気づけば、大学の空き教室で寝ていたらしい。揺すられた感覚で目を開ければ、友人のタクトが目の前に立っていた。

「大学で寝てるって珍しくない?」
「最近寝ても寝ても眠くって、講義の時間迫ってる?」
「あ、いや、ううん。ちょっと相談合って起こした。ごめんな」
「いいよ、なに?」

 イスに座り直してタクトと向き合う。頭の中ではりっちゃんのことを考えながら。リッちゃんのために俺がしてあげれることって何か無いのだろうか。

 たかだか夢。されど夢。夢に対して真剣に考えて何やってんだろう俺。

「春希に相談するべきことかもわかんねーけど、自分一人で考えても、何も思い浮かばなくて」
「おう?」
「来月の発表会に出す作品が、思いつかないんだよ」
「珍しくね? タクトっていつもどういうの作るってすぐ思い浮かぶタイプだろ」

 来月の発表会という言葉に、頭の片隅でテーマを思い浮かべる。確か「自分と共に成長する家」だったはず。簡潔にまとめれば、どんな年代になっても、自分が住みたいと思える家を考えましょうってことだ。

「俺が住みたいってわかんねんだよな。なんかこう、悩みに対して解決するアプローチを考えましょうとかなら分かるんだけど。俺がってなると急に分かんなくなるわけ」

 タクトの言葉を聞きながら、リッちゃんの悩みと似てるなと思う。自分らしい、自分が好きなもの、ってなんだ? と悩むのはやっぱりあるあるらしい。

 かと言って僕が住みたい家は一言で言い表わせるものでもない。僕もまだ検討が付いてない。

「あのさ、僕も悩んでるんだけど」
「あーごめん、そんな春希に相談して」
「一緒に好きなこと探しから始めない? 食べ物でも、趣味でも、楽しいと思えるものを出来る家にしたらいいと思う。根本的に好きな理由を突き詰めていこうぜ。人に話し始めたら分かることもあるし」
「めっちゃ良い提案じゃん。じゃあ今日ご飯行こうぜ、俺の好きな焼肉屋。どうして好きかは、一緒に考えてくれよ、奢るし」

 タクトの「奢るし」という最後の言葉に、すぐさま頷く。正直奢ってもらって焼肉を食えるなんて美味しい話を逃すてはない。

 メモ帳を広げて「好きなことを突き詰める」「人に話してみる」と書き出す。忘れないように、リッちゃんに届ける方法はわからないけど。

 リッちゃんは何が好きなんだろう?