帰宅してから父親に交際の希望を先方に伝えてくれるように頼んだ。父も彼女を気に入っていた。父はすぐに彼女の母親へ電話を入れたようだが、返事を留保されたと言っていた。

実家に一泊して僕は日曜日に東京へ帰ってきた。奈菜からの返事を待っていたが、なかなか来なかった。それで悪い予感はしていた。

3日後の水曜日、帰宅するとレターパックが郵便受けに入っていた。開けてみると、父親からの手紙、それに封をした奈菜からの手紙が入っていた。

父親の手紙には先方が断りを入れてきたと書かれていた。また、良い人がいたら紹介するから心配するなとも書かれていた。奈菜からの手紙には断った理由が書かれていた。

『植田健二様 こんな私を好きだと言って、お付き合いの申し出をいただきありがとうございました。また、初めて出会ったようにお付き合いを始めたいとも言っていただきました。とても嬉しかったです。ただ、私はこの申し出をお受けできません。あなたは私の過去も未来も自分のものにしたいと思っていらっしゃるのでしょう。でも私の過去をあなたのものにすることはやはりできません。それは私の負い目でもあります。私はあなたとお見合いをして、初めて出会った方とお付き合いをしていける自信ができました。あなたには私よりももっとお似合いの女性がいるはずです。どうかその方を面倒がらずに探してください。 新野直美』

やはり、断られた。僕は彼女にとって良い客の一人に過ぎなかったのかもしれない。僕は彼女と何回もHをしたが、一度もいってくれなかった。それは間違いない。もともとそういう体質かもしれないが、それが唯一の不満だった。ひょっとするとそれが彼女のプライドだったのかもしれない。

彼女は自分の過去にこだわって断られるかもしれないお見合いを僕とあえてしてくれた。その理由が分かったような気がした。自分の過去と僕を見極めたかったのだと思う。彼女には良い結婚をして幸せになってほしい。

僕はそれからというもの、気力がなくなって、風俗に行くことを止めた。すべてが空しくなった。一時は男の抜け殻のようになってしまった。