ある雲一つない夜だった。
「あれ、何だろ。」
 その声を発したのは、森の近くの寮に住んでいる12歳の少年アキ。
 アキは森の異変に気が付いた。鳥が騒ぎ、シカや猿が怯えて森を飛び出してきたからだ。
 奇妙に思ったアキは寮を抜け森へ行くことにした。
 森の入り口まで来ると、アキが来たからもあるのか猿が怯えているのが分かった。
 アキは警戒されないように目を逸らしながら森へ入った。
 森の中心部まで来ると、じぶんと同い年くらいだろうか少し小柄の少年がいた。
 「大丈夫ですか。」
 アキが言うと少年はアキに気が付き、
 「僕は大丈夫です。」
 「僕はアキ。この近くの寮に住んでる。どうして君はここにいるの?」
 アキは、普段人と関わることが少ないので、少し雑な自己紹介をした。
 「僕はベリル。ハルセから来たんだ。」
と、ベリルが言うと、アキが、
 「ハルセってあの雲にある国のハルセ?」
おとぎ話でよく聞かされた雲にある国のハルセ。存在しているなんて夢にも思わなかった。
「うん。僕の前世は古代の英雄らしくて、神様から不思議な力をもらったの。
その力っていうのは、人を幸せにできる力なんだ。
それで、人を幸せにしようと思って、白馬に乗ってエメラ大陸に行こうとしたら、バランス崩してここに来ちゃったの。」
 と、ベリルが説明すると、話を聞きながら夜空を見ていたアキが、ベリルの顔を見て、
 「僕、ベリルの人を幸せにするを手伝うよ、ちょうど、学校は今夏休みだから。」
 と言い、ベリルが、
 「僕が幸せにしたいのは、オリブ女王なの。最近、最愛の人を亡くして、悲しんでいたでしょ。」
 と言ったが、アキは、
 「どうやって行くの?だって、女王様がいるのは、エメラ大陸の首都ヨセチのエメル城だよ。どうやっていくの?」
 と言うと、ベリルが、
 「漁師さんの船に乗せてもらおうよ。ここら辺じゃ船なんてめったに来ないでしょ。」
 と答えると、アキは、
 「今から行くのは無理だから、寮に泊まりなよ。」
 と言い、二人は寮で一晩を過ごした。
 翌朝、二人は朝早くに起きて、外に出た。
 港で漁師に船に乗せてもらい、エメラ大陸に着いた後に、海の近くにある小さな宿屋に泊まることにした。
 翌朝、二人が起きて、女将さんのところに行くと、女将さんが、
 「不思議なこともあるんだねえ。」
 と言って、気になった二人は、女将さんの持っている新聞を覗き込んだ。
 新聞には大きな文字で、"奇跡か?不漁中に起きた超大漁''そして、一回り小さな文字で~きっかけは二人の小さな少年!?~とかかれ、内容は二人の小さな少年をエメラ大陸の港下ろした後、漁をしたら、不漁の時期とは思えないほどたくさんの魚が捕れ、中には市場に出すと一匹に万単位で競われる魚も数多く捕れたらしい。
 二人は漁師に幸せが訪れたことを祝いながらエメル城へ向かった。
 だが、女王に会うには数時間かけて許可を取ってからではないと会えないといわれ、ベリルは
 「ハルセではいつでも会えるのに。」
 と頬を膨らませていた。
 すると、宿屋の女将さんがかけてきて、どうしたのかと二人が言うと、女将さんは興奮気味で、
 「ついさっき電話や手紙で予約が入ったんだけど、そうしたら来年まで予約でいっぱいになっちゃったのよ。それで、まだまだ予約の電話がいっぱいあるから改築の許可をもらいに来たのよ!」
 そういうと女将さんは駆け足で城に入っていった。
許可はもらえたが、会えるのは数分だけという決まりだった。
「どうしようベリル。会えるのが数分だけだよ。」
ベリルも困った表情をするのかと思ったが、ベリルは大丈夫と言わんばかりの笑顔を浮かべ、
「大丈夫。相手を幸せにするにはその人の幸せそうな表情を思い浮かべれば大丈夫なんだ。」
と言い、オリブ女王のいる部屋へ向かった。
ベリルは部屋に入ると一礼をし、
「オリブ女王様。あなたに今の悲劇以上の幸福が訪れることを約束しましょう。」
と言うが、オリブ女王様は、
「もう私は幸福になることはできません。」
と静かに言い、約束の時間は過ぎ、ベリルとアキは部屋を出た。
するとベリルは船着き場に向かい、
「明日には朗報が来るよ。君の寮へ帰ろう。早く行かないと朗報を聞きのがしちゃう。」
二人はその日中に船に乗り、前よりも少し高い波に揺られながらアキが通う学校の近くの港へ向かった。
港に着くと、いつも以上に港は盛り上がっていた。
「号外だよ!号外!オリブ女王様が子供を授かったよ!」
その声と共に刷りたての新聞が宙を舞った。
アキの方に飛んできた新聞を掴んで新聞を見てみると、''オリブ女王様第一子を妊娠''と大きな字で書かれており、小さな文字でもくもくとオリブ女王が妊娠したこと、町の人の歓喜の言葉が綴られていた。
アキは思わずベリルのほうを向き、
「やっぱベリルの力はすごいや!」
というとベリルは照れながら、
「そんなことないよ。」
といった。
世界中がきっとこの瞬間、幸せに包まれたのだろう。
その時、時が止まったのか、全てが凍り付いた。そして、幸せそうな二人の少年も、女王も、何もかも消え、代わりに小さなタブレットが置かれた冷たい机と、シンプルな部屋。そして、一人の青年。
青年がハァッとため息を漏らし、電話をかける。
「もしもし、監督ですか、例の映画なのですが、やはりヒットを狙うのは難しいかと...」
『やはり、文明が進み過ぎた星はいい映画も撮れないな。君は解約をしてくれ。また新しい脚本を書くから。』
ツー、ツー、ツー。
青年は電話をまたどこかへと掛ける。
『はい、こちら本部センターコールカウンター。ご用件は何でしょうか。』
「TI9-801スタジオの解約をお願いします。」
『承知しました。』
何を思ったのか、青年は少しの沈黙の後にこう言う。
「あの、僕達が使用をやめたらTI9-801は廃止されるんですか?」
『そうですね。使用率がここ数年一パーセントを下回っているので、本部は補助を止め、TI9-801は廃止となります。』
「補助というのは...」
『自然に丁度いい文明が発達するのを待っていると時間がとても掛かりますので、本部が全ての星に文明促進、保護の補助をしているのです。』
「じゃあ、つまり、補助がなくなるというのは、」
『徐々にTI9-801は滅んでいくということです。』
「...」
プツン。
ガタッと机が一瞬揺れる。そして小刻みに地面が揺れ始める。
「ブツッ」電気がきれ、辺りは暗闇になった。





「ハーイカット!じゃあみんなはやくこの星から出てー!」
揺れる宇宙船の中、ふくよかで「監督」とよばれる男がついさっきまでいた星を眺め、
「きっとこの映画はヒットする。みんな娯楽に飢えてるんだから。」
と呟き、ふーっと溜め息を漏らし、出費を見る。
「いくら緊迫感を出すために、って言っても、星を廃止してもらうのはけっこうなお金がかかったな...まぁ、これがヒットすれば、出費以上の利益がでるはずだから、大丈夫。」

彼は知らなかったのだろうか。それとも、知っているにも関わらず、まだ人が何万人、何十万人いた星をほろぼしたのだろうか。
そして、この映画を見る人は、この映像の裏で何人人が死んだと思っているのだろうか。

                                        おわり