれば、持っていない、となる。でも、きっとこの人は、私が消しゴムを余分に持っているかどうかを知りたいわけではない。
「えっと、持ってないです……けど――」
そう答えつつ、色々な考えが頭の中をめぐる。
おそらく、この人は消しゴムを忘れてしまったのだろう。私が同じ立場だったら気絶しているかもしれない。なんとかしてあげたい。でも、消しゴムは一つしかない。鉛筆なら予備のものも多めにあるのに……。
「これでよければ」
私は持っていた消しゴムを半分に折って差し出す。半ば反射的にとった行動だった。
「わ、いいんですか? ありがとうございます!」
いやホント筆箱から消しゴム出てこなかったときはマジ焦ったわ~でも助かった~と、まったく焦った様子に見えないその人は、隣の席に再び座った。
おかげで、私もだいぶ緊張がほぐれた。
今思えば、私が合格できたのは、その人のおかげかもしれない。