何度ギルバートの告白を拒んでも、彼は変わらず優しい。ずっと幻想的でキラキラした夢を見せてくれる。
 私を守るために、彼は常に純銀の剣を持ち歩く。人狼の弱点が銀だという伝承は本当のようだ。他の人狼に襲われたときに確実に私を守るためのものだと彼は言った。
 人狼の居住地域を歩くときは、ギルバートは変装をしない。他の魔物に比べれば人狼は位が高いが、人狼にも平民と貴族がいる。平民街の広場にはギルバートの家の庭の花と同じ花が咲いていた。花に囲まれて人狼の子ども達が遊んでいた。
「王子様だあ!」
 私たちに気づくと、人狼の子ども達が、ギルバートを歓迎した。彼は民に慕われる王子らしい。
「一緒にいるのはお姫様?王子様はそのお姉さんと結婚するの?」
「さあ、どうだろうね?そうだったら素敵だね」
 ギルバートは少年の頭を優しく撫でた。その瞳は慈愛に満ちていた。彼は国民を心から愛しているのだと伝わってきた。
 少女達は、花で首飾りを作ったり、花の蜜を吸ったりしていた。少女達はギルバートに次々と手作りの花飾りを渡していった。
「お姉ちゃんにもあげる、美味しいんだよ」
 無邪気な顔をした少女が、私の唇に花を押し当てた。

 その瞬間、全身に激痛が走った。心臓を悪魔に鷲掴みにされたような苦しさが襲い、息が出来なくなった。「死」を五感に刻みつけられるような感覚に襲われた。
 突如、ギルバートが刀を抜くと、即座に自分自身の左肩から胸を袈裟斬りした。噴水のような血飛沫を目にしながら、私は意識を手放した。
 夢の中で、私はギルバートにキスをされた。鋭い牙を持った狼男とは思えない優しいキスだった。
「ミサ、どうか生きて。どうか目を覚まして」
「ギルバート様、泣いていられるのですか?」
「貴女を失ったら、私は生きていけない。愛しています」
「ギルバート様、私も貴方を……」
 私は何と言おうとしたのだろう。