ほんとうだったら、バイトが終わったあと彼女と待ち合わせをして、予約していたオシャレなイタリアンレストランでディナーを食べて、指輪をプレゼントするつもりだった。ちょうど、佐藤菜々が右手の薬指にはつけているのとよく似たデザインの……。

 でも、世界は俺の思ったとおりには回らない。

 佐藤菜々が家族で幸せな誕生日を過ごす今日は、俺にとって恋人に振られた最悪な日だ。

 俺は佐藤菜々と男の子に向かって頭を下げると、今度こそエレベーターのほうに向かった。