坂本菜々と俺は、同じ高校出身の元クラスメートだった。
高校時代の菜々はおっとりとしたおとなしい雰囲気の子で、クラスの賑やかグループにいた俺とはあまり関わりがなかった。そんな菜々と俺が関わるようになったのは、大学入学後に学部ごとで行われたオリエンテーションのとき。
地元を離れて進学した東京の大学は、あたりまえだけど知らない顔ばかりで。そのなかに偶然菜々の姿を見つけた俺は、見知った顔にほっとして彼女に声をかけた。
知らない人ばかりで心細かったのは菜々も同じだったらしく、俺の顔を見た瞬間、彼女もほっとしたように笑顔をみせた。それが、俺と菜々が親しくなったキッカケ。
地元を離れてお互いに大学の近くで下宿生活をしていた俺たちは、ときどき一緒にごはんを食べに行くようになった。
菜々は優しくていい子で、彼女といっしょにいると自然と心が癒された。菜々と仲良くなってから、彼女を「好きだ」と思うようになるまで、それほど時間はかからなかった。
ふたりでごはんを食べに行った帰り道、ドキドキしてヘタクソな言葉でしか伝えられなかった「好き」の気持ちを、菜々は恥ずかしそうに笑いながら受け入れてくれた。
菜々と付き合うまでの俺は、彼女ができても長続きしないことが多かった。ケンカばかりしてうまくいかなかったり、付き合いだすとお互いに気持ちが冷めてしまったり……。
だけど、穏やかな性格の菜々とはほとんどケンカをすることはなくて。一緒にいればいるほど菜々を好きだと思う俺の気持ちは大きくなった。